ハズレスキル『鑑定』でラスボスの正体を見抜いた結果
どうやら俺はゲームの世界に転生したらしい。
『鑑定』のスキルが閃いた時に、前世の記憶も蘇った。
せっかく冒険者になれると思ったのに!
このゲームの、このスキル使えないんだった!!
この世界には魔王や魔物がいて、戦闘スキルを持った者たちが戦っている。
全員がスキル持ちではなく、選ばれたものだけの憧れの職業が冒険者だ。
『鑑定』スキルだって実はこの世界では羨ましがられるスキルだったりする。
「もったいない! せっかくスキル持ちなのに!」
親の酒場を手伝っているとよく言われた。
活気に溢れた冒険者と、一般の常連客が泣きながら管を巻いているような酒場だ。
冒険者の方が数百倍くらいよく見える。
だが、この世界の住人は、このゲームのシステムを知らないからそう言う。
この世界はダンジョン攻略RPGで五人一組でパーティを組む。
『剣士系』『魔法使い系』などのスキル系統があってほぼその通りにスキルを習得していく。
ダンジョン攻略には一人三つのスキルを持って、スキル同士の連携で必殺技が使えるのだが……『鑑定系』スキルには連携がほぼない。
『鑑定』スキル自体も、ダンジョン内のその場で鑑定したいアイテムなんてほとんどないから使い道がない。
だから、俺はダンジョンには行かない——。
「久しぶりに、鑑定してくれよ!」
酒場に冒険者の客が来る。
今、俺のスキルが役に立つのは、酒場を訪れた冒険者を鑑定することぐらいだ。
冒険者と攻撃、属性の相性等を鑑定することができる。
話しかけてきた冒険者を少し見つめる。
種族:人間
スキル:剣士系
攻撃:斬撃
属性:風
耐性:斬撃、打撃、突撃
弱点:魔法、ブレス、光
連携相性:弓士系、土
特殊能力:なし
「これが分かるのはこの酒場でだけなんだよな」
「俺の『鑑定』スキルはちょっと特殊なんです」
と言っても、『鑑定』スキルには変わりなく、酒場で見ればいいだけで、ダンジョンでは役に立たない。
「俺の属性、前と変わってないな」
「そんなに簡単に変わるものじゃありませんからね。装備やアイテムを持っていれば変わりますけど、人間そのものの属性やタイプはそうは変わりませんよ」
「でも、変わる奴はいるんだろう」
「らしいですけど、お客さんの鑑定結果を覚えてるわけじゃないので、俺自身で確かめた事はないですね」
前世のゲームでは、ダンジョン内のイベントや特殊な成長段階で変化した。
その一つが、ラスボスが使う属性変化という特殊能力で、戦うたびに一つずつ属性が変化していく。
戦いが終わった後も変化は継続するから、プレイヤーによって『鑑定系』のスキルタイプは真っ先に消されるのがお約束だった。
このゲーム、ラスボスと言っても倒して終わりになるタイプじゃない。
ラスボスを倒してからが、ダンジョン探索の本番で無限に遊べる。
続ける意味は特に無かったけど、楽しかったな……!
……——!
「……おーい! 店員さん! 酒持ってきてー!」
つい楽しかった冒険時代に思いを馳せてしまった……。
俺はテーブルの隅で泣いている常連客のグループに酒を持って行く。
泣いてるっていっても、このグループの一人だけなんだけど、いつも辛気臭い。
泣いてるのは20代くらいの若い男で、30代から10代の男女四人を連れて毎日、酒場を訪ねてくる。
泣いている男以外は固定じゃなく毎回違うが……どういう集まりなんだ。
まあ、お客さんの詮索はしないから、俺は酒を置いて戻る。
その時、
「……『鑑定』のスキルさえあれば……!』
小さな声で泣いている男が言うのが聞こえた。
なんだ……?
俺は『鑑定』スキル持ちだが……。
気になって男を鑑定する。
冒険者以外は鑑定しても『種族:人間』くらいしか見るものもないから使わないんだが……。
種族:魔族
スキル:魔王系
攻撃:斬撃、魔法
属性:無、闇
耐性:斬撃、打撃、突撃、魔法
無効:ブレス
弱点:光
連携相性:鑑定系
特殊能力:属性変化
え……?
なんだ、これ……!?
「魔……族……」
俺は思わず口に出してしまう。
ガタガタッ!
泣いている男の周りにいた奴らが一斉に俺を見る。
警戒度マックスで、下手なことをすれば問答無用で殺される。
雰囲気がそう言っているが……俺の鑑定結果も男の周りにいた全員が『種族:魔族』で、雰囲気だけじゃないようだった。
「——……!」
背中に汗が伝う。
泣いていた男が少し遅れて振り返り、俺をキョトンと見た。
男の様子だけ見れば、『本当に魔族か?』と疑いたくなるが。
「……俺の事を魔族だと、見抜いた……」
周りの仲間が答える。
「……つまり、『鑑定』スキル持ちか……」
「ただの『鑑定』スキルじゃなくて、伝説の『属性鑑定』よ」
「……本当にいたなんて……!」
……俺抜き盛り上がってる。
泣いていた男は俺にキラキラした目を向けて来るし……。
しかも、コイツ……『スキル:魔王系』『特殊能力:属性変化』って、ラスボスじゃん!!
なんでラスボスが人間の酒場で管巻いてるんだ!?
しかも毎日!?
……しかし。
『連携相性:鑑定系』これはめちゃくちゃ気になる!!
「すみませんが、酒場が終わるまで待っていてくれませんか?」
俺が言うと、ラスボスの男はますます目を輝かせた。
「うん!」
俺は持ち場に戻って、酒を給仕し続けたが……。
「ガハハハ」
「キャハハ」
いつも泣いていた常連客の席がめっちゃうるさくなった。
——そして閉店時間が過ぎて……。
「ぐー」
「寝るなー!」
全員がはしゃぎすぎて酔い潰れていた。
コイツら本当に魔族か?
◆◇◆
「申し訳ございません……!」
見覚えのある連中が来た。
ラスボスと酒場を訪れることもある奴らだった。
人間の姿をしているが、やっぱり全員『種族:魔族』で、ラスボスと仲間たちを背負って帰って行く。
「俺の『鑑定』スキルの事で話をする予定だったんですけど……」
帰りがけに声を掛けると、
「……——!!」
全員が言葉もなく俺を振り返って、驚愕の表情を向けた。
「……で、伝説の『属性鑑定』スキル持ち様!!」
……なんなんだ……。
確かに、俺の『特殊能力』には『属性鑑定』ってあるけど、ハズレの『鑑定』スキルに変わり無いんだよな……。
「で、伝説の『属性鑑定』スキル持ち様!! ぜひ、私たちのダンジョンへお越し下さい!! 魔王様が目覚めたら詳しいお話をいたします!!」
「わたくしがダンジョンまでお運び致します!!」
ペッと、一人の魔族が背負っていた魔族を投げ捨てた。
「ふにゃっ!? ……むにゃむにゃ……」
いや、連れ帰ってくれ!?
目が覚めて道に捨てられてたら可哀想だろう!?
「ラスボスのいるダンジョンなら、明日の昼に俺から訪ねます。俺も仕事が終わったばかりですから」
そう言って、納得して帰って貰った。
——翌日の昼間。
俺はラスボスのいるダンジョンまで歩いて行った。
入り口に着くと待ち構えていた魔族に、ダンジョンの奥深くの魔王の部屋に案内される。
見た目が魔族そのものだけど、酒場に人間の姿で来ている奴か?
黒光する大理石の床に、はるかな天井まで届く支柱が並ぶ、広く高級そうな部屋。
何度も来たことがある——ゲームで!
ゲームで、何度も倒しに来たラスボス……属性変化してくれる便利キャラ!
「魔王さ……」
案内してくれた魔族が魔王を呼ぼうとするが、先客がいた。
冒険者たちがラスボスに戦いを挑んでいた。
魔王も昨日の酒場と違って、俺の知ってるラスボスの姿になっている。
あれ? ここ魔王の部屋じゃ……私室に攻め込まれてるのか!? 魔王!?
俺もやってたけど!
しかし……様子がおかしい。
冒険者たちの戦い方が、勝つためのものじゃない——。
レベルも高めで、俺が属性鑑定すると、なかなかいい構成をしている。
それなのに、ぬるい攻撃ばかりで決定打を打たない。
魔王は痺れを切らして特殊攻撃を使う。
【属性変化!!】
ピカーッと、冒険者の体が光る。
なんの変化もないようだが、俺の目には見えた。
『属性:水』が『属性:火』に変わる。
「やったー!」
冒険者からそんな声が上がった。
すると冒険者たちは互いに殴り出した。
仲間割れの自爆による死に戻りだ
俺もよくやった。
ピュンと教会に飛ばされて行く。
あの冒険者の喜びようから、目当てのスキルは手に入ったようだな。
なんとなく、冒険者たちの死に戻って行った方を見つめる。
懐かしさに俺は少し微笑んだ。
「うおおん! おいおいっ!」
泣き声が聞こえて来た。
「また、戦って貰えなかった……!! う゛えん!」
魔王が泣いていた……って、家でも泣いてたんかいっ!
「魔王様……」
魔族が魔王によりそい何事か囁く……スーッと二人が人間の姿になる。
あ、美男美女だ、同情する気が失せた。
「伝説の『属性鑑定』スキル持ち様! よく来てくれた!」
魔王は俺を見てニコニコする。
「共に戦おうではないか!」
テンションがおかしい、話が見えない!
「……いきなりそんな事を言われても、なんなんですか『連携相性:鑑定系』って」
魔王の顔がパッと明るくなる。
「さすが、伝説の『属性鑑定』スキル持ち様だ!! 話が早い!!」
呼び名は長い。
俺は鑑定士と呼んでもらうように頼む。
「鑑定士様、聞いてくれ! 見ての通り俺はラスボスなんて名ばかりの、便利な属性変更キャラに成り下がってるんだ……」
魔王は芝居がかった同情を引く声で言う。
美青年だから絵になる、ムカつくなぁ。
しかし、俺も前世で便利キャラとして扱っていた罪悪感はある。
ただの道具として扱われて、戦われずに目の前で自殺されるのは、辛いだろう。
しかも、ここは魔王の私室で逃げ場がない。
「属性変化を使わなければ、冒険者も来ないでしょう」
俺は口を開いた。
「属性変化は冒険者を倒すために必要な事だ、止めるわけにはいかないっ!」
魔王は自分の手を強く握り締めて答える。
これだけ負けているのに、魔王の心は折れていない——泣いてたけど。
「お前の『属性鑑定』と俺の『属性変化』を組み合わせれば、どんな冒険者にも勝てるようになる!」
「……だから、どういう事だっての!? 核心を先に言え!! さっきから聞いてんだろう!? いや、昨日からな! それが、酔い潰れやがって!?」
まどろっこしい! もう、敬語なんて使ってられるかっ!
「あ、すみません……!」
魔王は謝ってきたが、それももういい、早くしろ!
「俺たち魔王チームもスキルの組み合わせで連携攻撃が出来るんです。人間の属性に合わせた連携攻撃が出来れば大ダメージを与えて、一瞬で葬り去ることが出来るんです」
「そうなのか? 連携攻撃ってだけで強いのにな」
「……ただ、これだけ属性の組み合わせがあると弱点をつくのは至難の技なんです。連携攻撃の組み合わせは全て頭に入って、『属性変化』で相手の弱点を作る事もできる! でも、そもそもの相手の属性が分からなければ意味がないんだっ!!」
魂の叫びのようだった。
「……それで、俺の『属性鑑定』なのか——」
「はい……!」
魔王の真剣な表情に全て腑に落ちた……。
しかし——、
「魔族の味方なんて出来ないだろう。俺は人間だ」
ハズレスキル持ちだからってラスボスの味方なんて出来ない。
「だから、なんなんだ! 魔族が人間を滅ぼそうとしている訳でもない!!」
「え……?」
そういえば、このゲーム、特にそういう設定なかったな……。
単にダンジョン攻略してレベル上げるだけで……魔王も途中で便利キャラ化するし……。
「俺はただ人間にいいように負け続けるのが嫌なんだ……勝ちたい! 勝って見返してやりたい!!」
魔王が泣いている。
ただ、その気持ちが伝わってきた……。
——俺だって、せっかくスキルがあるのにハズレだって諦めたくなかったんだ……——!!
◆◇◆
「魔王! このチームのスキルはこれだ!!」
俺が『属性鑑定』の結果を魔王の頭に直接イメージで送る。
「よし! これなら『弱点:ブレス』を追加すれば、連携技Cで大ダメージが与えられる!」
魔王が『属性変化』で弱点を追加して、他の魔族との連携技を叩き込む。
冒険者達は回復役を失って瀕死になる。
『鑑定士』の俺の通常攻撃でもやられるくらい弱った冒険者たちは、負けて死に戻って行った。
「やったー!! また勝った!!」
魔族の女の子達が喜んでいる。
「やったな、魔王!」
俺も魔王に笑いかけた。
「鑑定士のおかげだ……えぐっえぐ……」
何回勝利しても、結局魔王は泣いている。
魔族は俺が仲間になった事で人間の姿になっている。
魔族の姿でいる決まりがあったわけじゃないらしい。
普通に美男美女になって、俺にも普通に話しかけてくる。
「本当に鑑定士様のおかげで、魔王様もすっかり元気になりました」
そうなのか?
可愛い女の子の姿で笑いかけられるとドキドキする。
ダンジョン探索の踏み台だった魔王は、最近では冒険者達の目標に格上げされているらしい。
実家の酒場に戻ると、
「頑張ってるな! 活躍は聞いてるぜ!」
と、声をかけられる。
以前は常連だった魔王チームのテーブルでは、魔王の攻略法が話し合われていたり、酒場は儲かってるらしい。
魔王たちは人間の姿の顔バレしてしまったから、酒場に来たら、ファンにもみくちゃにされる。
扱いがスポーツ選手みたいなんだよな……。
無限に近い属性の組み合わせで、魔王チームが今は優勢だが、毎回勝利できる訳ではない。
無限に近い組み合わせで、一戦一戦に頭を使うしドラマがある。
このゲーム、終わりがないんだった——。




