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天使達とお昼ご飯

 “天使”、リルナ曰くそれは悪魔と戦うためにこの世界にやってきた異世界の住人。悪魔と関係しているとバレたら存在自体抹消されかねない僕にとって天敵のような存在。



「大体アンタはもう少し愛想よくしてもいいと思うのよ。もう少し表情筋を緩めなさい」


「そうは言われても……マッサージなどをして対処はしているはずですが効果が出ないんです。身体の柔らかさには自信がありますが」



 その二人は今普通の少女のように食堂でそれぞれ目の前にある食べ物に箸とスプーンを向けていた。この光景だけを見れば天使云々なんて僕は欠片も信じられないだろう。

 いや、リルナという超常的存在を知ってからじゃなければ幼馴染設定なのにエルとの昔の記憶がないという点も流していたかもしれない。そもそもなんで天使が人間の生活に入り込んでいるのかそこから疑問である。

 今更ながら僕は何も知らないのだと自覚せざるをえない。とはいえこのまま思考を回して会話をしないというのは不自然極まるので頑張って少女二人の会話に口出しすることにする。



「確かにエルは凄いよね。脚広げて長座体前屈して身体が地面につくもん。流石に僕もあそこまでは出来ないしなぁ」


「リョウ君はその分私にない筋力がありますからね。それにリョウ君でも十分身体は柔らかいと思いますよ。ストレッチを手伝っているのでわかります」


「ストレッチの手伝いって何してんのよ」


「???それはこう、背中を身体全体で押していますが……」



 その時のことを思い出してつい顔が強張る。あの時はマジで色々と柔らかい部分を背中が感じて死にそうな気分になった。あの時は脳内で必死に幼馴染だからと連呼していたが今はその対策は不可能である。結論からして言うともう一度やられたら僕は死ぬ。色んな意味で。



「アンタそれ男子高校生には凄い毒だと思うわよ……」


「毒なんて仕込みません。何を言うんですか」


「いや毒だよ、色んな意味で。あんまり女の子がそういうところに無頓着なのはダメだと思うんだよね……」


「リョウ君!?」



 裏切られたという表情のエルと、そりゃそうだと言わんばかりに眺めるエアロードさん。今こうして和気藹々と話しをしている二人がその天使だそうだ。

 エルに関してはほぼ間違いない。そうじゃなければ僕に幼馴染設定を用意して同居したりしない。いや今でも正直なんでそんなことしてるんだろうと思わないでもないが彼女と一緒に暮らせるというのは役得にしても過剰なくらいなのでこちらから感謝したいくらいだ。



「コイツ天然気味だから、悪いとは思うけどよろしく頼むわね」


「うん、知ってる。ところどころ抜けてるところがあるもんね、エルは」


「リョウ君!??!」



 何故!?という表情をしているが年頃の男子高校生に対して気軽なボディタッチはNGだろう。僕が紳士的人間だからよかったものの、幼馴染設定であんなことされたら普通は誘っている物だと思って押し倒してもおかしくはない。

 そう、エルの行動によって僕の人生が壊れていないのはただひたすらに僕の理性の強さがあってこその物なのだ。



『それ世間ではへたれって言うんじゃないのかな?』


『だまらっしゃい。勇気と無謀は違うものなんだ。僕はただタイミングを計っていただけでへたれなんかじゃないんだ』



 リルナの言葉に反論する。へたれではなく慎重だと言ってほしい。というか裏事情しった今だと猶更行動に移さなくてよかったと思う。

 押し倒した後「そんなつもりではなかったのに……」とか「リョウ君がそんなケダモノだと思いませんでした」とか言われたら、僕の純粋な心は砕かれてしまうだろう。



「エル、僕もあまりこういう言い方するのは、君の善意を踏みにじるようで非常に心苦しいんだ。それでもあえて君の今後の為に言うね。あのストレッチの手伝いとか目の前で身体の柔らかさを見せるとか身体を密着とかされると君が僕の事好きなんじゃないかって勘違いしそうになるんだよ」


「私はリョウ君の事好きですが……?」



 駄目だ。真っ直ぐそのまま伝えてもエルには届かない。だがこれ以上のことを僕の口から言うのは恥ずかしすぎる。

 もはやこれまでと諦めかけたその時、呆れたようにこちらを見ていたエアロードさんが大きなため息を吐き、任せろとばかりにサムズアップしてくれた。エルとは付き合いの長いはずの少女に対し後を託す形で僕は頷く。



「違うわよエル。彼が言っているのは家族愛とか親愛とかじゃなくて恋愛のこと。要するに番になってずっこんばっこんするような関係になりたいって思ってるんじゃないかって勘違いするって話」



 結果超爆弾発言をぶち込んでくれた。最早核弾頭と見間違うほどの、周囲一帯から草どころか根っこさえも全て焼き尽くすような発言だった。

 確かに頼ったのは僕だったが流石にこれを僕の責任にされても困る。



「つがっ!?ず、ずっこ……!?シルフィ!?一体な、何を!?違いますよねリョウ君!?」


「肯定でも否定でもどちらにしても後に引く質問やめて欲しいなぁ……!!」



 当然言われた側のエルは顔を真っ赤にさせて咳き込みながら真偽を確かめてきた。でもこれを僕に聞くのはやめて欲しい。新手の羞恥プレイか何かかな?

 しかも爆弾投下した張本人であるエアロードさんは手に顎を乗せてニヤニヤしながらこちらを余裕そうな顔で眺めている。他人だから効きまセーンと言わんばかりの態度になんとか巻き込みたい欲求に駆られるがここはまずエルを止めなければ僕達の私生活に関わる。



「エル、よく聞くんだ。エアロードさんの言う事はその、過激というか言い方が下手というか本当にアイドルかこの人かってくらい品のない言い方だけど大本は合ってると思う」


「そこまで言われるようなことなの……?アイドル仲間は似たような感じだったけど……」


「僕の中のアイドル像をぶち壊しにかかるのやめてもらっていいですか???」



 考えてみればリルナの言う事が本当ならばエアロードさんもまたエルと同じく天使らしい。エルの天然具合と同レベルの世間知らずさがあると仮定するならこんなはっちゃけた言動はお仲間の影響なのかもしれない。



「……一回どこかで女の子らしい言動の勉強会とか開いた方が良いかな。男が一皮むけばケダモノになる可能性のある危険な生物だということも……」


「リョウ君は冗談が下手ですね。もしリョウ君が一皮むけてもきっと可愛らしい子犬みたいな感じですよ」


「エル、それは男に対しては誉め言葉じゃないんだ。可愛いよりカッコイイの方が嬉しいんだよ男は……」


「そうなんですかシルフィ?」


「さぁ……?男友達なんて初めて出来たし……」



 二人して顔を見合わせてコテンと首を傾げている。その様子が非常に可愛らしく和むのと同時にこの二人の男慣れのしてなさに愕然とする。

 このままでは悪い男に騙される可能性が高過ぎるんじゃないかと心の底から心配になる。かと言って僕が何を言っても彼女達には響かないだろう。



「リョウ君、頭抱えてどうしたんですか?眠くなったのならどこか横になれるところに行きましょうか」


「そういえば顔色もあんまり良くなかったわね。悩み事でもあるの?」


「うん。どうしたら二人に自分が魅力に溢れてるかを分かってもらえるのかすごく悩んでる。僕が何言っても誉め言葉しか出てこなくて具体的な良さの説明にはならないからなぁ……」



 寝不足の頭では大した考えが生まれない。牛カルビ丼を食べ終わったことでお腹が膨れて更に眠気が襲い掛かってきてる時にこんな難題の答えを探さなければならないとか僕が何か悪いことしただろうか。いや悪魔が宿ってるネックレスをつけてる時点で神様視点では絶許案件なのかもしれないけど。



『お兄さーん、前見て前』


「えっ」



 適当に言葉を出しながらどうすれば二人に今の危機的状況を伝えられるかを考えていたらリルナが呆れたような声音で忠告して来たので言われたとおりに前を見てみればそこには顔を真っ赤にしたエルと半眼でこちらを見るエアロードさんの姿があった。



「…………エル、この人いつもこうなの?」


「…………寝不足の時は、何も考えずにこんな事言ってます。脳内の考えを垂れ流すというか思ってることが口から漏れ出すというか」


「えっ、なに。僕なんか言ったの!?」


「わぁ、本当に無意識だったんだ。沢渡君、何か言う時はちゃんと考えてからじゃないと駄目だと思うわよ。じゃないと人によっては気持ち悪いって思われるから」


「本当に僕は何を言ったんだ!?セクハラでも言ったの!??変なこと言ってたらごめん!!!」


「いえ、リョウ君が反省してくれるならそれでいいです。言われて嫌な事ではありませんでしたから」


「そうね!!いい感じに承認欲求を満たされた感じがするから今回は許すわ!!もっと私を褒めて欲しいけどそれは今後に期待ね!!!」


「えぇ……?」



 何を言ったかを二人は全く教えてくれなかった。それは脳内にいるリルナも同じだった。というかこっちはこっちで僕の渡した質問リストの答えを思い出そうとうんうん言っているので邪魔したら悪い。


 しかしこうなっては二人の魅力と危機的状況を僕だけで彼女達に教えるのは非常に難しいと考える。だが僕は一人ではない、こういう時は仲間や友の力を借りればいいのだ。



「エルとエアロードさんって今日の放課後とか暇?」


「私は暇です。てんか、バイトも休みですし」



 今天界とかって言おうとしていなかった?正気に戻った頭で思い出せばこの一ヵ月似たような言い間違いを何回もしていたが、エルは意外とポンコツなのかもしれない。



「私も今日はアイドルの仕事はないわね。何か放課後にしたいのかしら」


「うん、僕だけじゃ二人の魅力を伝えきることはできない。だから友の力と集合知を使おうと思って。二人とも時間があるなら放課後教室に残ってほしいかな!!」


「別に構いませんが……」


「昨日は疲れたし今日は休もうと思ってたから構わないわ」


「よっしゃ!!それじゃあ人集めてくるね!!!」



 二人から許可を取ることに成功した僕は急いで牛カルビ丼の器を食堂に返却しクラスに戻っていく。

 エルは学年でも評判の美少女だし、エアロードさんなんて庇護欲と褒めたくなる欲求を持たせる美少女だ。二人と会話できる機会を作ると言えばクラスの男子共なら間違いなく何人だろうと捕まるだろう。

 いざという場合は智弘君にも手伝ってもらえばクラスの全男子も全女子も誘える可能性もある。放課後は二人のいいところを言いまくって男を勘違いさせてはいけないということを身をもって知ってもらわなければ。



『お兄さんって行動力バケモノとか言われたことない?』


「行動して後悔するかなんてわからないからね。いつだって僕は僕の考える最善策を実行するだけだよ」


『分かってるならアタシが言う事は何もないけどねぇ』



 その言葉はどこか呆れたようで、それでも眩しい物を見たような、そんな声音だったのは僕の気のせいではないだろう。

 こうして僕は二人目の天使と出会い、彼女達が自分を客観視出来ていないことを知った。知ったからなんとかせねばならないと決意するのだった。





「いいツガイ候補、見つけたじゃない。……羨ましいわ。私は全然見つからないし」


「…………リョウ君は、違いますよ。私達の事情に巻き込みたくはありません」


 だけど僕は食堂に残された二人がそんな会話をしていることなど露とも知らなかった。



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