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光天使と『永死殺総』 ④


「いない、いないいないいない!!!」



 エルの“光球”により群がっていたゾンビが一掃されたところまではアネモネの読み通りだった。だが光によって視界が潰された後、他のゾンビの視界をジャックして探してみてもそこにエルの姿はない。血に濡れた銀髪も、白く輝いていた翼も一際目を惹くからこそ探せばすぐに見つかるはずなのに一切の痕跡なくその姿は消えていた。



「アレで死ぬ?まさか自爆を?でも自爆だとしてもあのレベルの天使が使えばここら一帯を巻き込むことくらい出来るはず。なら、視界を潰して逃げた……?」



 あらゆる可能性を考えても答えが出ることはない。逃げるなど天使がするかといわれれば絶対にありえないとアネモネは断言出来る。悪魔の中で最も多く天使を殺してきたということは、必然悪魔の中で最も多く天使と接して来たことになる。今までの経験上あの手の天使は逃げるくらいならば周囲を巻き添えにしてでも『永死殺総』を殺そうとしてきた。



「自爆じゃないなら逃げた……だとしてもどこに。どこを探しても見つけられない。どの死体を使っても見えない。どこに消えた、アイツ」



 既に『永死殺総』のゾンビはショッピングモールの一階層を網羅出来る程に解放している。これ以上数を増やそうとすれば身動きが取れなくなり逆に不利になるほどに。死体を組み立て出来上がった椅子に腰を掛けながらアネモネは次々とゾンビの視界ジャックを繰り返しエルの姿を探す。だがそれでも見つからない。あの目立つ、正義感の塊のような天使が姿を消していた。



「いや、あいつの能力は光だった。じゃあ光の屈折を利用して姿を見えなくしている可能性だってある、か?」



 ゾンビの五感全てをジャックすることなどアネモネには容易い。だが視界をジャックすることに比べ五感全てなどアネモネの“欲望”が許せない。見下す存在と自信を同一にするような行為など『永死殺総』のプライドが絶対に許せない。



「私は『病孤涙苦』とは違う。弱り切ってもどんな姿になっても生にしがみつくアイツとは違うんだもん」



 彼女の脳裏に過ぎるのは自身と同じ『強欲』の配下だった一人の悪魔。会う度にその姿を変えていたプライドの欠片もない(同類)の存在。自分と似ている“欲望”、「全ての存在に自分を認めさせたい」を持つ上級悪魔。いずれ必ずどちらが上かを決めてやると考えていたライバル。



「どこだ。どこにいるエル・ライトガーデン……!!!」



 討伐されたと聞いて嘘だと確信していた。天使達をその気にさせて嘲笑っているだけだと。相変わらず趣味が悪いと思いながらいつ自分の元に来て騙されている天使達を共に笑おうと言いに来るのかと待っていた。だがいつまで経っても『病孤涙苦』は姿を見せない。


 アネモネが訪れた『病孤涙苦』の拠点の一つでは彼女が作っていた細菌が死滅していた。


 アネモネが見た『病孤涙苦』が奪おうとしていた天使の肉体は未だに健在で笑っていた。


 アネモネが探した『病孤涙苦』の姿はどこにもなくその気配も能力の影響もなくなっていた。


 認めざるを得なかった。『永死殺総』がライバル視していた、世界にその“欲望”を持って脅威年を振りまいていた『病孤涙苦』はもう死んでいるのだと。生きているのであれば細菌が死滅するわけがない。肉体を奪おうとした天使がいつまでも笑っていられるわけがない。今だって次々と人間にとって脅威となる病の発生率が下がるわけがない。



「私のライバル(友達)を消しておいて、尻尾を巻いて逃げるなんてそんなの許さない――――!!!!!」



 影法師ドッペル、光天使エル、風天使シルフィ。その三人の復讐対象を殺す機会を待っていた。そんなときに『炎天渇奪』が声を掛けてきた。三体の上級悪魔が手を組み『病孤涙苦』を殺した三人が拠点としている街で騒ぎを起こす。確実にあの三人はここに来ると確信していた。だからアネモネはあのうさん臭い悪魔の誘いに乗ることにした。

 一度戦うことが出来ればその後は逃げて対策を考えればいい。そんなことを自分が考えることなど容易に想像出来る。だがそんなこと許せないからこそ『炎天渇奪』と契約を結んだ。絶対に自分が逃げられないように、『病孤涙苦』への情とそれによる復讐など認めたくないからこそ『傲慢』の死体を報酬として求めた。

 自分が利用されていることなど分かりきっている。それでも答えは変わらない。この“欲望”(怒り)を解放することが出来るのであればどんな思惑だろうと乗ってやると考え、今この瞬間まで復讐対象の一人であるエルを追い詰めたのだ。



「何処に行こうと何時まで逃げようと必ず見つけ出してぶっ殺して私の元で永遠に苦痛と屈辱を与え続けて―――――」



 このショッピングモールで人間達を使って遊ぶことで一時的に抑えつけていた怒りが爆発しかけ、その瞬間足元から伝わる僅かな振動に違和感を持つ。欠片ほどの理性さえあればアネモネはその多大な経験則からその違和感の答えを見つけられる。



「まさか、アイツ」



 最初は違和感を持つ程度の揺れが段々と大きくなってくる。揺れの原因が近付いてきている証拠だ。即座にアネモネは能力により使役している天使ゾンビをこちらに戻るように指示を出す。だが戻ってくるよりも揺れが大きくなることの方が早い。



「あの、クソ天使」



 途中までその違和感に気付かなかったのは、既にあった穴を用意していたからだろう。土を操る天使ゾンビがエルに奇襲する為に作ったトンネルを逆に利用して通っていた。穴の中では暗すぎて視界を奪っても見ることは出来ない。“光球”によってゾンビとアネモネの視界を潰し、出来た隙間を使って穴の中に入り込んで『永死殺総』の本体まで逆侵攻を仕掛けた。



「地面を通って――――!!!!」


「正解ッ!!!!!」



 答えに辿り着いたその瞬間にアネモネの足元が爆発し光の矢が殺到する。咄嗟に使い捨てのゾンビを盾にすることで直撃を避けることには成功するもエルの溜め込んで放った光に多くが解放され昇天する。



「逃がしませんッ!!!!」


「誰が逃げるかァ!!!!」



 エルが“光槍”を構えてアネモネに肉薄する。一撃食らうだけでゾンビは消えてしまう以上数を出したとして無意味だと即座に判断しその能力の切り札を切った。アネモネの背後からあらゆる死体を纏めたような肉塊が現われ様々な攻撃が放たれる。炎も風も土も水も、その身体を死体に変えようとエルに殺到する。その全てを放った光で相殺しながらエルは翼を広げ下がるアネモネを追う。



(ここで逃がしたらもうチャンスはない!!!)


死体侵攻(デッドオンパレード)!!!!」



 肉塊となっていた死体が爆発し、辺り一面にエルを囲むように弾け飛ぶ。直後襲い掛かる天使ゾンビの能力の数々にその身を削られながらもエルは止まらない。ここで殺せなければ敗北すると確信し不退転の覚悟を決めたエルは致命傷だけを避けてその手に持つ“光槍”をアネモネに突き出す。血に濡れた姿を見せたらきっと彼は心配するだろうと考え、それを少し嬉しく思う自分がいることを笑いながら。



「私を、アイツを見下して笑うな、エル・ライトガーデンッ!!!!!」



 それがアネモネの神経を苛立たせ冷静さを奪う。本来であればここまで追い詰められれば契約による不利益を被ってでも逃げに徹する。必ず次があると考えて戦力を温存しながら姿を消す。だが今の『永死殺総』にその冷静さはない。



「ここで終わりにします!!!」


「終わらない、お前を使ってドッペルもシルフィ・エアロードも殺すッ!!!!」



 咄嗟に転がっている天使ゾンビの持っていた槍を手にしてエルに突き出す。互いの槍がぶつかり合い激しい金属音と火花を散らす。槍越しに天使と悪魔の視線が交わる。天使は多くの人々を殺しその安寧を奪った悪魔に対する怒りを。悪魔は不死身を誇った友を殺し決着の機会を奪った天使に殺意を。互いに相手を許容できないと感情をぶつけ合う。



「ク、ソォ!!!!」



 拮抗は一瞬だけ。弾き飛ばされたアネモネの手から槍が離れ遠い地面に突き刺さる。死体を集め敵をゾンビという手数でで圧殺し続けてきた『永死殺総』と、その身一つで戦い続けてきた光天使ではその身体能力と技術に差がある。長年生きても“欲望”を満たすことしか考えてこなかった悪魔が最上の才能を戦う事と守ることに捧げてきた天使に叶う道理はない。



「これで、最後ぉ!!!!!」



 エルの持つ“光槍”がアネモネを捉える。一瞬あれば貫ける。そうすれば上級悪魔といえど確実に滅殺出来ると確信して。

 その直後エルの真上の天井が激しい爆発を起こし、周囲を赤い炎が取り囲んだ。


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