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第十七話 人狼との遭遇

 俺はボーナスという名目で、ドプレクスから剣の鞘を受け取った。今度はおそらく長旅になる、との台詞と共に。俺は鞘に剣を納めた。ぴったりだった。


 俺の目の前に、マグタイト駆動の馬車がずらりと並んでいた。この大陸を席巻した、馬のいない馬車だ。上部に手綱あるいはハンドルのついた、新品のマグタイト駆動の車が、使い古された四輪の荷車を引っ張っていく。その輸送費だけで、百本以上のマグタイト・バーが使われているのだろう。俺はそれを見てしばし呆けていた。

 

 そのマグタイト駆動の馬車に乗り込み、西へ向かう部隊がある。西方討伐だ。鎧を着て、籠手こてとすね当てをし、靴を履いた、完全武装の俺たちも強制的に部隊に参加させられていた。貴族フラーウム、傭兵ヴォルフガング、元魔法使いアーサー、そして盗賊のエフトもだ。

 

 車に揺られ、俺たちは西方に向かって移動を始めた。最初にドプレクスに言われたとおり、街道を伝っての、長い長い旅だった。保存食である塩漬け肉を食って、俺は例のアレの完成と到着を祈りつつ眠った。

 

 

 

 

 その日の夕暮れ、馬車が停まったあと、俺は精神を集中させるため、一人席を立って森の近くの原っぱに行った。すると耳が尖った男が、俺に近付いて来て言った。上等な籠手こてをつけ、緑がかった布の服を着ている。その手には弓があり、その背には矢があった。銀の長髪で、女と見紛うほどに美しい男だった。

 

「私の名はノルドール。アーランド王国の西方に住むハーフエルフだ」

「エルフ! ドワーフがいるのは知ってたけど、森のエルフがいるとは初耳だぞ!」俺は興奮した。

「ハーフエルフだ。私は純粋なエルフではない」そこでノルドールは言葉を切った。

「でもハーフってことはエルフであり、人間でもあるってことだろう?」俺は言った。

 

 そんなことを言われたことは生まれて初めてだとでもいうように、ノルドールは眉を吊り上げた。

 

「ともかく、私は森のエルフたちに、勇者コータを品定めするように言われて来た。一度お相手願いたい」

「木刀でか?」

「いや、あの剣でお願いしたい。私は勇者コータの真の実力を見極めねばならん」

「うーん……あの剣は扱い辛いからなあ」

「お前は、神々が鍛えた伝説の武具を、使い辛いというのか!」

「なんていうか、どこまで上手く斬れたのか、手応えがないとやり辛いだろう? その点、竹刀しないはいいぞ。反動がしっかり返ってくる」俺は昔を懐かしんだ。

 

「竹刀とは何だ?」「バンブーブレードだ。竹から造る」

 

 それを馬鹿にされたと受け取って、ノルドールは怒った。

 

「何も切れぬなまくら剣など話にならん。いますぐ鞘からその剣を抜け。決闘だ!」

「まあそう焦るなよ」俺は剣を引き抜き前に構えた。そして「面!」と叫んでノルドールの横を通り過ぎた。

 

 ノルドールの背後に、斬り捨てられた狼の首が落ちた。俺とノルドールは互いに背をあずけ合った。うなり声が響いた。ノルドールは弓に矢をつがえ、引き絞った。

 

「人狼の眷属だ。俺たちは囲まれている」

「なぜ人狼に狙われる?」

「俺たち勇者御一行様は、既に『黒の魔王』と敵対してるんだよ。お前も目出度めでたく、今日からその一味ってわけだ。来るぞ!」

 

 俺が口の端を歪めて笑うと、大きな狼たちが一斉に飛び掛ってきた。五匹だ。ノルドールの矢がその狼のわき腹に突き刺さり、すぐさま引き抜いたナイフが二匹目を斬った。

 俺の剣が突き出され、狼の喉から奥を貫いた。そのまま、狼を串刺しにしたまま、飛び掛る二匹を俺は横に凪いだ。剣の切れ味のために、二匹の狼と共に、串刺しになった狼も一緒に割かれて地面に落ちた。

 血の臭いが大地を汚した。

 

「剣の切れ味なんてものはどうでもいいんだ」俺は他の連中が聞けば怒るであろう暴言を吐いた。

「とにかく打って打って打ちまくって、最後に生き残れれば、俺の勝ちだ」口をついて出たそれは、うちのじーちゃんがよく言っていた台詞だった。

 

 俺は振り向いた。同じく振り向いた、ノルドールと目が合った。

 

「非礼をびよう、勇者コータ。その腕は確かなものだ。大きな狼五匹に囲まれて、 おくするということを知らない」

「ノルドール、お前もなかなかの弓とナイフの使い手だ。ぜひ仲間に欲しい」

「女を口説くように男を口説くのだな、勇者コータ」銀の長髪のノルドールは嘆息して言った。

「馬鹿を言え。女を口説くほうが千倍難しい」俺は軽口を叩いた。

 

 

 

 

 そのとき場の空気が変わった。ざわりと全身に鳥肌が立った。それはハーフエルフのノルドールも同じらしかった。人狼が来たのだ。来てしまったのだ。ついに。ついに。

 

「我が名は人狼。俺の可愛い部下達を、よくもよくも殺してくれたな」

 

 ファイアドレイクの時のように、低い低い声が響いた。

 それで俺は、首からさげていた警笛を吹き鳴らした。

 

「人を呼べば勝てるとでも思っているのか。なんと愚かな」人狼は陽炎のようにゆらりと姿を現した。黒い狼だった。黒い黒い狼男おおかみおとこだった。夕闇に背を向けて、人狼は鋭く吼えた。俺はノルドールに向かって叫んだ。「逃げろ!」

 

 ありがたいことにノルドールは物分りがいい奴だった。俺は一緒に馬車に向かって走った。

 

「に、逃げていいのか? コータ」

「あのヴァンパイアとタメ張ってた番長に勝てるわけがない。『三十六計逃げるにかず』っていうだろ!」

 

 背後に獣の息づかいが聞こえた。追いつかれるのでは? と何度も思った。しかし俺たちは後ろを振り返らずに走った。だから狼男がどんな形相で追いかけてきていたのかは、まったく分からない。警笛を聞いて、俺たちの目の前に、ヴォルフガングがやってきていた。

 

「走れ! 奴は俺が仕留める!」

 

 ヴォルフガングが銃を構え、照準を合わせた。俺たちはその横を疾風はやてのように駆け抜けた。そしてこれはヴォルフガングから後で聞いた話だが――マグタイト駆動の銃から連射された計四発の銀の弾丸は、魔法のように狼男の右肩に吸い込まれ、そこを見事に貫いた。狼男はたまらず退散した。

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