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決着

 俺の右肩は切り裂かれ、紅い血がローブにまで染み渡り、しかし指先から滴る。

 対するジャッキーは、毛がなく装備も薄い脇腹を深く切り裂かれていた。その傷は俺よりも重傷と言って良いだろう。


「ク――――ッ……」


 ジャッキーが軽く呻き、倒れる。

 自分に治療魔法を軽くかけてから近付き、血のついたワンドを突き付ける。確認したところ、ジャッキーは倒れはしたものの、まだ意識はある。故に気絶程度はさせる為に、スキルは使わずに拳を振り下ろす。

 グチャまたはグニュとした感触で、自らの拳は静止される。パシッではなくグチャ、だ。不愉快に感じて顔を上げると、そこにはグレイの顔があった。


「そこまでです。エイベル卿は戦闘不能とし、魔王様の勝利とします」


 グレイがそう宣言する。それならばこちらが拳を奮う理由は無いので、大人しく引き下がる。

 しかし手に残った感触が気持ち悪い。グレイに対して鑑定を行うと、種族にアンデット族と表記されていた。服は綺麗で、顔も隈がある程度だったので気が付かなかったが、確かにゾンビの類いだ。

 俺が更に一歩下がり、戦闘体制を解くと、グレイが高々と宣言する。


「今回の試合の勝者は、フェル=V=ヒューズ!」


 歓声をあげる代わりに、見守る上役達が敬礼した。それは左手だけを胸に当てるという、シンプルで効率的なものだった。



 戴冠式の日。つまり試合の次の日だ。

 上昇率の防御、魔攻、魔防がSSSというバグ性能の魔王のローブを着込み、控え室の椅子に座っているとき俺は、昨晩の試合の勝因を考えていた。

 結論、身長差と武器の長さ。つまり俺は低いから肩にあたり、ジャッキーは高いから脇腹にあたったということだ。長さについては説明もいらない。

 扉の開く音を聞き、そんな思考をたちきる。


「魔王様。すべての準備が整いましたので、入場場所に移動していただけますか?」


 黒いコボルトがそう言う。

 俺は椅子から立ち上がり、コボルトの後ろをついていき、指定の場所に到着する。

 暫くし、入場やらなんやら始まった。緊張したりするものの、日本の学校は式が多かったので多少は耐性がある。このときばかりは感謝する。

 あとは、よくわからんが色々したあと、司祭らしき男から冠を被らされた。

 戴冠式はそこで終了した。


 そのあとはバルコニー(?)に出て、国民と顔合わせをした。

 歓声があがる中、一人の男が司会進行をしている。


『それでは、魔王様よりお言葉をいただきましょう』


 拡声スキルを使ってまでして、無茶振りをするんじゃない。

 仕方ないので、即興で考えて話す。


「俺は見ての通り――見た目じゃわからないか?――人間だ。しかし魔王に生まれたからには、魔族として生き、魔界を発展させることに力を注ごう」


 再び歓声があがる。しかしすぐに静まり、国歌斉唱となった。

 聞いたことの無い歌詞で、音程はソプラノより高く、バスより低い。しかし綺麗だった。


 街を見渡し実感する。しかし、俺の魔王としての生活は今始まったばかりだ。

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