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光と影と修羅場


 ヤバい。物凄くヤバい。どれくらいヤバいかと言えば『病孤涙苦』の馬鹿に追い詰められた時並みにヤバい。というかそれ以上にヤバいかもしれない。ヤバいがゲシュタルト崩壊してるよ馬鹿野郎。



「リョウ君……?」



 目の前に怪訝そうな顔をした銀髪美少女がいる。いつも見るだけで幸せになれる彼女はただ今だけは僕の背筋を凍らせる使者でしかない。

 今リルナは店員さんに連れられて服を試着しに行っている。彼女に用意された服は着るのに色々と順序がいるらしく一つ一つ教えてくれているので時間がかかるはずだ。その前に何としてでも言い訳を並べ立ててエルをこの場から引き離さなければならない。



「え、エルは一体どうしてここに?」


「えっと、後輩に街を案内しに……。夏休み後にこちらに来るらしいので事前チェックという奴ですね。ヒャン、挨拶を」


「初めまして。エルさ……エル先輩の後輩のヒャン・フレイムです。よろしくしなくていいです」


「よろしく……えっ、今しなくていいって言った?」


「気のせいですよ。この男がエル様の……!!」



 エルの後ろから歩いてきたのはどことなくエルと雰囲気の似た少女だった。明るいオレンジの髪をエルと同様腰まで伸ばした少女。少女というにはその身長は僕よりも高い180cmくらいありそうだが雰囲気や立ち振る舞いが年下感を出している。ただエルとは胸の辺りが比較できないくらいにボンだったが。僕はどうでもいいんだがきっと視線を集めるんだろうなと思う。なんか最後に凄い怨念を感じたが今はスルーしておく。



「そ、それでリョウ君はどうしてここに?」


「えっと、あー、その……」



 駄目だ、時間を稼いでその間に言い訳を考えようと思っていたがその言い訳が思いつかない。そもそも僕はエルに嘘を言ったことがほぼない。言っていない事はそれこそ山ほどあるけれど、口にすれば何故か彼女はすぐさま看破してくる。だがここでリルナが悪魔だとバレてしまえば芋づる式に僕がドッペルであることもバレる。今更リルナを見捨てるという選択肢はない以上、彼女を殺されそうになったらエルが相手でも戦わざるをえない。



(勝っても負けても今の生活が崩壊するって言うのが確定しているのがなぁ……)



 勝った場合、エルやシルフィとはもういられないだろう。学校に通うのも無理になる以上ここから離れるしかない。リルナと二人旅の始まりになってしまう。教授達のことは自分達で何とかしてもらう。脱出プランを幾つも用意していると言っていたから大丈夫だと信じたい。

 負けた場合、こちらの方は更に絶望的だ。リルナは殺されるだろうし僕は恐らく記憶を弄られてエルやシルフィ、天使達のことを忘れてしまう。それは絶対に嫌だし迎えたくない未来でもある。まぁもっと悪い未来もあるかもしれない。こう、“愛”を吐き出す機械にされるみたいな。



(つまり僕は絶対にボロを出さずにこの場を誤魔化すしかないということだ)



 やれるか、ではない。やるしかないのだ。ここでやらなければ今の最高の生活を手放すことになる。それだけは認められないのだから。

 やってみせろよ沢渡リョウ!!何とでもなるはずだ!!!!



「ちょ、ちょっとここには寄り掛かっただけですぐに離れるつもりだったから他意はなくて」


「お・に・い・さーん!!!」


「むぎゃ!?」



 後ろから声と共に暖かい上に柔らかい何かが抱き着いてくる。この声を僕が間違えることはありえない。毎日、いつも聞いている声なのだから。つまり、リルナがニヤニヤした顔で僕の背中にしがみついていた。



「アタシの服買いに来たのにアタシの方見ないってどうかと思うなー?んにゅ?」


「あっあっあっ」


「ああ、なんだ。お兄さん―――リョウちゃんがいつも話してる例の幼馴染さんかぁ。今日一日はリョウちゃんはアタシが独占するから用事あるなら行った方が良いんじゃないのぉ?」


「な!?なにおう!?!?!」



 僕から離れたリルナとエルの視線がぶつかり合って火花を散らしている。何故か知らないけどお互いに相性が悪いらしい。これまで僕の中にいたからエルのことは知っているはずなのにリルナはそんなことお構いなしに滅茶苦茶喧嘩売ってる。



「あ、貴女は誰ですか!?りょ、リョウ君の周りに貴女のような人はいなかったはずです!!!」


「それって学校でのリョウちゃんの周りのことでしょー?アタシはリョウちゃんのバイト先での関係者だもん。知らないのも当然じゃないかなぁ?」


「うぎゅう!!?」


「というかー、幼馴染とはいえ異性の交友関係全部知ろうっていうのおかしいんじゃないかなぁってアタシとしては思うんだよねぇ。所詮は幼馴染でぇ、恋人とかじゃないんだしさぁ?」


「で、ですが貴女は私のことを知っているではありませんか。それは貴女がリョウ君から色々と聞いていることの証拠になるはずです。私がおかしいというのであれば貴女もまた同じではないでしょうか」


「いやだってリョウちゃん口を開けばアンタとアンタの親友の話ばっかするんだもん。耳に胼胝ができるくらい聞かされるこっちの身にもなってほしいんだけど」


「わ、私の話をリョウ君が……!?」


「そういうところで動揺してるから一切関係性が進展しないんだとアタシ思う」



 エルとリルナがマシンガントークしている。言葉の撃ち合いとはこのことを言うのかもしれない。むしろこれくらいならまだ可愛い方だという人もいるだろうが、生憎こういった状況を今まで経験してこなかった僕にはわからない。

 ただ二人共ここまではじゃれ合いのジャブのつもりなのだろう。エルと火花を散らしていたリルナがこちらを振り向きまるで太陽のような輝かしい笑顔を見せる。こんな状況でもなければ是非写真を撮って額縁に飾りたくなるくらい輝かしい笑顔だ。口端から見えている八重歯が獲物を見つけた獣を連想させるけど気のせいだと思いたい。



「ねぇリョウちゃーん?アタシの服どうかなぁ?リョウちゃんのリクエスト道理のフリル付きの小悪魔系ファッションだけど」


「えっ、凄い似合ってる以外の言葉がないよ。敢えて言葉を尽くすとしたらリルナのキラキラした金髪をもっと映えさせるような黒と白の相性が凄い。服が髪を、髪が服をより際立たせるというか。でもそれはそれとして腕とか足とか全部隠すわけじゃなくて見えさせることで涼しさも演出してるのは流石の店員さんだよね。しかも普段日に当たらないからか凄く綺麗な白い肌を魅せて思わず見ちゃう。リルナの宝石みたいな目も相まってなんというかこう、森に囲まれた屋敷の奥にある宝物を擬人化したみたいで凄いし他にも」


「ストップストップ、もうそれ以上はいいから。端的に言ってほしいなリョウちゃん」


「滅茶苦茶可愛い」


「ありがとー♪もうリョウちゃんったら、照れると早口になった上に多弁になる癖は直した方が良いと思うよぉ?」



 僕の首元に腕を回して抱き着いてきたリルナが耳元で囁いてきて背筋がぞくぞくする。なんかいけない事をやっている気持ちになってしまい、顔に血が集まるのを自覚してしまう。今までこんな事なかったのに何故いきなりこうなってるのか分からない。



「リルナさん、と言いましたね。リョウ君からすぐに離れてください。迷惑になっています」


「えー、リョウちゃんは嬉しそうだけどぉ?自分がしたくても出来ないからって人にあれこれ言うのは情けないと思うなぁ?」


「ぬぐっ!!で、ですがリョウ君は人前でそういうことをやられるより二人きりの思い出としてそういうことをやられた方が嬉しいはずです。見られていることを意識してしまい集中できないということで。つまり貴女のそれはただ単に貴女の欲望によるものでしょう」


「うぎっ!?い、言ってくれるねぇ?リョウちゃんの話を聞いてるだけで分かるヘタレの癖にぃ。そうやって一歩をずっと踏み出せないからこうなってるんじゃないかなぁってアタシとかは思うわけ。シルフィとかって言ったっけ?あっちの方がよっぽどちゃんと距離感詰めてるんじゃないかなぁ!!」


「し、シルフィはいいんです!!ちょっと身内判定したら距離が凄く近くなってしまうのは直した方が良いと思いますがそこを含めてのシルフィですし、何かあればすぐに褒めるリョウ君との相性がいいのも知ってますからね!!!ですが貴女は慎みを知らなすぎだと思います!!!」


「慎みとか気にする前にもっと気にすべきところがあると思うなぁ!!!一歩踏み出して距離を詰めるのはいつもリョウちゃんでアンタはいつも待ってるだけでなーんにも動こうとしない!!そんなんだから大切なモノを落としちゃうんだよこんな風にねぇ!!!」


「進むべき点とそうでない点を履き違えて距離を詰めることは相手を追い詰めることでしかありません!!!相手の事情、自分の事情、周囲の事情、そういった物を考えてようやく初めて踏み出すべきかを判断できるんです!!!それを無視して進めばあるのは破滅だけです!!!!」


「一緒に破滅してやるくらいの気概も持たないでなぁに言ってるんだか!!!破滅する最後の一瞬まで一緒にいてあげるくらい口にできるようになってから言ってみなよ!!!」


「相手の破滅を受け入れるなどありえません!!!それこそ一緒に生き抜いてベッドで静かに眠る彼の最期を笑って見送ると言えないそちらの方が問題では!!?私は違います、私はリョウ君を幸せにしたいですしそれが私の幸せです!!!」


「はぁ出た出たそういうの!!アンタの幸せとリョウちゃんの幸せがイコールじゃないっていううのが分からないかなぁ!?その最後で満足できるのはアンタだけかもしれないじゃん!!!リョウちゃんにはリョウちゃんの生き方があってそれに最後まで付き合うのがアタシの幸せだよ!!!」



「「リョウちゃんはどう思いますか(う)!!?!」」


「とりあえず二人共落ち着いてほしいかなって」



 なんか想像以上に二人の相性が悪い。天使と悪魔とか関係なく、性格というか魂の時点で相いれない感じがするというか。なんと言えばいいのか判断に迷うが、根本の部分で似てるところはあるんだけどだからこそ嫌いあうというか。

 ただ一つ言えることは、二人の美少女に腕を引っ張られてるこの状況は男の夢なのではないかということだ。割と本気でなんか嬉しかったりします。それはそれとして腕が痛い。



「……なんなんですかこの状況は」


「青春、かしら。あるいは好青年の失敗?だけどこれも糧にするのよ少年」


「いや誰ですk本当に誰!?」



 二人がいがみ合ってそれを止めている僕をヒャンさんと店員さんが見ながらそんなことを言っていた。助けてほしいのだけどそれは期待しない方が良さそうだ。

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