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兵舎

 ジャッキーの言い方が、若干馬鹿にしてるようにも感じられる。ヒゲ抜いてやろうか。やらないけど。

 ティエンは俺の方を向き、軽く敬礼した後、「中で話しましょう」と言って、兵舎の内へ入っていった。案内された部屋は、会議室ではなく士官の仕事部屋といったところだった。


「どうぞお座りください。……それで、何を話せば良いのでしょうか?」


 進められるままにソファーに座る。四人掛けの筈なのに、三人で目一杯なのは何故だろうか。

 疑問は放置して、質問に答える。質問の答が質問という、珍しい状態だ。


「この地域の地形。それに応じる砦の攻め方。人間軍との戦力差を教えてほしい」

「えー……、こちらの方が標高が上です。戦力もこちらが高いです。なので、力量差で押すために、砦を集中攻撃しています」


 直接攻撃だけなら下策だろう。魔界になれない、魔素に対する耐性が無い人間を確実に殲滅するなら、兵糧攻めや水攻めが良いだろう。魔物は当然として、植物すらまともに食べようとはしない筈だからな。

 あいつら無駄に信仰深いから、魔界のものは汚れてるとか言いそうだし。実際、魔素が強いのだがな。


「人間軍の補給はどのくらいの周期だ? その補給隊を襲ったことはあるか?」

「補給は通路が開く度――十日に一度です。それを襲うような卑怯な手は使っていませんので、ご安心下さい。我々には誇りがあります」


 安心できる要素がどこにあると言うのか。


「そんなクソみたいな誇り(プライド)は捨てちまえ」


 当然の如く、吐き捨てる。ティエンのみならず、ジャッキーやオルフの表情の変化を見るに、魔族は俺よりプライドが高いらしい。しかしプライドばかり高くとも、結果がついてこなければ、石ころよりも役たたずだ。

 なにか言いたそうな、しかし何も言ってこないティエンに向かって、はっきりと言い切る。


「補給路を断て。人間共は、一ヶ月もすりゃ息絶える」


 表情が唖然に変わり、しかしやめない。


「行動の先に結果があるのでは無く、結果への通り道に行動があったに過ぎない。兵や装備を無駄に消耗する必要は無い」


 これは俺が人間だから出たアイデアでは無い。この世界は、壁に生き埋めになるリスクさえ伴えば、空間移転によるワープが可能だ。だから誰も兵糧攻めをしない。次第にそれは卑怯な手として扱われるようになった。しかし転生者である俺は、あっち世界の常識で生きようとする――固定概念ってやつだ。

 さらに補助とするならば、次元が違う魔界では、脳内もしくは術式内で行われる演算公式が微妙に異なり、人間は移転を失敗する。通路から砦まで、狙う時間は充分にあると言って良いだろう。


「そのような卑怯な手を――」

「卑怯なんてのは、敗者の言い訳や捨て台詞――所詮は戯言だ」


 ティエンは黙ったままだった。口出ししてきたオルフを黙らせる。ジャッキーは無言で、目を瞑る。

 最後にとどめとばかりに言う。


「結果が全てだ。誇りよりも命の方が大切だろうが」

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