第一話
都会の騒がしさから少し外れた場所に一つの住宅街の公園があった。
幼稚園から小学校低学年の子供たちがよく遊び場として使うこの公園は、母親達のちょっとした情報交換の場ともなっている。夕飯の支度の少し前のこの時間帯は、待ち合わせるともなく集まった母親たちが輪を作り、いつも通りの世間話に花を咲かせていた。
「ねえ、たくみくんのママ、今日のお昼のワイドショー見た?」
「見た見た、まだ見つからないんですってね」
「もう三日よね。無事だといいんだけど……」
「隣の市でしょー、怖いわよね。子供たちを遊ばせてるのも心配で仕方がないわ」
「でも、だからこそ、こうして私たちがここにいるってことが、意味あるわよね!」
「そうそう、大人の目って大事よね!」
だが、会話の内容とは裏腹におしゃべりに夢中で子供たちに視線は向けてはいない。そんなものだ。
「ママー、おなかすいたー」
さっきまで砂場で遊んでいた四歳くらいの女の子が、井戸端会議に夢中になっている母親の一人の腕を掴んで『もう帰ろう』と言わんばかりにぐいぐいと手を引っ張った。だいたいの母親たちは、子どもの腹時計で会話を終える。
「ああ、こら、ちょっと……あ、もうこんな時間、夕飯の支度しなくちゃ!」
「あら、うちもだわ。さとしー帰るよー」
さっきまで会話をしていた母親たちは、各々、自分の子供の名前を呼び、それぞれの家に帰っていく。今日の会合はここまでらしい。
夕方の公園のいつもの光景だ。
「やまとくーん、またあしたねー、ばいばいー」
砂場でまだ遊んでいる男の子に、最後まで公園にいた母親に手を引かれた女の子が手を振っている。
「うん、またあしたね。ばいばい」
男の子も女の子に手を振った。
砂場には男の子が一人残り、砂山のトンネルをぽんぽんとおもちゃのシャベルでたたきながら作っていた。太陽はもう、地平線に半分程隠れている。
「ねえ、まだ帰らないの? ほかのこはみんな、おかあさんといっしょにいっちゃったよ?」
聞きなれない声がした。
「きみ、だれ?」
「わたし? わたしはコハクっていうの。あなたは?」
コハクと名乗るその女の子を見るのは、やまとにとっては初めてだった。
「えっと、ぼく、やまと。コハクちゃん? っていうの? おひっこししてきたの? ここのこうえん、きのうはいなかったよね?」
コハクと名乗るその女の子は「うん」と頷き、にっこりほほ笑みながら、やまとに言った。
「ねえ、おかあさんまだこないなら、もう少しわたしとあそばない?」
続き頑張ります。ゆっくりお付き合いくだされば幸いです。