あの日の今日
この地の霧に覆われた山々の麓に隠された沿岸の町は、決して急ぐ人々のための場所ではなかった。ここでの生活のペースは非常にゆっくりとしており、通りを行く錆びついた自転車のカタカタという音や、古い松の木々を通り抜ける海風のざわめきがはっきりと聞こえるほどだった。しかし、レンにとって、その平穏さは息を詰まらせる窮屈な檻にすぎなかった。
「ドン!」
勉強とは何の関係もないもので膨らんだ通学鞄が、レンによって学校の図書室のオーク材の机に強く投げつけられた。彼は椅子に身を沈め、ボサボサの黒髪が怒りに燃える両目を遮っていた。彼の額にはまだ一枚の絆創膏が残っていた——昨夜、下の村の若者たちと繰り広げた殴り合いの傷跡だ。レンはこの世界が嫌いだったし、この学校も嫌いだった。そして、大人がいつも彼の肩に押し付ける不透明な未来のことも大大嫌いだった。
「また喧嘩したの、レンくん?」
春の息吹のように軽やかな声が響き、レンを突然の苛立ちから引き戻した。彼は顔を上げ、厄介者を追い払うために怒鳴りつける準備をして眉をきつく寄せた。しかし、彼の目の前にいたのは一人の少女だった。彼女は学校の制服を着ていたが、羽織っているクリーム色のカーディガンは、彼女の華奢な肩には少し大きすぎるようだった。彼女の肌は、図書室の窓ガラスから差し込む遅い午後の日の光の中で、まるで透明であるかのように白かった。それがハルカだった。
「お前には関係ないだろ」レンはぶつぶつと文句を言いながら、顔をそむけた。「それに担任の先生には言ったはずだ、誰の補習もいらないって。暇ならどこか他の場所へ行って遊んでろよ」
ハルカは、この地域で最も頑固で乱暴だと有名な男子生徒の無愛想な態度に全く怯じ気付かなかった。彼女はかすかに微笑んだ。その微笑みはとても優しく、レンの周囲の息苦しい空気を一瞬にして和らげた。彼女は椅子を引いて彼の向かいに座り、分厚い数学の教科書を開いた。
「暇じゃないよ。私もお昼寝の時間を削って、ここで君と一緒に座っているんだから」ハルカはそう言いながら、テストのプリントをレンの方へと押しやった。「ほら、この問題を解いてみて。先生がね、もし今日君が基本問題を3問解けなかったら、明日は学校全体のトイレ掃除をさせられるって言ってたよ」
レンは苛立ち紛れに舌打ちをした。彼は強制されることが嫌いだったし、数字も嫌いだった。そして、この少女が自分を見る目——批判もなく、恐怖もなく、ただ奇妙なほどの包容力だけがあるその眼差しが嫌いだった。彼は彼女の手から鉛筆をひったくり、白い紙の上に乱暴に書き殴り始めた。
それからの数週間、午後5時の学校の図書室は静かな戦いの目撃者となった。レンはいつもだらしない格好で遅れてやってきては、鞄を投げ捨てて文句を言った。しかし、ハルカはいつも先にそこにいた。机の上には、入念に準備された資料の隣に、いつもいちご味の紙パックの牛乳が置かれていた。
「俺を子供だと思って、こんなものを飲ませる気か?」レンは牛乳パックに不快な視線を投げかけた。
「いちごミルクを飲むと脳のストレスが和らぐんだよ。レンくんは怒りっぽいから、頭を冷やさないとね」ハルカは目を細めて笑い、牛乳パックをさらに彼の方へと押し出した。
口では拒絶しながらも、結局レンはストローを刺して飲み干した。いちごの甘みとミルクのコクが、彼の空っぽの胃袋と火のように熱い頭をなだめてくれた。そうして、ページをめくるカサカサという音の中で勉強の時間が過ぎていった。レンが複雑な方程式を解けずに怒り出し、紙をくしゃくしゃに丸めたときも、ハルカは叱らなかった。彼女はただ静かに紙を平らに伸ばし、細長い指でページを軽く叩いた。
「ここ、移項を間違えてるよ。ほら見て、レンくんは集中しているとき、すごくかっこいいのに、どうしてそんなに簡単に諦めちゃうの?」
突然の褒め言葉に、レンの耳は真っ赤になった。彼は慌てて顔を背け、空咳をして動揺を隠そうとした。その頃から、彼が街で拳を握る回数は次第に減っていった。無意味な喧嘩に飛び込もうとするたびに、ハルカの優しい笑顔と「もう怪我をしないでね」という言葉が彼の脳裏に浮かび、まるで目に見えないブレーキのように彼の中の反逆的な怪物を抑え込んだ。彼は自発的に問題を解くようになり、向かいに座る少女の称賛に輝く目を見たいと思うようになった。
冬が沿岸の町に到来し、骨の髄まで染み渡るような凍てつく風をもたらした。学校の図書室は常に暖房が最大に設定されていたが、それでもハルカのいつも氷のように冷たい両手を温めるには不十分なようだった。
レンは異変に気づき始めていたが、それはただの天気のせいだと言い聞かせて自分を騙そうとしていた。ハルカは目に見えて痩せていき、かつてのクリーム色のカーディガンは今や彼女の小さな肩にぶかぶかだった。咳き込んで言葉を遮る回数が日に日に増えていった。そのたびに彼女は白いハンカチで口を覆い、かすかに微笑んで言った。「ただの風邪で鼻がむずむずするだけだよ。レンくんは勉強に集中して、私のことを見ないで」
初雪が降るある日の午後、ハルカがハンカチを片付ける前に、レンはその上の濃い赤色の染みを目にした。彼の心臓はきゅっと締め付けられ、押し寄せる不安感で息が詰まった。
「本当は大丈夫なのか?」レンは彼女の細い手首を掴み、その声は心配で震えていた。
ハルカはびくっとしたが、すぐにいつもの優しい笑顔を取り戻した。彼女はもう一方の手で彼の手を軽く叩いた。「大丈夫だよ。レンくん、いつから私のことを心配してくれるようになったの?すごく嬉しいな。でも、雪がひどくなる前にこの数学の問題を終わらせてくれたら、もっと嬉しいな」
レンは沈黙した。彼はそれ以上何も聞かなかったが、毎回の勉強の前に自ら温かい飲み物を買って彼女の手に握らせるようになり、彼女が薄着をしているのを見ると心配そうに文句を言うようになった。レンの中の感情は、土の奥深くへと静かに根を張る苗木のように大きく育っていった。彼は、春の卒業試験が終わったら、勇気を出して、ずっと胸に秘めていた告白の言葉を彼女に伝えようと心に誓った。
しかし、レンが待ち望んでいた春は、運命の残酷な宣告と共にやってきた。
それは3月上旬のある日の午後だった。寒さは和らいでいたが、学校へと続く坂道沿いの桜の木々は、まだ裸の枝をさらしていた。レンは図書室に座っており、時計の針はすでに午後5時を回っていた。いちごミルクは冷めきり、数学の問題集は12ページのまま開かれていたが、彼の向かいの椅子は空席のままだった。ハルカが10分以上遅れることは一度もなかった。
目に見えない恐怖に駆られ、レンは立ち上がり、図書室を飛び出した。中央玄関に走り着いたとき、彼は呆然とした表情で電話を置いたばかりの担任の先生に出くわした。
「先生…ハルカはどこですか?あいつが来なくて…」レンは息を切らし、両手で制服の裾をきつく握りしめた。
先生はレンを見つめ、その目は痛ましさと無力感に満ちていた。「レン…ハルカは今、救急車で市中央病院に運ばれたの。あの子…病状が悪化して、ご家族の話ではもう末期で、地元の病院では治療できない状態なんだって」
レンは耳鳴りがした。末期の病気?これまでの数ヶ月間、あの少女は命の最後の残火を振り絞って、彼のような投げやりな人間を引き上げてくれていたのだ。その日から、レンの世界は完全に方向性を見失った。
卒業試験と大学入試が近づき、高校全体が緊張感に包まれていた。しかし、レンには教室に座っている心の余裕などなかった。放課後のチャイムが鳴るやいなや、友達がまだ教科書を片付けている間に、レンはすぐに教室を飛び出した。彼は長い坂道を走り抜け、貧しい村の駅から唯一の電車に乗り、30キロ以上離れた市中央病院へと向かった。彼は疲れも遅くなることも恐れなかった。ただ、自分と彼女の時間が残り少なくなっていくことだけが怖かった。
402号室の病室は消毒液の匂いが立ち込め、寒々しい純白に包まれていた。中央のベッドにはハルカが横たわり、彼女の周囲にはいくつもの管や、感情を失ったかのようにピッピッという音を立てる機械があった。彼女はとても小さく、儚げで、一吹きの強い風だけでどこかへ飛ばされてしまいそうに見えた。しかし、部屋の入り口に立つレンのボサボサの髪と汗だくの顔を見るなり、彼女の疲れた両目はパッと輝いた。
「レンくん…また走って来てくれたんだね」ハルカは酸素マスクを外し、消え入りそうな声ながらも変わらぬ優しさを込めて言った。
「宿題を持ってきたよ」レンは溢れそうになる涙をこらえ、木製の椅子をベッドのそばに引き寄せて、不器用に入念な問題集を開いた。「見てよ、昨日の図形の問題、自分で解けたんだ。一歩も間違えずにね。見てくれよ…早く元気になって、俺の採点をしてよ」
ハルカは注射の痕だらけの痩せ細った手をそっと伸ばし、レンの不格好ながらも整った文字に優しく触れた。彼女の涙が一滴紙の上に落ち、青いインクの一角をにじませた。
「偉いね…私のレンくん、一番偉いよ」彼女は呟いた。「でもね、明日からは毎日ここに来ちゃだめだよ。もうすぐ試験だし、学校の勉強に集中して、ちゃんとご飯を食べて、もっと自分を大切にしないと。私のことは心配しないで…ほら見て、私はまだ大丈夫でしょ?」
「嘘つけ!」レンは声を詰まらせ、彼女の氷のように冷たい手を掴んで自分の頬に当てた。「こんな状態のどこが大丈夫んだよ?試験なんてどうでもいい、俺はただお前に元気になってほしいだけだ!」
「そんな馬鹿なこと言っちゃだめだよ」ハルカは弱々しく咎めたが、彼女の眼差しには深い愛が溢れていた。「君が大学に合格してこそ、私は嬉しくなれるんだから。私の言ったこと、忘れないでね…一生懸命勉強して、本当に輝かしい人生を生きて…」
運命の卒業試験の前夜、レンは病床の傍らに座り、ハルカの手をしっかりと握りしめていた。彼女は彼を見つめ、静かに囁いた。「明日、試験頑張ってね。君が試験を終えたとき、学校の前の桜はきっと咲いているよ。私たち…絶対に一緒に桜を見ようね」レンは頷き、心は奇跡への希望で満ちていた。
4月上旬、田舎の町は春の最初の温かい日差しを迎え入れていた。学校へと続く坂道沿いでは、長い冬の間ずっと霜をまとっていた桜の蕾がついに花開き、ロマンチックでありながらも儚い色彩で空の一角をピンク色に染め上げていた。その日はとても天気の良い日だった。レンは最後の卒業試験を終えたばかりだった。試験室を出ると、彼はすぐに通学鞄を抱きしめ、電車の駅へと飛ぶように走った。
彼は、試験がとてもよくできたことを誰よりも早く彼女に駆けつけて自慢したかった。学校の前の桜が満開になり、約束通りに鮮やかに咲き誇っていることを伝えたかった。
レンの足音が病院の廊下にドタバタと響き渡り、4階の静寂な空気を破った。彼は402号室のドアの前に立ち、胸を激しく上下させて息を切らしながら、その唇には珍しく晴れやかな笑みを浮かべていた。
「ハルカ!俺、試験が…」
レンの言葉が喉元で詰まった。彼の手の中にあった通学鞄が床にボトッと落ちた。
病室は空っぽだった。純白のベッドはきれいに片付けられ、管も、機械のピッピッという音ももうなかった。ただ窓枠が大きく開け放たれており、春の風が迷い込んだいくつかの桜の花びらを連れてきて、誰もいないシーツの上にそっと舞い降りるに任せていた。
「レンくん、だよね?」
後ろから声を詰まらせた声が響いた。レンは魂の抜けた機械のように振り返った。入り口に立っていたのはハルカの母親だった。彼女の目は腫れ上がり、真っ赤になっており、その顔には極限の痛みが刻まれていた。
「ハルカは…あいつはどこですか?部屋を移動したんですか?それとも…」レンの声は震え、最後の儚い幻の希望にすがりつこうとしていた。
ハルカの母親は答えなかった。彼女は歩み寄り、激しく震えるレンの肩を抱きしめて泣き崩れた。「あの子…逝っちゃったよ。今日の午後2時、学校の終わりのチャイムが鳴ったちょうどその時に…とても静かに逝ったよ、唇に微笑みを浮かべたまま…」
レンを取り巻く世界が完全に崩壊したかのようだった。天地が揺れ動いた。彼は声を出して泣かなかったが、熱い涙が雨のように溢れ出し、目の前のすべてをにじませた。彼は冷たい病院の床に膝から崩れ落ち、両手で床を強く叩きつけた。なぜだ?なぜ自分は変わろうと努力し、一生懸命勉強し、彼女が望むすべてをしたのに、神様は残酷にも彼女を奪い去ってしまったのか?
◆ ◆ ◆
3日後、ハルカの葬儀が故郷の小さな寺院で執り行われた。その日は霧雨が降っており、雨に打たれた桜の花びらが散り、参列者の黒い傘にびっしりと張り付いていた。レンは寺の境内の隅に、まるで影のように静かに立っていた。彼は彼女の遺影を見つめた——そこには、図書室での最初の日と同じように、春の日差しのように優しく温かい微笑みを浮かべて自分を見つめるハルカがいた。
参列者がまばらになった頃、ハルカの母親がレンのそばに歩み寄った。彼女は震える手で上着のポケットから、小さな可愛い子猫のステッカーが貼られた淡いピンク色の封筒を取り出した。「これはハルカが入院する前に君に宛てて書いた手紙だよ。この日が来るまで君に渡してはいけないと、私に言いつけていたんだ」
レンは震える両手でその手紙を受け取った。彼は学校の前の坂道を呆然と歩き、かつて二人で一緒に勉強した石のベンチにへたり込んだ。彼は封筒を開けた。手紙の中から一枚の乾いた桜の花びらが落ち、彼の掌の上にそっと舞い降りた。
私の頑固なレンくんへ、
君がこの文字を読んでいるとき、きっと外の桜はとてもきれいに咲いているんだろうね。そして私の予想では、君はまた泣きべそをかいて、不機嫌な顔をしているんじゃないかな。
あのねレン、君にまだ一度も言ったことのない秘密があるんだ。実は、先生から君の補習を頼まれるずっと前から、私は君に注目していたんだよ。高校に入学したばかりの雨の日、顔つきが険しくて傷だらけなのに、道端の野良猫に優しく傘を差し伸べて自分のパンを分けてあげている男の子を見かけたの。その時、レンくんは本当はすごく温かくて優しい人なんだって分かった。私は、その不器用な一目惚れから、君を好きになったんだ。
お医者さんにはもう時間が長くないと言われて、私の世界はかつて病気と苦い薬だけの灰色一色だった。でも、レン、ありがとう。君が現れてくれたこと、一つの数学の問題をめぐって二人で言い争った午後、君が買ってくれたいちごミルク、そして私のために変わろうと努力してくれたこと…そのすべてが、私の人生の終わりの暗い日々を、最も輝かしくて意味のあるものに変えてくれた。君は私の青春であり、光だった。
逝ってしまうことに悔いはないけれど、ただレンと一緒にこれからの成長の道のりを歩めないことだけが心残りです。もう泣かないでね。大学に合格して、私の分まで本当に幸せで輝かしい人生を生きて。毎年の春、桜が咲くとき、私はいつも空の上から君を見守っているよ。
さようなら、私の唯一の初恋の人。
レンは手紙を胸に強く抱きしめ、ピンク色に染まった坂道の静寂の中で、ついにこらえていた嗚咽を爆発させた。彼は風に舞う桜の梢越しに、春の空を見上げた。
「去年のこの日」、彼は自分の人生を変えてくれた一人の天使に出会った。そして「今年のこの日」、その天使は空へと旅立ち、彼に愛を知る心と、この先に続く長い道のりを残していった。桜は今も、ハルカの微笑みのように優しく艶やかに舞い落ち、彼の心の中に永遠に留まり、時間と共に不滅のものとなっていた。




