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第二十一話 フレイズマル卿

 俺たち勇者御一行様は、西方討伐を成し遂げ、凱旋した。


 王都では、沢山の者たちが街頭に集い、俺たちを歓迎してくれた。皆が皆とっておきのワインを取り出して飲んだ。フラーウムはいまさら、人狼を倒した後に酔ってしでかしたことを後悔して、頭をがんがんと宿屋の柱に打ちつけていた。望むと望まざるとに関わらず、フラーウムの名は、勇者を押し倒した女として一躍有名になっていた。

 

 俺はヴォルフガングから、事前に相談を受けていた。あの銀の弾丸を造った友人、鉱夫のゴーシュが、ラッダイトの指導者として指名手配されている。貴族から「恩赦の権利」が与えらたなら、ゴーシュの指名手配を取り消してくれ、というのが相談の内容だった。俺はその話を是非も無く承諾した。

 

「俺は『恩赦の権利』を行使する。ゴーシュという名の男の指名手配を取り下げてくれ」俺は貴族の使者に対して、開口一番きっぱりと言い放った。

 

 貴族の使者は、確かに承ったと答えた。アーランド王国では、英雄には誰であれ恩赦の権利が与えられるという話だ。貴族たちはしぶしぶながらその案を飲んだようだった。数日後、ゴーシュの指名手配は撤回された。

 後に二人の腕利きの鉱夫たちがやってきて、俺の護衛を願い出てきた。彼らの話によれば、若き指導者ゴーシュの指名手配が解けたおかげで、ゴーシュは「白い魔法使い」の取り計らいにより、王女ナターシャ様、そしてその子である国王陛下フェリス様との一時いっときの再会を果たすことができたということだった。まさにラブロマンスである。

 

 

 

 

 俺は王都の酒場で、久しぶりにドプレクスに会った。「伝説の英雄になって、あなたは富も名誉も得た。それでその後どうするつもり?」と聞かれて、俺は言った。

 

「俺は元の世界に帰ります」

 

 黒の魔王を倒してからの帰り道、俺はアーサーの知り合いであるぼさぼさの黒髪をした眼鏡のシャザードと、異世界召喚の可能性について深く語り合った。

 かつてこの大陸を去った神による召喚はあまりにも考え難いが、精霊による召喚ならばありえるかもしれない。そして、俺が召喚された場所に魔術院「オールエー」の魔法使いたちが集えば、逆に異世界への門を開くことも可能かもしれない、というのが彼との議論の結論だった。

 

「元の世界、ねえ」ドプレクスは言った。

「その世界には、何があるの?」

 

「家族と故郷、あととびきりの香辛料ですかね」俺は答えた。

 

 香辛料と聞いて、ドプレクスの目の色が変わった。

 

「黒の魔王が滅んで、南方からの香辛料の調達の見込みは立ったわ。でも、もし異世界から新しい香辛料が手に入るというなら、それも悪くない取引かもしれない」そう言って、ドプレクスはすぐに計算を始めた。その日のうちに魔術院「オールエー」に連絡が行き、ドプレクスをスポンサーとした元の世界への帰還計画がスタートした。俺は喜んだ。

 

 計画実行の日が来るまで、俺はフラーウムとヴォルフガングによって、そして先述した鉱夫たちによって護られた。フレイズマル卿が用済みになった俺を殺そうとしているという噂が出回ったためだ。

 この世界の貴族が何を考えているのか、俺にはよく分からない。だが、伝説の英雄となった俺が万が一にも権力を持ち始めるような事態になれば、それを妨害しに来るだろうことは、いかに頭の鈍い俺でも予想できた。

 

 俺はドプレクスの他に、ヴォルフガングにだけ「俺は元の世界に帰る」と打ち明けた。そして決してフラーウムには漏らさないように、と言った。俺が元の世界に帰ると知れば、フラーウムはきっと悲しむだろうと思ったのだ。

 

 

 

 

 計画実行の日。朝。俺は魔術院「オールエー」のメンバーと共に、自分が最初に目にした巨石群の遺跡、ストーンサークルの真ん中に立っていた。だが、俺は強烈な違和感を覚えていたので、それを単刀直入に口にした。

 

「なんだかしらんが、巨石が増えてるぞ。俺が召喚された場所、伝説の剣があった場所に、縦にでっかい巨石が一個増えて穴を塞いでいる」

 

「確かに巨石が増えているな。『オールエー』の地図と合致しない」ぼさぼさの黒髪をした、眼鏡のシャザードは言った。


「しかも無数の文字が彫られている。中央に大きく、古い字で『マグタイトサーガ 最も新しい神話』と彫ってあるようだが」青髪のアーサーは言った。

 

「もしかして俺のことが書いてあるのか?」


 青髪のアーサーのライバルを自称する、白銀のローブを着た金髪のハザードは、彫られている内容を解読しようと試みていた。


「あるいは、そうかもしれん。だが誰がこの巨石を運び、誰がこの文章を彫ったのか……古めかしい巨人族が運び、優雅なるエルフが言の葉を紡ぎ、腕の巧みなドワーフが彫ったとでもいうのか?……だとしたら、まるで神話の世界にでも紛れ込んだような気分だ」

 

「最初のほうは別にどうでもいい。結局、最後はどうなるんだ?」


 俺の言葉が終わるや否や、その場に緊張が走った。「オールエー」のメンバー十数名が円陣を組み、長い呪文杖を構え、戦闘態勢を取った。ストーンサークルの周囲から、数十人の銃兵たちが沸いて出てきていた。

 

「『最後にどうなるか』と質問したのかね、勇者コータ」そこに立っていたのは、どう見ても上等なベストを着た、若くして白髪頭の貴族の男だった。

「アーランド王国の名門貴族、フレイズマル卿の名において答えよう、勇者コータ。この物語は最後に、お前一人がみじめったらしく死んで、めでたしめでたしで終わる!」

 

 フレイズマル卿配下の銃兵たちが、戦列を作り、縦にしていたマグタイト駆動の銃を横に構え、一斉に発砲した。俺は死を覚悟して目を閉じた。しかし、予想に反して、俺は生きていた。俺がゆっくりと目を開けると、空中に古い文字が浮かび紡がれ、銃弾をも跳ね返す透明な防壁が幾重にも幾重にも展開されていた。

 俺はその瞬間に理解した。これがこの世界における、真の魔法の姿なのだ。これが真の魔法使いたちなのだ。これが魔術院「オールエー」の実力なのだ。

 

 

 

 

「フレイズマル卿よ。たったこれっぽっちの銃兵で、俺たち『オールエー』を討てると思ったのか?」金髪のハザードが馬鹿にしたように言った。フレイズマル卿は焦り、あとずさって言った。「う、撃て! 何をしている! 撃つんだ!」

 

「火の精霊よ! あの銃兵どもを焼き払え!」金髪のハザードが吼えた。

 

 地面から真っ赤に燃える、巨大な人型の精霊が揺らめいて立ち上がり、銃兵の戦列をその長い長い腕で抉るように薙ぎ払った。たちまち銃兵たちは飴細工のように溶けて燃え落ちた。あっという間の出来事だった。残るは白髪頭のフレイズマル卿だけだった。

 

「何故だ? なぜお前だけが神に祝福される? なぜお前だけが幸福な大団円(ハッピーエンド)を迎えられるんだ! 答えろコータ!」彼は叫んだ。

 

「フレイズマル卿よ。そこまでだな」背後に、馬に乗った茶色髭のファフニール卿が現れて言った。


「コータの帰還をドプレクスが陳情してきている」同じく、馬に乗った、太ったオッテル卿が現れて言った。


「彼を殺しておしまいにするという案は、没だ」最後に、最年長の、眼鏡のレギン卿がゆっくり歩いて現れて言った。

 

 それで若きフレイズマル卿は石畳にがっくりと膝をついた。そして、一人「畜生ちくしょう! 畜生ちくしょう!」と地面を叩いて泣いた。

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