漫画みたいな恋したい!
みんな!!こんにちは!私の名前は田島 美夏。普通の高校一年生。 私の夢は……
《リリリリリリリッ》
えっ?もう時間? いつもより早くない!?そんな想いとは無関係に目覚まし時計がうるさく鳴る。
リリリリリリリッリリリリリリリッリリリリリリリ ッリリリリリリリッリリリリリリリリリリッリリリ リリリリリリッリ「ガシャンッ!!」
乱暴にベルを止める。もうもう少しだけ~って
「えェェェェェェェ!?」
私はわざとオーバーリアクションして、ベットから 跳ね起きる。もう、結構ヤバい時間。 急いで支度をして、階段を駆け降りる。
「ちこくーーー!」
叫びながらトースト(母のセット済み)をくわえて 私は玄関を飛び出した。
「毎日よくやるわ‥‥」
そんなため息混じりの母の声を背に聞きながら。
「今日、なんかある気がする」
どんよりお空を見上げて、いつもどうりのセリフを言う。 そうそう、今日は目覚まし時計の鳴るタイミングがあわなくて、いつもの自己紹介が中途半端になってたんだ。
今からでも遅くないはず!
みんな!!こんにちは!私の名前は田島 美夏。普 通の高校一年生。 私の夢は マンガみたいな恋すること!そのために毎日、良くあるシチュレーションを実践中! 実行しないといつまでも叶わないからね! 有言実行!
───と、ここまでがいつもの起きるまでの日課な んだけど、今日は失敗しちゃた。因みに今はトース トを口にくわえて走ってます。 本当はくわえたまま
「遅刻、遅刻!」
って言いながら、走りたいんだけどそれは今練習中 。 女の子走りをキープするために、トーストを手で持 たないで食べる食べ方はしっかりマスターしたんだ けどね。
今、やっているシチュレーションは食パンくわえて 走る女の子が慌てて曲がり角を曲がったら男の子に ぶつかって転んでしまうと言うもの。 そのために私はこうやって、トーストくわえてわざと遠回りして曲がり角いっぱいの道を走ってます!
でも残念ながら、一回もぶつかって転んだことない んだよね~ 相手が転んだことなら、有るんだけど。 でもその人ちょっと横長で……あー思い出してしま った。うん。その後どうがんばっても無理そうだっ たのよ。 そんな事思ってると、校門が見えてきた。 あー今日もダメだったか。毎日やってるけどやっぱ りマンガみたいにすんなりとは出来ないよね。
♡
玄関、ここには下駄箱がある。下駄箱と言えば! ラブレター投函場所定番スポット!
さぁて、今日はどれくらい入ってるかな?どきどき わくわくどきどきわくわくどきどきわくわくどきど きわくわくどきどきわくわくどきどきわくわくどきどきわくわくどきどきわくわくどきどきわくわくどきどきわくわくどきどきわくわく
【以下割愛】
さぁ!Let's オープン!!!! 大量のラブレターの下敷きにならないように距離をとってそーと下駄箱に手を伸ばす。 さぁ、緊張の一瞬! どきどきわくわ【割愛】
さぁ、あけるわよー せーのっ!
[ぱかっ]
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥え゛
え?
えェェェェェェェェェエ゛!?
そこにはびっくり私の上履きしか入ってなかった……
ヒュー
私の後ろを初夏なのに茶色い枯れ葉が一回転して通り過ぎて行く。
まさか今日も一枚も入ってないなんて…… こんなに努力しているのに…… 私は力が抜けてそのままぺたりと座り込んだ。
♡
そーっとそーっと
え?今何してるか?見て分からない?できるだけ自 然に消しゴム落としてるのよ!良くあるじゃない! ?消しゴムを隣の彼との間に落としてしまって、拾わなきゃと思ってしゃがむと彼もとろうとしていて 、二人の手が重なる───っていうの。きゃー。いいなーそんな事したい……
でも今の私の席の隣の彼はとってもクール…… 私がこうやって、授業中せっせと消しゴムを落としているのに、私が落とすたびにため息つくんだもん 。拾ってもくれないんだよ!? 拾おうともしないんだよ!? しかもたまたまとか、偶然とか気のせいとかじゃあ ないんだよね。だって今日だけでもう、32回目だもん。消しゴム落とすの。1日百回がノルマ。日課なの私の。 後少しで落ち……る……
───ストン
よし、落ちた。ぴったり隣の男子の椅子と私の椅子の間。1ミリのズレもない!
「はぁ‥‥」
と、同時に隣の男子のため息。そんなにため息つく と幸せ逃げるぞ。そしてやっぱり拾おうともしないのか……男のおの字もない……
「はぁ‥‥‥」
今度は私がため息ついた。
♡
「田島ー。これ職員室に持ってってくれ」
そう言って社会科教師は私に大量の何に使うか分からないバカでかい機械を持たせた。
もうこれで皆さんおわかりだろう! これは良くある恋愛シチュレーション! 『重い荷物を持った女の子を、男の子が助けてくれ る』 そう。何を隠そう私はこれがやりたいというだけで この不人気職、社会科係をやっている。
出来るだけいっぱい持つ。ていうか全部持つ。だって出来るだけ重く見せたいもん。この重い何に使うか分からない機械も私にかかれば軽いもんだ。だって毎日持ってきてる漫画496冊と、月刊 マンガ80冊よりは軽いのだから。 教科書?持ってきてますよ。ちゃんと。始業式以来 ずっと未開封のままのが。机の中にいれっぱ。つまりおきべん。 良いじゃん。だって勉強より漫画の方がずっとタメ になるし。 私にとって。
それにしても何で誰も来てくれないんだ?今までもそうだったけど誰か1人ぐらい手伝ってくれたって良くない?か弱い女子がこんなに重たそうなモノを 1人で持ってたんだから。 前の係だった情けない男子がリアカーで運んでたん だからコレのおもさは皆知ってるはずなのに。
ちらほら
「すげーよ」
とか
「ありえねー」
とか
「力有りすぎだろww」
って聞こえる。
なによ。他人事だと思って。だからうちの学校にイケメンはいないんだ。せめて性格イケメンを目指そうとは思わないのか!
最近流行りの草食系男子がこんな所で仇となるのか …… がっくり。
でももう少しこう勇気だして話しかけてくれても良 いんじゃん!?どれだけ奥手!?一生独身になるぞ 。 独り身のおっさんの背中見てみなさいよ!寂しいったらありゃしない。
あぁもう。 職員室に到着しちゃた。結局今日もダメだった。私は諦 めて職員室に入る。
人生諦めが肝心。
まぁ私はそう簡単に諦めないけどね。
♡
じーーー
じーーー
じーーー
じ(以下略)
え? なにしてるか?もちろんあれだよ! 図書室でたまたま同じ本を取ろうとして手が触れちゃうシチュレーションッ!
だってここは図書室。本当は本をとったら反対側に彼がいた。とか、角を 曲がったら彼とぶつかってしまうとか、そういうの もやりたかったんだど、ここの図書室本棚が肩の高 さしかない! なんで?
図書室ならではのシチュレーションがほとんど出来 ないじゃん!!
こんなの図書館じゃない! ただの本の倉庫だよ!倉だ! 本来の使い道が出来ないなんて!
狙ってやるのに一番難易度高いのしか出来ないって……
でも、私田島美夏高校生一年生。こんなことごときでは諦めません。毎日昼休みはせっせと図書室に通い詰めこの難関に挑んでます。いつか出来ると信じて。
みんなもやってみると分かると思うけど、これが結構難しい。だってさ、私が近づくと男子はみんなそそくさと逃げていく。だってさ、どうしても同じ本 を取ろうとすると手がふれる前に身体がぶつかるん だよね。それでバレる。手だけ出すのは不自然だし 。
でもそれにしてもさ私まだ何もしてないのに逃げら れるって何事?私なんかした? 最近ずっとこんな感じなんだよね。なんかこう、図 書室でこの難題に挑もうとすると、いつも図書室は無人になる。
まるで私を嫌うかのように。 そんな事はあり得ないのだけれども。
残ったのは白髪のおじさん図書先生と私。
「何か借りていきますか?」
「いえ。」
私はそう言って図書室を後にする。 何で借りないかって?そりゃもちろん図書室にはタメになるマンガが一冊も無いんだもの。
♡
移動教室の美術の時間。
ここは私にとっての出会いの場。 私はなめるように机の落書きを探す。新しい落書き無いかな?って。 落書きにコメントをつけたして顔も見えないオトモダチ。 それは何時しか甘い恋へと────
と言うのを夢見ています!!いや、だって良くない ?顔も声も年も知らないまま深まる恋、とかさ。
ってことで今、机に顔を近づけて落書きを探しています。特に新しい落書きを。でも、先週と落書きが変わらない。なんで?
みんなもっと悪いことしようよ。机の落書きぐらいで怖じ気つくなんて。男の風上にも置けやしない。 女の私がこんなに一生懸命なのに。
ひどいなぁ、と思いながら私は先週机に書いた自分の文字を消す。そして新しく文字を書き直す。最初は小さな文字で書いていた。でも誰も見つけてくれなくて。少しずつ文字を大きくしていって。今では机の半分が私の文字で埋まっているのに。どうして誰も何も言ってこないんだろう。
キーンコーンカーンコーン。
あぁ、今日もすべての授業が終わってしまった。悲しいかな、今日も漫画みたいな恋愛シチュレーシ ョンは起きなかったよ。 ガックリ。
部活?やってないよ。 確かにマネージャーとか美味しいシチュレーション の宝庫だけどね。
放課後は私、やりたいことがあるんだ。
♡
放課後私は転がり逃げるように帰宅する。だって一 刻も早く行きたいから。
家にはすぐについた。息を整えながら私はいそいそと私服に着替え、ナチュラルメイクをする。ナチュラル。 あくまでナチュラル。私の思いがバレないように。
バックと身ひとつで隣の家へ向かう。インターホン の前で一度深呼吸。その後ゆっくりとチャイムを押 す。すぐに相手が出てきた。付属のカメラを覗く。できるだけ可愛く映っているといいなぁ、なんて思いながら。 「上がって上がって」 インターホンの向こう側からの声に嬉しくなってしまう。
「おじゃましまーす」
私は二階へと上がる。どきどきと鳴り止まない胸を 抱えながら。
「やっほー。剛」
できるだけ普通に、を心がけてできるだけナチュラ ルにドアを開ける。 そこにいるのはゲームをしている幼なじみの剛。
「おう、速く座れよ。手伝ってくれ」
「何その私が手伝う前提なのは」
よっしゃー!!
文句を口では言うけど実はすごく嬉しい。
「お前がこのゲームやってて助かったよ」
あんたがこのゲーム好きだからだよ、とは言え無くて私は適当にあっそうとだけ言う。
ていうか剛、なに女の子にベットの上薦めちゃてるのよ。私、乙女なのに。そのとき気づいた、机の上のピンクの包装紙。
「あぁ、それ俺の彼女のプレゼントだから。壊すなよ」
チクリ。胸の痛み。それを隠すように言葉を返す。
「壊すなよって、私をなんだと思ってんのよ」
「怪力?」
剛のひどい言葉。でもそれが剛らしいというか。そ れを嬉しいような悲しいような。
「そんなこと行ってると手伝わないよ」
「すまん!美夏様!この通り!」
プライド低っ。 土下座なんてしないでよ。 あーあ、何でこんなやつの事、好きになっちゃたん だろう。しかも彼女いるし。本当、酷い話だよね。
叶わない恋。 私ね、ずっと一途だったんだよ。剛以外の恋人なん ていらない。剛が良いの。なのにそれは叶わないから、私は剛以上のカッコいい男の子を探すことにし た。
私、思うんだよね。 漫画みたいに素敵な出会いをしたら、その人のこと 好きだって思いこめるって。
だから私は今日も漫画みたいなシチュレーションを夢に見る。