暇人
暇だ。本当に暇だ。
オーラティオの兵舎で、結果が全て宣言してから数日。俺の暇リミッターは限界を迎えていた。何故ならば、魔王としての業務は、書類数枚とちょっとした確認しかない。故に一日の殆どはやることがない訳で、しかし休憩か城の探検くらいしかやれない。
今までの魔王が頑張りすぎたのだと思う。それとも村人――農民が過酷で休みの無い生活だっただけだろうか。
それはともかく、警備隊や領主がちゃんとしているのは良いことだ。しかしそれ故に俺は暇人と化す。
「暇……だなぁ」
思わず呟きが漏れる。
今いる場所は、一般的に魔王の間と呼ばれる部屋に隣接している、『真・魔王の間』といったところだ。今部屋にいるのは、俺とセイラとジャッキーの娘であるティナ=エイベルだ。そんなメンバーになった理由は、わかるだろう、そういうことだ。
「暇ですねぇ」
「暇、ですわね」
二人の口からも呟きが漏れる。むしろ、ティナは今までと変わらないのでは、と思うが言ってはいけない気がする。
とりあえず、現状やることが無いのは確定。紅茶と烏龍茶の中間くらいの、お茶をたしなむくらいしかしていなかったし。このまま我慢大会のように耐えるのは嫌だし、意を決して(?)立ち上がる。
外に出てはいけないのでは無く、外に行くのが面倒だっただけなので、二人に声をかけて街に出ようと思っただけである。
「ちょっと街に行こうと思っているのだが、二人はどうする?」
ついてきても、ついてこなくても変わりは殆ど無い。
しいて言うなら、セイラもティナも美人なので、男共の視線が恐い。……魔族はどうなのだろう。ハーフであるセイラは勿論、ティナも親と違って顔は人間に近いので、人間界では俺に石が飛んで来ることは必至だ。尻尾なら装飾品程度にしか思われないだろうし。
多少の沈黙。
「ついていって良いですか?」
二、三秒して、セイラが沈黙を破る。
「私もよろしいですか?」
すぐにティナも続く。
答えはイエスしかない。むしろこの流れで駄目と言ったら、ただの意地悪野郎じゃないか。
魔王の間と呼ばれる広間にある、役に立たない隠し通路を通り、裏口近くへと移動する。表から堂々と行くのは迷惑にもなる為、裏口の存在は好ましい。もっともこの規模の城に出入口が一つなんてことはあり得ないだろうが。
ローブを深くかぶり、素早い動きで城から離れる。数分待つと、セイラとティナもやって来た。袋からチャラチャラと金属のぶつかる音がする辺り、恐らく買い物でもするつもりなんだろう。女は本当に買い物が好きだな、男も嫌いな奴はいないだろうが。




