繁劇の十六夜 2
町の西門は、いわばこの町の入り口である。山本家から歩いて四、五分のところにあり、西門から東門へ向かう道が町のメインストリートだ。先日伊月たちが立ち寄った市もこの本通りの一番西側で開かれる。西側には水路が南北に通っているので、町へ入るときは小さな橋を渡らなければならない。町人から『またせ橋』と呼ばれるその橋の前が集合場所だ。
またせ橋に着くとそこにはすでに二十数名が集まっていた。小学生くらいの子どももいれば、お年寄りもいる。一番多いのは、自分と同じくらいの年の男女だ。見たところ半分以上がまだ十代だろう。皆顔見知りのようで、それぞれ男同士、女同士で固まって話をしている。その中で、年の近そうな女の子の集まりがあったので近づいてみたが、ちらとこちらを見られただけでさりげなく距離を置かれてしまった。明らかに伊月の存在に気がついているのに、視線を合わせないようにしている。
(なんか、学校を思い出すな)
女の子の社会にはグループというものがしっかりある。いじめられたこともないし、したこともないが、なんとなく普段仲良くしている友達以外の子とは話しづらい。そして、なかなか入りづらい。そもそも、グループでは似たような楽しみや考えを共有できる子達が集まるわけで。こういう場合、どことなくお互いに合わないだろうなという気がしたりするものだ。険悪ではないし、嫌いというわけではないが、どうも「自分たちとは違う人たち」という感覚を抱いてしまう。そういうわけなので、唯一の女の子グループに入れなかった伊月はとてつもない疎外感に襲われていた。ここが現代の世界ならばそれでも話しかけることができただろう。初対面の人と仲良くなることも苦手ではなかったはずだ。しかし、この世界に来てからはどうも受身になりがちだった。この一ヶ月間、伊月がほとんど店を出なかったのもそれが理由だ。
(やっぱり、吾郎太くんに着いてきてもらうんだった)
朝の勢いはすっかり衰え後悔の気持ちでいっぱいだった。あの明るいしっかり者の少年がいてくれたら、と仕様のないことを考えてしまう。少しだけ、市で会ったシイノが来ていないかと紅色の着物を探したが、来ている子どもは吾郎太より少し大きい男の子が一人いるだけだったので、ため息をついて隅のほうで大人しくする事にした。
その様子をしばらく見ていた男が一人近づいてきた。ぼさぼさの髪を下の方で適当に結んでいる。三十半ばくらいのいかにも男盛りの彼は、自分は『検め衆』のまとめ役だと言った。
「娘さん、町で見ない顔だが……。もしかして今日が初めてかい?」
気遣うように話しかけられて、はじかれたように顔を上げた。
「はい、そうです。私は山本屋の伊月といいます」
「山本? あぁ、扇子の」
初め男は首をひねったが、ややあって納得したようだ。すると、別の男が近寄ってきて話に入ってきた。
「山本屋っていや、記憶を失くした娘の面倒みてるって聞いたが、あんたがそうかい?」
烏帽子をかぶった男が、まとめ役の男の肩に寄りかかり、伊月の顔を覗き込むようにして聞いてきた。
「そう、です。あの、初めて参加するので、よく分からないことばかりですが、一生懸命頑張るのでよろしくお願いします」
緊張したまま勢い良く頭を下げた娘を、一人は愉快愉快と豪快に笑い、一人は苦虫を噛み潰したような顔をした。対照的な二人の様子に、何か間違った挨拶をしただろうかと首をかしげると、烏帽子の男がくく、と笑いをこらえて、
「おまえさん、さてはお美代に何も聞かされずにここへ来ただろう。まあ、そう固くなりなさんな。やることは、ただの見回り、だからな」
と言った。が、なにやら含みを持たせた言い方だ。
「おい」
「俺は兵四郎。塗師の兵四郎っていやぁ、分かるだろ。おい、お前も自分の名前くらい言ったらどうだ」
まとめ役の男をさえぎって自己紹介をすると、強引にまた彼に話を振った。まとめ役の男はいつものことなのか、諦めた表情で伊月の方へ向き直った。
「はぁ、俺は蔵助だ。そこに船着場が見えるだろ。あそこで荷卸しの仕事をしている。今日は、まぁ、兵四郎の言う通り気張らずにやってくれ」
苦笑した彼にぽん、と肩を叩かれた。そのまま蔵助は橋の前に立ち、集まった者たちに向かって声をあげた。
「よし、今日の検めはこの面子で行う。では、それぞれ四、五人の組をつくってくれ」
すると、彼らはぞろぞろと動き出しちょっとの間に組が五つできた。不思議なことに、女の子のグループは二、三人ずつで三つに分かれていた。皆で一緒に行動するのだと思っていた分、少々奇妙に思える。しかし、四つのグループがそれぞれ四、五人で集まった中、伊月のいるグループは三人だけだ。伊月と杖をついたおじいさん、そして先ほどの男の子。兵四郎は中年の男性のみで組まれたグループにいた。自分のグループが余りものを集めたような気がするのは伊月の考えすぎだろうか。それを見た蔵助が僅かに顔をしかめた。
「おい、そこ六人もいらんだろう。一人あっちへ行け」
ぐるりとまわりを見渡して、とあるグループで視線をとめて言った。確かに男女三人ずつで六人いる。女の子たちは渋ったが男子が一人、
「では僕が」
と、あっさり伊月のグループに入っていった。背の高い清潔そうな青年だ。彼も他の男子と同じく袴を穿いて、小太刀よりも短い腰刀を差している。伊月がぺこり、とお辞儀をすると向こうも返してくれた。




