届かない光
知っていた。あの子が彼を好きなこと。知っていた、彼はあの子が好きで、好きだからこそ何も言えなかったこと。知っていた。彼が私をそういう風に見ていないこと。わからないわけがない。友達の仮面の下、ずっと見てきたんだから。
だけど、私は凄く好きだから、好きだったから。そこに漬け込んだ。
『好きです』
『悪いけど…』
予想通りだったからその言葉に待ったを掛けた。これは、思い込みや、思い上がりじゃない。三年間一番近くにいたって自信があるから。だから、彼の迷いも弱さもよく知ってるから。
『いいじゃない。あの子に言うつもりないんでしょう?曖昧なままでいるより私を利用しなよ』
胸に手を当てて強気に笑って見せる。 下ろした手が僅かに震えて、痛いほどに手を握った。
『私を利用して、あの子を離してあげればいい。留学、行くんでしょう?待てって言えないんなら、終わらせてあげるのも優しさじゃないの?』
彼の唇が小さく震えた。怯んじゃだめだ。自分が何してるかなんて分かってる。こんな詐欺紛いのことをしてでもほんの一時でいいから、そう思うくらいの気持ちは止まらない。醜くて、汚い。
『だから、卒業まで、私と付き合って』
彼が迷っているのがわかる。ここでもう一押しすればいい。
『嘘でも幻でもいい。最後に思い出を頂戴』
そう言って笑えば、彼が頷くだろうことを私は知っていた。
だから。泣かない。この淡い桜吹雪の中、彼があの子を探して私の前から居なくなっても。笑いながら、もう、しかたないなぁって言いながら彼を最後まで探す。友達に、後輩にからかわれる声が胸に刺さっても笑みを浮かべ続ける。それは私への罰だろうから。
ふと見上げた屋上に三つの人影。そのうちのひとつが探し求めた影だった。少しだけ、笑みが歪む。
でも最後まで絶対に泣いてなんかやらないんだ。だって、今はまだ、彼の隣は私のものだから。