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第六話

 翌日。

 琥珀が砂場遊びの道具を持って公園に行くと、すでに大和が砂山を作っていた。

 そこへ琥珀は嬉しそうに駆け寄っていく。


「やーまーと! あーそーぼー!」

「あ、コハクちゃん、こんにちは」

 大和は顔を上げ、コハクに挨拶をすると、シャベルの背でぽんぽんと砂山をたたいた。

「? やまと? 元気ない?」

 大和は黙ったまま、砂山を作り続けている。

「やーまーとー?」

 コハクは大和の顔を覗き込んで呼んでみた。

「コハクちゃんちはさ……」

「うん?」

 琥珀は大和の次の言葉を待っていた。

「コハクちゃんちは、おとうさんはいるの?」

「おとうさん? いないよ」

「え? そうなの?」

「わたし、おとうさんのかお、しらないもん」

「あ……そうなんだ……。さみしくは……ないの?」

「うーん、おもったことないなー。おもしろいひと、いっぱいいるし。こくようさんとかさ。あ、こくようさんていうのは、みど……おかあさんのことがすきなひとでねー、いつもおかあさんにおこられてるんだよ」


「こらこらこら、琥珀、事情を知らない人に間違った情報を与えるんじゃない」


「あ、こくようさん!」

 

 琥珀の頭を『わしっ』と掴みながら、黒いライダースーツに身を包んだ背の高い男が現れた。


「よっ、いい子にしてたかー、琥珀!」

「してたよ! あ、やまと、このひとがこくようさん」

「こ……こんにちは……」

 

 少し怯えながら大和は小さな声で挨拶をした。


「おっ、しっかりした坊主だな~」

 

 そう言いながら、黒曜は大和の頭もガシガシと豪快に撫でた。


「そうそう、おとうさんはいないけど、お父さんの代わりになりたいっていう、こくようさんはいるよ」

「なんの話だ?」

 

 会話が見えない黒曜は、琥珀と目線を合わせるため、しゃがみ込みながら問うた。


「おとうさんはいるか、って話。あ、そうだ、こくようさん、ごめんね。この間もらった黒いキツネさんのストラップ、言われたとおりスカートにつけてたんだけど、どこかに落としちゃったみたい」

「あー、あれね、いいのいいの。琥珀のせいじゃないよ。それに、じゃーん! 実はこんなこともあろうかと、もう一個持って来てやったぜぇ!」

 

 黒曜は誇らしげに『黒いキツネ』のストラップを取り出した。昨晩の物と同型だ。


「わああ、うれしいなあ。ありがとー。でも、スカートはもうだめだよねぇ」

「そうだな。もうばれちまってるから」

「え?」

「いや、こっちの話」

「うーん、つける場所、すこしかんがえてみるよ」

 そう言うとコハクは黒曜からのストラップを受け取り、上着のポケットの中にしまった。


   

 その後しばらく、黒曜は近くのベンチに座り、琥珀と大和の様子を見ていた。


 

<……さて……隣市の子はまだ見つかっていない。鬼籍に名前は無かったから、まだ生きている可能性は高い……翠が今日はそっちの調査をするって言ってたな。琥珀と見た目が同じくらいの子だったから、何とかしてやりたいってーのがあるんだろうな。

せめて、どの程度の知能の物がしでかしたかってことくらいでもわかりゃ、打つ手も色々あるんだが……。それに……>


黒曜はちら、と大和に視線を移した。


 <この大和とかいう坊主からは純粋な『陰の気』がにじみ出ている。奴らが好みそうな、大人の人間では出せない『陰の気』だ。こうして見張ってて捕まるような手合いだったら労せずに解決するんだがなぁ……>


 ――ぼんやりと腕組みをしつつ思案している黒曜の体に、この世ならざる物の気配が背後から突き刺さった。


「今のは!?」

 

 黒曜は辺りを見回した。

 

「どこだ!?」

 

 背後の茂みに黒い気配がある。


「あそこか! 随分と早いお出ましじゃないか、これなら今日中にカタが付きそうだ!」


 黒曜はベンチから立ち上がると、その気配を追って走り出した。




「あれ? こくようさんがいない?」

 

 黒曜が黒い何かを追いかけて走りだし、五分くらいたった頃、琥珀はベンチに黒曜の姿が無いことに気が付いた。


「かえっちゃったのかな。てっきり今日は、ウチでご飯食べていくんだと思ったのに」


 

 つまんないの、と小さく呟くと今度は大和を呼ぶ声が、公園の入り口の方から聞こえた。


「やまとくん! あなたがやまとくん?」


「そうだけど……おねえさんだれ?」

 

 見知らぬ女の人に自分の名前を呼ばれた大和は、少し身構えて返事をした。


「ああ、やまとくんは君なのね! 近所の人に聞いたら、砂場で遊んでる子がそうだって言ってたから……大変よ、お母さんが!」

「おかあさんが……どうかしたの?」


『おかあさん』という言葉に、大和は少し警戒を緩めてしまった。


「救急車で運ばれたの!」

「ええっ!?」

「きゅうきゅうしゃ?」

 コハクはまだ救急車を知らなかった。

「とにかく、一緒に来て! 案内するから!」

「うん!」

 大和は、掴んでいたシャベルを放り出すと、その声を掛けてきた女の後を追って走り出した。

「あ、まって、やまと! わたしもいく!」




「くそっ! 何て逃げ足が速いんだ!」

 黒い気配を追って行ったはずの黒曜が、苛立ちを隠せぬ表情で先ほどのベンチへと戻って来た。すると、

「あれ? 琥珀?」

 琥珀がいない。

「まさか!?」

 黒曜は辺りを見回した。大和もいない。砂場に駆け寄ってみると、放り出された様子のシャベルと、琥珀に渡したばかりの黒いキツネのストラップが落ちていた。ポケットから落ちたのだろう。

「しまった……やられた!」

 

 舌打ちを自分自身に向けて打つと、黒いキツネのストラップを握りしめた黒曜は、隣市へ調査に出ている翠の元へ、自身のバイクを走らせた。


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