第5章 この世界とは
彼らが消えてから5分後、同じ場所が再び光始めて、トムとジアスはこの世界に戻ってきた。しかし、雰囲気は変わっていた。
「帰ってこれた…」
「ああ、そうだな…」
ジアスは高校生ほどの体形をしており、このたかが5分間で瞬く間に成長したように見えた。
「どうだったかな?トム・クロンパス、ジアス・クロンパス」
「第9空間までの人達とさまざまな冒険をして来た…彼らも、俺達と同じように元の空間に戻っていったのか、オメトル神」
周りの人々は神の名前を呼んだ時、誰のことか分からなかった。分かったのは、ジアス、トム、ファーザートムだけだった。
「ハッハッハ。いや、見込みどおりだな。いや、それ以上かもしれん。良くぞ我が名を憶えたな」
「究極的にこの世界、第2空間は統合されるんだろ?」
「ああその通りだ。それまでの間、我は世界を再統治しなければならない」
「再統治…じゃあ、結局、俺達は何もできないって言う事か…」
「第1空間で何を見たか。我は知らぬ。だが、我はそなたを我の代理人として立てる事ができる。そなたは、我の代理人をする事を是とするか非とするか」
「それは、俺自身に、それと娘自身に選べと言う事ですね」
「トム・クロンパス。まさしくそうだ。さあ、どちらを取る?」
「代理人になったところで、どうしろと言うんですか?自分は、あなたの代理人になる事はできません」
「私もいくら神だとしても、私はあなたの代理人を務めるような事はできないと思う。だから、できない」
「そうか…残念だ。これまで1万年間。我の代わりになるものを探していた…だが、そなたらがそのような事ならば、仕方がないだろう。しかし、これだけは憶えておいて欲しい。我は、いつでもそなたらを待っている」
行政長官、司法長官、立法長官はそれぞれの秘書を呼び、何かをもって来させた。それは、2枚のカードだった。
「一枚はトム・クロンパスに、もう一枚はジアス・クロンパスに」
「このカードには、どんな意味が?」
「全ての権限を握るカードだ」
司法長官が話し始めた。
「立法長官、司法長官、行政長官、ファーザートム。この4人の全ての権限を集約させたカードだと思ってくれて構わない。非常に強力な権限だ。だからこそ、君達二人だけのために作られた特別製だ。本人のみしか作動しないようになっている」
トムはこのカードの仕組みが気になったが、声に出さずに聞かなかった。なぜなら、ジアスが既に聞いたからであった。
「このカード、どんな仕組みになっているんですか?」
「単純だ。君達の登録されているDNA組成をそこに登録している。君達のDNAが鍵となり、このカードは作動する。他にも持ち手の掌紋、静脈、骨格も同様に登録されている。現在の電話、重要機関への出入りなど、機密情報が保管されているところへの出入りには、左右の掌紋、手首から指の先までの静脈及び動脈、全身骨格、DNA組成の全てが、国家に登録されている情報と一致していなければならない。ただ、ジアス・クロンパスについては、これから、登録しなければならない。まだ、君の分の情報は登録されていないからね」
「痛いの?」
ジアスが聞いた。
「いや痛くはない。ここ最近は無痛注射も開発されている。完全なる無痛だ。それどころか、刺さった感覚すら残らない優れものだよ。静脈及び動脈、全身骨格については、特殊な機械を使うことになるから、そもそも体に触る事すらない」
「いつ取るの?」
「今すぐにでも。大丈夫。トム・クロンパス、君のお父さんも同席してもらう」
そう言うと、立法長官が誰かを連れてきた。
「彼は医務室室長だ。この世界の全ての医療系統の最高責任者であり、私の弟に当たる」
彼は一礼して椅子を持ってきた。
「ここに、座ってください。すぐに終わります。痛みはありません」
「はあ…」
ジアスは、その純白な肘置きつきの椅子に座った。本体は茶色で十分にクッションがきいていた。
「では、これより採血をします。ちょっと、失礼します」
どこから取ったのか、彼の手の中には注射器が入っていた。それを、何の躊躇もなくジアスの腕に当てた。そして、彼女が本当に何も痛みがないような顔をしている間、採血をした。
「では、続いて掌紋の採取並びに手の静脈及び動脈の撮影をさせていただきます」
椅子に座らせたまま、手を開かせ、インクを塗り、そのまま最初に掌紋を取った。
そして、そのまま腕をすっぽり覆うような大きさの機械の中に、両手を入れさせ撮影していた。
「最後に、全身骨格です。ちょっと、立っていただけますか?」
椅子から立たせている間に、彼はどこからか、ジアスの身長よりも高い機械を持ってきて、彼女をそれで包んだ。そして、一瞬の間の後、すぐに彼女は吐き出された。
「なんだったの?さっきの…」
ジアスは、ふらふらになりながら、トムにしがみついた。
「これで登録は終わりました。では、これで、失礼します」
再び一礼して、彼は去って行った。
「これで、終わりだ。もう、帰っても構わない。ただ、何かあれば、また呼ぶ時があるだろう。それまで、さよならだ」
そして、トムとジアスは彼らの家に帰ることを許された。