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南の街

 移転先の南の街――オーラティオは、中心部に巨大な神殿があった。重要地とはここのことだろう。またその影響か、商店や宿屋も充実していて、しかし前線の街らしく兵士も多く見られる。ジョブ的には傭兵や戦士も多いが。

 街は崖の上にあり、建物や人がいなければ、落とすべき砦がはっきりと見える。


「かなり活気があるな、この街は」


 町外れから、兵舎に向かって歩いている途中、ふとコメントする。それを聞き、戦闘を歩くオルフが、「ええ、まあ」と言い、一拍。


「神殿がある街ですし、何より今ここは最前線ですから。戦闘要員が集まるんですよ」


 まあ、そうなんだろうな。と心の中で呟く。やはり神殿はなにかできるのだろう――ジョブの強化や追加とか。

 街を歩いていると、兵士達が敬礼してくる。しかしそれは俺ではなく、ジャッキーやオルフに向けられたものだろう。俺の顔を知っているのは、上役達の他は、極僅かな兵士と民衆だけだ。ローブもパッと見、普通のローブと何等変わりは無い。

 そんなものばかり見ていたが、この街は神殿以外の建物もかなり美しい外装で、地形的に見晴らしもよい。気が付いたのは兵舎につく頃だったが。

 兵舎につき、門番らしき男にジャッキーが声をかける。


「おい、すまないが、今ここを仕切っている人物と話したい。呼んできてくれないか?」


 人物は言葉的に語弊があるがまあ、この世界の言語には……あれ、俺はなんで魔族語使えるんだろうか。まあとにかく、人物以外に当てはまる言葉が無い。

 そんな下らないことを考えているのは俺だけで、門番は大パニックだ。


「エイベル元帥!? シャウエルテ将軍!? なぜ、軍事のツートップがわざわざ前線へ!?」


 元帥や将軍は、階級なのか称号なのか。疑問である。


「呼んできてくれないか?」

「はっ、はい。ただいま!」


 ジャッキーが顔を近づけ、声で威圧を与える。すると男は走って兵舎に突撃し、直後、どこぞの壁から騒音がした。そういや、門番の男もコボルト族だったな。こいつらは焦ると壁にぶつかる風習でもあるのか。まあしかし、虎が零距離にきたら、俺なら硬直するけどね。現代思考すぎると思うけど。

 オルフもなぜ牙を光らせた。つーか、顔の骨格は人間なのに、なぜそんなに鋭く大きい牙が顎に収まるのだ。

 あの門番のコボルトの男が可哀想に思えてきたころ、三本の尻尾を生やした男が現れた。妖狐族のティエンというらしい、『鑑定』によると。


「わざわざお越しいただきまして……。(わたくし)共の働きに、何か問題がありましたでしょうか」


 今までで一番の低姿勢きました。虎の威を借る狐、なのかもしれない。文字通りの意味で。


「用があるのは俺やオルフではない――新しい魔王が着任したのは知っているよな? その魔王様が初仕事は砦の奪還だ、と」

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