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異世界無双血風録  作者: 大五郎
第17章 神竜編
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69 白竜は招くⅣ

設定説明回です。

峻険な山脈が世界の最果ての壁として天高くそびえ連なりその麓の丘陵から白竜族の拠点である石造りの街並みが扇のように広がっていた。

境界警備のトカゲ人(リザードマン)のリーダーに案内され勇気達一行は街の中を進んでいく。

トカゲ人(リザードマン)達と遭遇して一日程度で街に到着していた。

運動能力を試すためか地味な嫌がらせなのかトカゲ人(リザードマン)達は全力疾走していたようだが体力も魔力もほぼ回復し魔力による補助で潜在能力を全開で引き出し続けられ身体強化でその底上げも可能な勇気にとって問題とはならなかった。

ツォウリ達もただ疾走するだけならトカゲ人(リザードマン)に劣る事もなく付いてくる事が出来ていた。

寧ろトカゲ人(リザードマン)達の方が消耗してバテ気味であった。

「白竜族は敵対関係のあるなしを問わず他種族を受け入れているって話しは聞いていたんだが・・・」

街中をトカゲ人(リザードマン)達に混じって様々な種族が行き交っている。

蛙人、鰐人、半魚人など竜族系のゴツイ従属種族から狼人、猫人、狐人などの神族系の見目良い従属種族まで雑多な種族が混在していた。

天使の記憶からも兎人と同じように無茶な参戦命令に異義を唱え粛清を受けた幾つかの種族が白竜族の領域(テリトリー)に逃げ込んでいるのは分かっていたが竜族系の従属種族も多いように見えた。

天使の記憶では白竜族の主な従属種族はトカゲ人(リザードマン)達であって他の従属種族は竜族最大勢力の巨竜族に仕えているはずであった。

「参戦の締め付けで行き場を失った神族の従属種族が流入しているのは分かるが他の竜族の従属種族までいるのはどうしてなんだ?」

「神族と同様に巨竜族も従属種族に参戦を強要し少しでも逆らった種族が粛清されております。白竜王様は戦闘力の低い種族を前線に投入するのも逆らったからといって粛清して無駄死にさせるのも合理的ではないと白竜族の領域(テリトリー)に逃げ込んでくるのを拒まなかったためこうなっております」

先導しているトカゲ人(リザードマン)のリーダーが勇気の問い掛けに答える。

どうやら神族と竜族の二大勢力の主流派はどちらも同程度の暴君であるらしい。

そして白竜族については大量虐殺に積極的に加担しない程度には理性的のようであった。

ツォウリ達の庇護を白竜族に押し付けるつもりの勇気としては好材料といえよう。



「こちらです」

街の最奥、扇の根元に当たる部分に巨大な城塞が山腹を背に丘陵に建っておりその中に案内される。

竜の鎧(ドラグーン・アーマー)でそのまま立って歩けそうな石造りの壮厳な廊下を通り城塞の内の大広間に辿り着いた。

大広間の中央には淡く光る球体が何の支えもなく浮かんでおり広大な大広間全体を薄明かりで照らしていた。

壁際には巨大な桟敷が並んでおりそこに二十m程の大きさの白っぽい龍鱗を持つ竜達が何百体となく寝そべっていた。

西洋竜タイプで背中の翼は折り畳まれている。

「白竜王様、お申し付けの者を連れて参りました」

トカゲ人(リザードマン)のリーダーが正面中央にいる一際白い白竜に向かって告げた。

他の白竜達はやや灰色掛かった体色であったが白竜王と呼ばれるその個体だけは白磁のような白さであった。

「ウムッ・・・、お主がそうか・・・」

白竜王は頭を上げじっくりと勇気を見下ろした。

落ち着いた蒼く澄んだ目は高い知性を感じさせるがどこか物憂げでもある。

「その小さな身体に竜族を凌ぐ強大な魔力、巨竜の龍鱗と牙から造られた鎧と剣、確かにお主は”勇者”のようだな」

「なるほど、勇者召喚魔法(・・・・・・)を使ったのはお前か。しかもそこまで俺の情報を特定しているところをみると・・・」

「勇気さん!」

大広間の勇気達が入ってきたのとは反対側にある入り口から一人の少女が現れ叫んだ。

その少女は勇気に駆け寄りガバッと抱き付いてきた。

「やはり加奈か」

その身体を抱き止め勇気が呟く。

「私!私・・・」

「状況は大体分かる。最後に会ってから加奈の主観時間ではどのくらい経った?」

言葉に詰まる加奈に優しく語り掛ける。

「・・・一年です。向こうで半年、こちらで半年」

「俺の方は十日も経っていない。そっちでの片はついたようだな。だが送還魔法を弄って過去に跳ばなければならないところまで追い詰められたか。やはり紗耶香が?」

「はい、紗耶香ちゃんが最後の敵と相討ちになって・・・、私、どうしても我慢出来なくて・・・、それで・・・」

「分かった、分かった。よく頑張った」

ポンポンとその背中を叩いた。

加奈が嗚咽混じりに語ったところによると紗耶香が相討ちになった最後の戦いの後どうしても紗耶香の死を受け入れらず元の世界への帰還を諦めシオンの補助で送還魔法の時空間座標を大空洞の魔結晶が造られたこの百万年前の世界に変更したとの事だ。

肉体を棄て精神体となり送還魔法の力を使って時を遡りこの世界で魔結晶を造った白竜王の元に辿り着き知識を得るためその動向を探っていた。

しかし白竜王にあっさり存在を看破されその膨大な魔力で受肉化されてしまい捕まって洗いざらい情報を引き出されてしまった。

その情報から惑星規模の破壊をほぼ一人で食い止めた勇気の存在に非常に興味を持った白竜王は加奈に取引を持ち掛けてきたのだそうだ。

同じく加奈から得た勇者召喚魔法の情報を元にカスタマイズした召喚魔法を構築して敵母船を破壊して全魔力を使い果し死の淵に陥っているであろう勇気をこちらの世界に引き込んで救いその代わり存亡の危機にある白竜族への助力を勇気が行うという取引であった。

「勝手に約束してご免なさい。でも私にはそれ以外に方法がなくて・・・」

「それは気にしなくていい。あの場を切り抜けて生きていられるだけでも御の字だ。元々のプランでは過去を改変して死ななかったとしても意識の連続性は期待出来なかったからな」

そして勇気は白竜王を仰ぎ見た。

「で?俺にどうしてほしいんだ?」

「これから起こる大戦で滅亡する運命にある我ら白竜族を救ってほしい」

加奈が話し終わるまで黙って見ていた白竜王が勇気の問いに答えた。

「我ら白竜族は魔力においても純粋な戦闘力においても巨竜族に遥かに劣っている。だが我らは知恵を磨き知識を深めこの世界を生き抜いてきた。魔結晶など魔道具の製作、竜族における眷族や従属種族などの生命創造魔法は我らの叡智により生み出されたものだ。そしてもう一つ我らには特殊な力がある。それは未来視という力だ。大まかな未来予測を映像の如く見ることが出来る。召喚時に言語知識付与と一緒にお主に送った光景は我らが予知した絶望の未来だ。来るべき大戦に勝者はいない。我らは滅びを回避したいのだ。そのために力を貸してほしい」

「未来が見えるのなら自分達の力だけでどうにかならなかったのか?」

「未来は無数に分岐を持つが中立を貫く、竜族と神族の調停をする、竜族を裏切って神族につくなど色々な未来を見てみたがいずれの場合も大戦より前にどちらかの勢力もしくは両方に滅ぼされる未来しか見えなかった。どちらの勢力も相手を滅ぼし尽くす事しか考えずそれに反する者を許すつもりもない。我らの力だけではどう足掻こうと滅亡の未来を回避する事は出来ない」

「あの光景を見た限りでは俺が手を貸してもどうにかなるようには思えないが?それとも俺が手を貸せば滅亡を回避出来る未来でも見えているのか?」

「いや、未来視はそこまで万能ではない。見えぬ未来もある。加奈の存在もお主がここに現れる未来も見えてはいなかった。我らに見える未来に絶望しかないのならあえて見えぬ未来に賭ける事にしたのだ」

「話しはだいたい分かった。しかし勇者召喚魔法は術者やそれを命じた者の命を刈り取るはずだがどうするつもりだ?」

「加奈から得た情報を元に勇者召喚魔法の術式を解析して分かった事だが召喚に必要とされる魔力量は召喚を行った者やそれを命じた者の全魔力を死に至るまで絞り尽くしても全然足りない。これを賄うためにそれらの人間の魂、高密度で編まれた魔力を溜め込む器まで魔力に変換して召喚に使っている。つまり召喚主の魔力量が十分ならその魂まで魔力に変換する必要はない。そこで我らは白竜族全ての魔力を結集してそれに当てた。加奈の受肉には我のみの魔力でなんとか賄えたが本来なら手の届かない隔絶した時空間の壁の向こうにある特定の存在をこちらに引き寄せるにはそれだけの魔力が必要だったのだ。お陰で今我らの魔力はお主を召喚してからこの一週間で回復した分しか残っていない」

「俺もこちらに召喚された時は殆ど魔力は空だったがこの一週間でほぼ回復したぞ?」

「殺した相手の魔力の器である魂までその魔力と共に奪い取り自らの魂に吸収・融合して魔力容量を増大させ回復力も我が物としてしまう勇者と違ってこの世界の生物はたとえ魔力容量が大きい竜族であってもゆっくりとしか回復しない」

「シオンの言っていた”魂喰い”とはそういう意味か。道理でその事を最後まで黙っていた訳だ。人間を殺しまくった俺は今更気にしないが勇者によっては精神的な人喰いにされたと知ったら自暴自棄になったり怒りや憎悪で世界を滅ぼしかねないからな」

「同族喰いは我らにとっても禁忌だが”魂喰い”はなお悪い。意識を持つ生命体は魂を持ち死ぬと魂だけの精神体になるが肉の器を持たぬそれは感情を持たず受動的に世界を漂うだけになる。そして肉の器を失った状態では魔力が徐々に漏出していき魔力で保持されている記憶も消えていき魂の外殻を残して白紙に還る。そうして新たに生まれる同じように白紙状態の生命体に同調して宿りこの世界に再び生を受ける。生命は外から魂が宿らなくても新生時に自然に魂を形成するがそれに外から魂が同化融合すれば魔力容量が増大していく。原初の生物が我ら竜族や神族に至るまで強大な魔力を有する存在にまで進化したのもそのためだ。その魂の循環を断ち切り霊的な進化を破壊する”魂喰い”は最悪の禁忌であると言えよう。シオンという魔導師も術式として扱えるのならそれを知らぬ訳でもあるまい。その結果を利用しようとする我らがそれを非難する筋合いではないがな」

白竜王は人間のように器用に肩を竦めた。

「しかしそれなら加奈はどうなんだ?彼女は長時間精神体のままでも己を維持出来るしある程度その状態でも能動的に動く事が出来るぞ」

「カナの魂は普通の生命体より遥かに高密度の魔力で編まれている。そのため魔力で保持されている記憶も失われる事もない。記憶の消失がなく肉の器を持っている時に近い安定状態にあるため元々人の意志で具現化しやすい魔力が疑似物質化現象を起こしある程度まで生きている時に近い状態で自律的に動けるのだろう。その分魔力制御に長けた者にはその存在を感知され易くなるのだが。そしてその魂の強靭さ故に膨大な魔力を内に溜め込む事が出来る。もっとも元々の魔力の回復量が増える訳ではないので魔力譲渡されなければ膨大な魔力を得る事は出来ないし使えば目減りし回復する事はない。今回のお主の召喚にあたって術式起動のため我ら白竜族の魔力全てを一ヶ所に集める必要がありカナに協力してもらいもした」

「加奈にえらく危ない真似をさせたものだな。術式のカスタマイズを誤っていたり制御を失敗したら加奈は魂までも粉々に砕け散っていた」

「この召喚に失敗すれば我々も後がない。魔力を大きく失ったまま他の方策を探る間もなく大戦の前哨戦が始まり大戦の終わりを見るまでもなく滅び去っていただろう。一蓮托生なのだよ。そしてお主がここに辿りついた以上、我々は賭けの半分には勝った。後はお主の意志しだいだ」

「・・・分かった。結果的だがそれだけの危険を冒して命を救ってもらったんだ。幾つかの条件は付けさせてもらうが白竜族が生き延びるためために協力しよう」

こうして勇気は新たなる戦いに挑む事となった。






今回は取り敢えずここまでです。

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