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魔界

 東の空に(あか)い満月が浮かび、同時に南に蒼い半月、西に碧の細い月が存在する。三つの光が入り交じり、うっすらと紅い、透明な明かりとなって辺りを照らす。

 植物は人間界と殆ど変わらないものの、やはりどこかに違和感がある。

 そして圧倒的な『魔』の成分。通称『魔素』。魔界の空気中にまるで窒素の代わりのように存在しているそれは、本来人間の力を奪い、不快な気持ちにさせる筈だが、一切そんなことは無い。

 ――魔界に来たのだと、

 ――自分は魔王なのだと実感する。

 ハーフのセイラは不快感を露にしていない。やはり魔族の血をひいているのだろう。するとやはり、純正の人間でありながら、俺が魔素を吸っても平気な理由は、ジョブが魔王であることが関係していると思われる。


「……月が紅いです」


 セイラがそう言う。まあ平気なのと、驚く驚かないは別問題だ。セイラが言わなかったら俺が言っていただろう。

 形容するならば血のような紅。

 空を眺めていて、体が揺れた時、ローブの中で偶然に魔剣ゲンデュルに触れた。刃も鞘も無い筈なのに、カタンと音がして、鈍く黒く光った気がした。


「行きますよ。魔王様、セイラも」


 このタイミングでカミングアウトするのかよ。魔界に来たからには魔族として、ってことだろうか。

 驚愕を隠せないセイラに説明するよりも先に、アルタイルの移転魔術が発動した。魔法ではなく魔術なのは、次元の違い上の都合だろうか。



 俺達が降り立った場所は、物凄い賑やかと思われる都市の城壁の前だった。直接街に移転しないのは恐らく、事故を防ぐ為だろう。


 ┌──────────────

 │サインクルフ

 │魔界大魔王帝国帝都

 └──────────────


 間違いなく首都だ。そして俺の居城となる城がある。そう思うと、夢と希望と不安が膨らむ。

 しかし俺の心情はまだましだろう。俺は覚悟というか、自分で望んでここにいるが、セイラは違う。連れてきたのはこちら――アルタイルの都合だ。まあしかし、俺としては嬉しい誤算なので、同情はするが止めることは無い。むしろ利用してフラグを建てたいと思っている。


「おい、貴様! ここを通りたければ身分証明と、各領主からの許可証を提示しろ」

「魔王親衛隊隊長のアルタイル=ブラックだ。この度ついに新魔王を発見した為、サインクルフに帰ってきた。門を開けろぉ!」


 閑話休題。俺が無駄な思考を回している間に、アルタイルは警備兵に概要を軽く説明した。警備兵は疑っていたが、上司らしき男……雄(?)が出てきて、人物鑑定を使ったことにより数分待ったが解決した。

 警備兵の一人が「新生魔王が現れたぞぉ! アルタイル卿も帰ってきたぁ!」と街に向かって叫んだ。直後、小さな扉ではなく、重そうな大きな木製の門が開く。――視界が開け、不思議と気分は高揚した。

 ワッと歓声があがる。ざわついた雰囲気の中、ただただ城へ続く一本道のメインストリートの中央だけは空いていて、両脇に沢山の魔族が歓迎をしてくれている。前列はコボルトやドワーフ、真ん中は普通の大きさの者、後列はゴーレムや巨人がそれぞれの大きさに合わせて、一目でも俺らを見ようとしている。


「賑やかで――楽しそうな街だな」


 自然と出た言葉。無意識に口角が上がり、笑顔になる。前世の街よりも、小さい頃に行った人間の国の王都よりも、ずっと楽しそうでワクワクする。


「そうでしょう。人間の街よりずっといいですよ」

「コノ街ハ最高デス」


 ゴビーとタイソンが聞いていたらしく、相づちを打ってくる。しかしそれは本心からの相づちだと思えるなにかがあった。

 一人セイラが困惑しているが、あとでアルタイルがなんとかするだろう。


「本当にな」


 二人の言葉に軽く答え、ローブのフードを取って軽く手を上げる。すると凄まじい歓声が再び起こった。

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