隙間
蜘蛛の巣として考えるとき、縦糸に当たる三二本の大通りがメインストリートで、食べ物屋や服屋、家具屋などの生活に必要な物を売っている。これらは基本的に、中心部ほど高級な物を、外側ほど低級な物を売っている。
横糸に当たるのが脇道で、しかし中心部ならばメインストリートとさほど変わりは無い。こちらは酒屋や質屋、ギルドや武器屋や防具屋などの生活に必要は無いが、利用頻度は高いものが並んでいる。
蜘蛛の巣には無い縦糸。蜘蛛の巣を想像すればわかると思うが、外側は縦糸の密度が低い。等間隔で横の道を造った以上、土地としての効率が中々に悪い為、公的もしくは私的に道を造ったらしい。ここには娼館、奴隷商館、賭場などが並ぶ。全て(この世界では)法律上の問題は無い。
どれにも当てはまらない裏路地、建物同士の隙間と言った方が正しい気もする場所は、不良の溜まり場。盗賊ギルドや詐欺師ギルドの入口があることも多く、治安が悪い。首都なので警備隊や憲兵団、最悪の場合は騎士団や近衛兵団までが頑張っている為、全ての悪事は見えないところへ密集する。
「ちっくしょう。運がわりいなぁ……」
小声で呟く。
その悪事密集地帯に俺はいた。セイラもティナも予想通りと言うべきか、買い物をしだした為、しかも俺を半分スルーする為、つまらないので単独行動を始めた。そこまでは良かった。なんとなく、本当になんとなく隙間に入ったのが失敗だった。
案の定、すぐにジョブ盗賊の奴等に囲まれた。広さの関係で巨人やゴーレムがいないのが救いか、否か。
しかも俺を勧誘してくる。『ジョブ設定』で村人、僧侶、商人、盗賊を増やしたのが失敗だったか。金と移動の手間がかかる以上、多数のジョブを持った者は少ない。精々三つだ(3rd.ジョブ以降も全て2nd.ジョブ扱いの為、3rd.ジョブという言い回しが使えない)。盗賊のジョブを所有する者だけならば、更に制約されるだろう。
俺が狙われるのは、否、関係無いだろう。そもそも人物鑑定を使えるジョブでは無いし、使ったら魔王など勧誘しないだろう。
まあ、理由や理屈はともかくとして、答えは最初から出ている。
「断る」
「ああん!?」
三人程、盗賊の顔が歪む。
「もう一度問います。我々の仲間になる気は無いですか?」
イケメンの盗剣士がそう言う。
『鑑定』の結果から、彼は化狸族らしい。理由は無いがイケメンだと、どちらかというと妖狐族のイメージがあった。
もう一度否定する。
「断る」
「そうですか。残念です」
そう言って、イケメンが両腰からタガーを抜く。双剣として扱うのか。
彼が構えたのを期に、他の盗賊や盗剣士も次々に抜刀する。武器の殆どはナイフかタガーで、一人ほどレイピアを使っている。片手持ちだ。
めんどくさい。しかし街なので魔法や魔術を使うのは控えたい。ワンドを構え、『真空斬撃』と念じた。




