雑談
装備を整えた後は、使い心地を確める為に森に入り、スライムを数匹蒸発させてきた。何故スライムかというと、あの半液体の単細胞生物ならば、残酷な映像にならないからだ。つまりは精神衛生上の問題である。
それはともかく、多少はレベルも上昇した。
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│フェル=V=ヒューズ(ヒューマン族・男)
│ジョブ/魔王(Lv.8)
│スキル/鑑定
│装備品/白金のワンド、魔剣ゲンデュル、ダマスカス鋼の額金、魔術師のローブ、絹の服、革の靴、魔導師の首飾り、魔力の指輪、ミサンガ×5
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装備品の枠が酷いことになってるよ。ミサンガなんて省略されているじゃないか。逆にジョブやスキルの枠が寂しい。
というわけで、家に帰って、セイラと突然登場したゴビーが料理を始めて、俺がそこに乱入して、めちゃくちゃおいしい飯を食って、なんやかんやでかたずけが終わって、寝るまでの間の食休みに、アルタイルにジョブについて質問をした。
「まず最初に、1st.ジョブは基本的に変更できません」
ああ、そこは薄々察してた。しかし基本的ということは、例外もあるんだろう。
「基本的、とはどういうことだ?」
「ジョブに種類があるのは知っていますか? 例えば戦士系、魔法使い系、聖職者系などです」
まるでゲームみたいだな。ということは、同じ系統内なら変えることもできるのだろうか。
「そして、同系統の直接の下位ジョブと、成ったことのある同系統ジョブにはいつでも成ることができます。上位ジョブに成るには、ある程度極める必要があります」
ある程度極めるというのは、レベルという概念が無いからだろう。俺と同等かそれ以上の『鑑定』スキルを所有していないかぎり、レベルを知ることはできない。その結果、「ある程度極める」といった曖昧な内容になったのだろう。
「成る程な。それじゃあ2nd.ジョブは?」
「なにかしらの条件を満たした状態で、神殿へ行きます」
やはり神殿なのか。すると1st.ジョブの変更も神殿なのだろう。しかし神殿である必要がわからないが、まあ、教会あたりが御託を並べているんだろう。魔族はリアルに邪神やら魔神やらの加護を受けてそうだが。
他に手に入った情報は、『種族固有型専用ジョブ』なるものが存在するらしい。実際は数種族が就けるものもあるらしいので、専用という言葉が正しいかは不明である。
しばらくの間、話を続けていると、セイラがお茶を持って入ってきた。
「お父様もフェル様も、そろそろお休みになったらいかがですか? 蝋燭も勿体無いですし」
そう言ってお茶の入ったカップを机に置く。
いやいや、そう思うなら何故お茶を持ってきた。紅茶と烏龍茶の中間くらいか。飲まないといけない雰囲気になるし、カフェインが入ってた気がしないでも無いような。
「ああ、そうだな。明日は出発の日だ。それなりに長旅になるし、休養をとる必要もあるからな」
アルタイル、娘にはそんな口調なんだな。別にそこまで以外ではないが、親衛隊長だし上と下でサンドイッチだから。
日出と共に起床し、日没と共に就寝するこの世界では、俺達の行動は中々に異端だ。もっとも夜目の利くスキルを保有している者は別口と考えてよい。結局お茶を飲み終わるまで部屋で会話を交わしていた。
次の日の夕刻、町の外れでゴビーやタイソンと合流した。セイラは驚いてタイソンを倒そうとしたが、レベルとサイズの関係で、子供と大人のじゃれあいみたくなっていた。
適当に言いくるめてセイラを納得させた後、今度は俺をリーダーにパーティーを組んだ。魔王のジョブを確認すると、パーティー編成のスキルが使えるようなので使用したのである。
…………あばよ、人間界。
クライタムが人間界で最後に見た町にならぬよう、心の中で呟き、祈った。