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影法師と悪魔達 ②

 僕のバイト先、『スメラギ製薬』では様々な業務が待っている。例えば趣味人な研究員達を何とか制御して進捗状況を逐一確認する。例えば部署同士でバチバチやり合っている所に介入して何とか落としどころを見つけたり。バイトの仕事じゃないよねコレと誰もが思う仕事が多い。

 ここの社員、天使と悪魔について全員知っているからそこは気楽なのだが社長が社長だからなのかとんでもない人格の人が多い。


「待遇改善を要求するデス」

「他人をダメにするソファに沈み込んで言ってるのなんかシュールだね」

「いやぁ、これは本当にいい買い物したデスよ。ドッペルさんもお金半分出してくれてありがとうデス」


 それらを考えた上で僕の最も大切な仕事は協力者たる悪魔達のモチベーション維持なのかもしれないが。ここ最近滅茶苦茶働かせた反動かディアンナが液体のようにソファに沈み込んでいる。

 移動要因として本当に助けられている。影の中に入り込んでからの転移は時間的制約がある僕のような学生にとっては神に等しい能力なんだ……!!


「頼られるのは別にいいんデスが、仕事が多いのは死ぬほど嫌デス。わたしは生涯堕落して生きていきたいのデス。出来ればヒモになりたい」

『ある意味悪魔の本能に忠実過ぎるほど忠実だね……。怠惰ってこういうのをいうんじゃないかなぁ……?』

「あまり甘やかしたら駄目よ。その子、暇さえあれば寝てるか食べるかしかしてないんだから。教授の作ったメイド人形のせいでろくに動きもしないのよ」

「労働の対価なのデス。というか飛行機に乗せられて二ヵ月間やれあっち行けだのこっち行けだの文字通り全国飛ばされたデスよ?これくらいの堕落は許されるくらい働いたデス」

「うん、それに関しては本当にそうだと思う。本当に感謝してます、はい」

「分かればいいのデスよ」


 フフンと笑っているが、実際ディアンナの言っていることは正しい。ドッペルとして活動し始めて二ヵ月以上経っているが、活動範囲を日本に絞らないで海外まで行けるのは彼女のおかげだ。

 酷使した影響か“欲望”のチャージさえあれば距離関係なくマーキングした場所に一瞬でいける。最初の頃は何度か間に挟まなければ遠くまで行けなかったことを考えると本当によく成長してくれたと軽く崇めたくなるくらいだ。


「初海外がドッペルとして行ったから観光も何も出来なかったのが残念だったなぁ。いつかもう一回行ってちゃんと見て回りたい」

『悪魔の活動目的からして人が多いところで色々とやらかすから自然と観光名所とかに近い所で戦ったりするもんねぇ』

「タワーブリッジがぶっ壊されそうになったのは流石に焦ったよ。天使達が急行して認識阻害してくれたからニュースとかにならなかったけど……」

「ドッペルさんが戦ってるところを眺めながら食べるお菓子は美味しかったデスよ。イギリスって料理不味いイメージあったデスけど食べれる物もいっぱいあったデスね」

「お前ドッペル様が戦ってる時に何してるの?」

「イダダダダダダダ!!???ちょっ!?やめるデスマジで頭割れるデスよこの馬鹿力っ!!!」


 人をダメにするソファでゆったりとしていたディアンナの頭をアイアンクローで掴み上げたヒルダのこめかみには血管が浮き上がっている。彼女にも助けられている。僕がいない間の身代わりとしてアリバイ工作をしてくれているおかげでエル達に疑われずに済んでいる。


「お前ら何やってんの?喧嘩か?喧嘩なら参戦していいか???」

「ふざけんなデス!!お前みたいな脳筋とやり合うとか命がいくつあっても足りないデスよ!!」

「今私達は大切な話をしてるのよ、ダフネ。貴女は……なんで汗だくになってるのよ。さっさとシャワー浴びてきなさい」

「今まで模擬戦やってたからなッ!!!いやぁ、ドールの奴が結構強くなってきてやり甲斐があるってもんだ!!!今回は両者ノックアウトだったぜ!!!」


 褐色肌の筋肉美女が豪快に笑いながら教授特性のバトルルームから出てくる。汗をかいたからか上半身を脱いでいる。タオルで大事な部分は隠されてはいるが咄嗟に目を逸らした僕をヘタレと言える奴はいないはずだ。

 アイアンクローしているヒルダに、上半身裸のダフネ、頭を鷲掴みにされて身体をぶらぶらと揺らしているディアンナ。なんともまぁシュールな光景だ。


「そもそもわたしは戦闘得意なタイプじゃないデスからドッペルさん手伝おうとしても邪魔になるだけデス!!だから見ていただけなのはチームプレイって奴デス!!適材適所デス!!!」

「見ていただけなのはいいとして、お菓子を食べながら観戦ムーブなのはどういう事よ。野次まで飛ばしていたって話じゃない、ええ?」

「いやだって凄く見応えがあっだだだだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!!!!?」

「なんだ、喧嘩じゃねぇなら興味ねぇや」


 凄い、ヒルダの指がディアンナの頭に沈み込みそうになってる。あれは相当痛いだろう。僕は別に構わないんだけど誰かが怒っている理由を否定するというのはちょっと躊躇ってしまう。

 そしてダフネは我関せずと言わんばかりにシャワールームに向かう。ここ二ヵ月で分かったが、この三人ベクトルが違うだけで全員マイペースである。


「ふむ、なんだか大変なことになっているみたいだ。帰った方が良いかね?」

「教授、この状況を見て即座に撤退を選択するのやめてくれません?」


 扉が開きまずこの惨状を目撃したこの実験室の主はそのままUターンして消えようとしていたので即座に影を使い捕まえる。この二ヵ月でリルナ抜きでも簡単な操作くらいなら出来るようになった。とはいえ戦闘の時にはやはり補助をしてもらった方が圧倒的に戦いやすいのだが。


「教授!!教授!!それにリョウさんも助けてくださいデス!!わたしの頭の中身がザクロみたいに飛び散るデスよ!!!」

「まだまだ余裕があるらしい。ヒルダ君、ここでやると汚れるかもしれないから続きは隣の部屋で頼むのだよ。そちらの方ならさっきのダフネ君達の模擬戦の影響で酷いことになっている分好きにしてくれても問題ないはずだ」

「可憐な小悪魔系美少女がグロいことになるのになんだその反応はデスぅ!!!??!」

「まだ余裕があるみたいね。続きはあっちでやるわよ」


 ディアンナがズルズルと引きずられていく。隣の部屋に行った時が彼女の最後になるのかもしれない。もし戻ってきたら彼女の好きなマカロン辺りを作ってきてあげようと思う。


『自分の“欲望”に関する事になるとやっぱり悪魔って暴走しやすいよねぇ』

「本能的にそうなっているのだろうな。吾輩とて出来ることなら煩わしいことなど投げ捨てて実験とドール君の新機能について考えたいところだ」

「仕事があるからこそメリハリがつくもんだと思いますけど……」

『好きな事だけして生きていける程世の中甘くないってことだね』


 心の中にいるリルナと共に頷き合う。好きな事だけする、それはそれできっとつまらないことになると思う。そんな風になったことがないので絶対とは言えないけれど。


「相も変わらず君達は仲がいいのだな。その仲を取り持つ一助になれれば幸いである」


 うんうん頷いている教授に色々と言いたいことはあるが、多分言っても暖簾に腕押しなのでやめておく。この人は僕達の関係性を間違えていると感じる日が度々ある。

 そんなことを考えているとはまるで知らない教授はそのまま腕を大きく広げて自身の研究成果を大きく発表した。


「では始めよう。リルナ君の解放実験だ」

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