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いずれ神成る恋物語  作者: アーックス
歌と病のラプソディ
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エピローグ② そして歌姫は恋おちる


 雲一つない晴天。小鳥の鳴き声が聞こえてきて陽気な気分になる。こんな日は絶好のランニング日和と言えるだろう。

 まさに生きているだけで陽気になれると言っても過言ではないくらいに外は素晴らしい。しかも今日は気温もちょうどいい感じなのだ。是非身体を動かしたくなる気分だ。



「なのになんで僕は病院で寝てるのかなぁ……?」


「リョウ兄が馬鹿やったからじゃない、の?」


「鈴ちゃん、これは病気のせいなんだ。僕の行動による結果じゃないんだよ?」


「本当かどうか疑わしい、ね。リョウ兄は普段の行いを省みた方が良いと思う、よ」


「悪いなリョウ。コイツ相変わらず生意気でよ。昨日の夜お前に電話かけたらでなくて膨れっ面になって機嫌悪くなってんだ」


「お兄は余計なこと言わない、で」



 ぺしぺしと隣に立つ智弘君の肩を叩いている小柄な少女。黒髪を腰まで伸ばしているまるで生きたひな人形のようでいて、そこから怖さを抜いたような美少女の名前は鈴ちゃん。

 中学時代から友人だった智弘君の家に遊びに行った時に知り合い今でも仲が良かったりする。今は中学三年生で来年僕達の通っている高校に入学することを目標にしている受験生でもある。

 その為去年から何回か僕の家に来て勉強会をしたりしてる。もちろん智弘君も一緒にだ。その時にも思ったが非常に仲のいい兄妹である。



「それじゃあリョウ。ゴールデンウィーク明けちゃんと学校来れるようにしとけよ。また来る時に千羽鶴持ってきてやる」


「えっ、本当?じゃあ飾る場所考えないとなぁ」


「本当に千羽あるかは私が数えてきてあげる、ね。リョウ兄も安静にしておくよう、に」


「スクワットしてたら筋肉モリモリの看護師さんにベッドに縛り付けられたからいやでも安静にしてるよ」


「拘束器具付けられてる時点で安静とは程遠いと思う、よ?」



 寝返りを打つくらいの余裕はあるからそれでよしとしようと思う。痒い所を掻くのに人の手を借りないといけないというのは非常に大変だが。

 それもこれも全部『病孤涙苦』の馬鹿野郎が悪い。アイツが消えてもアイツが残した病気は一切消えなかったのだ。いやまぁ薬とかで生計立ててる人もいるので全部消えられても影響力デカいのでこれに関しては良しとも悪しとも言えないのが微妙な気分なのだが。

 奴の病に冒された結果、教授達の治療を受けた上でこうして検査入院しなくてはいけなくなったのだ。とはいっても数日で退院できるそうなので学校が始まる頃には間に合うのだが。



「りょ、リョウ君いますか?」


「あれ、エル?来てくれたんだ」


「来るに決まっているじゃないですか。リョウ君の一大事です。朝一で来たかったのにバイトの事後処理とかが忙しくて来れなかったんです」


「そっか、大変だと思うしあんまり無理しないでね?」


「今の仕事が終われば大分落ち着くので大丈夫ですよ



 智弘君と鈴ちゃんと入れ替わりで入って来たのは同居人であり今回の功労者でもあるエルだ。相変わらずの綺麗な銀髪だが昨夜の騒動の影響なのかところどころ髪が跳ねてたりする。普段ではありえないミスだがそれだけ急いできてくれたと思うと嬉しくなる。



「折角来てくれたんだし色々と話そうよ。ほら、椅子もあるし」


「それじゃあ失礼しますね。話すこと色々とあって長くなりそうですけど」


「長くなった方が僕は嬉しいからいいよ」


「それなら、ちょっと長居しましょうか」



 そこまで話したところで僕の腹が大きく音を鳴らす。空腹を訴える音に恥ずかしくなり、エルはそれを聞いてクスクス笑っている。余計に恥ずかしいが、彼女が感情を表に出すというのはいい傾向だと思うのでこの羞恥心は必要経費だと思おう。



「お腹、空いていると思ってサンドウィッチ作ってきました。病院の人にもちゃんと確認とっていますから食べても大丈夫ですよ」


「えっ、本当?いや嬉しいなぁ」



 これに関しては冗談抜きで嬉しい。病院の朝食を食べたが味気ないというか男子高校生が食べるには物足りなさが勝るというか。肉をもっと食べたい。米をもっと盛ってほしい。

 エルは持ってきたバスケットの中からサンドウィッチを取り出してそのまま僕の口に持ってくる。いや、流石にそれは恥ずかしすぎる。



「あ、あのエル?自分で食べられるからそれはちょっと流石に……」


「リョウ君、拘束されてますけどどうやって食べるつもりなんですか?」


「誰かぁ!!拘束解いてくれないですかぁ!!!もう筋トレしないからさぁ!!!」


「はいはい、他の人に迷惑をかけてはいけませんよリョウ君」



 そう言っているエルの顔も茹で上がりそうなくらい真っ赤になっていた。まるで茹で上がったタコのように真っ赤だった。銀髪と白い肌に映えてとても可愛くて綺麗だ。これ見ただけで僕は今世に悔いが残らないくらいには可愛い。見せられないのが残念だが、他の男が見たら嫉妬するので良しとしたいと思う。



「りょ、リョウ君、口を開けてください。は、はいあーん」


「あ、あーん」


『互いに恥ずかしがってるならやめればいいのに』



 リルナの呆れた声が聞こえてくるがこんな慣れない事をされて動揺しない男がいるだろうか。いやこのシチュエーションに慣れるということは一生ないと思うが。

 昨夜の戦いで大分無理していたのかリルナは僕の心の部屋にあるベッドの中で丸くなって寝ていた。今も呆れた様子でこちらを見たら再び布団を被って寝息を立て始める。流石に上級悪魔の中でもトップクラスの化け物とやり合うのは彼女にとっても疲れるようだ。



「個室とか凄い豪華ねぇ……。あ、入るわよー」


「あっ、エアロードさん」


「えっ!?し、シルフィ!?」



 リルナが寝てしまうのとほぼ同時にエアロードさんが病室に入って来た。迷いない足取りは昨日までの悩みがあった時とはまるで違う、自信に溢れたモノだった。ただ何故かお見舞いというにはやけに多い荷物を持っている。

 その様子に思わず笑みを浮かべる。彼女の努力や残した結果はシルフィ・エアロードという少女に相応しい評価を得たのだから。



「この個室、あの社長が用意したの?随分気に入られてるのね」


「うん。卒業後に入社スカウトされてるくらいには。あの環境でツッコミと各部署の調整というかコミュニケーション出来る人材は貴重だって」


「うん、それに関しては同感ね。あの連中と会話出来るって時点で凄いと思うもの」



 一緒に見学をしたからかエアロードさんは簡単に納得してくれた。技術はあれど性格的な問題が多数見受けられる彼らは当然のごとく他部署とのコミュニケーション能力に難がある。そこを補える折衷役が欲しいと教授もとい社長が言っていた。悪魔関連なしでも是非入ってくれと懇願されるくらいには。



「ところでエアロードさんは」


「シルフィ」


「えっ?」


「名前で呼んでいいわよ。昨日の夜、そう言ったでしょ」



 髪を弄りながらそう言った彼女の顔はちょっと赤かった。恥ずかしさをちょっと誤魔化しているのかこちらを見ていない。エルは口を大きく開けて驚いている。その様子からこんな事は初めてなんだろうと察することが出来る。



「歌姫を呼び捨てにするのは恐れ多いけど……君が許してくれるなら呼んでもいい?」


「私はもう許してるから後はアンタの問題ね」



 息を大きく吸って気合いを入れる。あの夜は勢いのまま呼んでしまったが改めて呼ぶとなると恥ずかしい。それも今回の功労者であり、音楽フェスの騒動を収めた現歌姫相手だ。

 そう、歌姫ジャネット・シックは行方不明になったと報道された。彼女の身体は仕方ないとはいえ僕が文字通り灰にしたのだからそうもなるだろう。

 そして新しくその称号を手に入れたのは目の前にいる彼女、シルフィ・エアロードだ。世間では色々と言われているが彼女の歌にはそれだけの価値があると僕は断言出来る。



「シルフィ」


「ん……。それでいいわ」


「」



 なんかシルフィの隣にいるエルが絶句している。何かを言おうとして何も言えずに口をパクパクさせている。非常に珍しい表情だ。写真に撮って待ち受けにしたいくらいには。



「そっか。……元気そうでよかった」


「ええ、気分はいいわ。問題は家の方だったけど」


「えっ。シルフィの寮になんか問題でも起きたの?」


「倒壊の危険性があるからって追い出されたわ」


「倒壊ッ!?」



 何があってそうなった!?『病孤涙苦』との戦いをした音楽フェス会場とシルフィの寮は当然遠く離れている。奴の戦い方と能力的にそこまで遠くまで、しかも物理的に被害を出すのは無理だと思うのだが……。



「というわけで今は家無し子よ。それにアイドル活動もしばらく休止するし」


「えっ、なんでですか?シルフィ、今や引っ張りだこなんじゃ……」


「ようやく再起動したわね。まぁ話としては簡単よ。ジャネットの失踪に私がなんらかの関与があるんじゃないかって言われてね。正式にそのような事実はないとは言ったけど熱が冷めるまでは休んでおこうと思ったの。ここまでずっと走ってきたし、それくらいいいでしょ」



 まぁ天使や悪魔なんて話を知らない限りそんな話が出てくるのも納得ではある。煙があればその下に火をおこしたがる人間というのは残念ながら相当数いるのだ。無論全員が全員そうではないのだが。天使の認識改変の力を使えばそんな問題も抑え込めるだろうが……シルフィはそういうことを嫌う性格なのはここ数日でよくわかった。



「ま、蓄えはあるしネット配信とかで定期的に顔出ししていくから問題はないわ。しばらくはホテルを取ってそこで寝泊まりする感じで」


「それなら僕の家来る?手続きとかは社長に任せれば大丈夫だと思うし」


「えっ」


「父さんも母さんもいなし部屋も余ってるし。物置にしてる部屋もあるけどそれ以外でも普通にあるし。和室もあるよ?」


「いい考えですねリョウ君。でも勝手に決めちゃっていいんですか?」


「いいんじゃない?どこに住むかなんて本人の問題でしょ。難しいことは社長にぶん投げることにするよ」



 色々と苦労して死闘を繰り広げたのだ。これくらい許されてもいいと思う。『病孤涙苦』のせいで胃から出てくる血の味なんて物を知ってしまったのだ。あの経験は二度としたくない。そう言いつつもこれからも似たようなことは経験するんだと思うとげんなりするが。



「で、どうかなシルフィ。防音だから外に声漏れなくて配信とかも出来ると思うけど」


「……お邪魔しても、いいの?」


「こっちから提案してるんだから言いに決まってるよ」


「じゃ、じゃあ……これから、よろしくお願いするわ……」


「うん、それじゃあ荷物を運ぶ準備しないと」


「そ、その前に、ちょっといいかしら」


「えっ、なに――――」



 シルフィの手が僕の頬に添えられて、次の瞬間唇に柔らかいものが押し当てられた。目を見開く僕の目に映るのは可憐な歌姫の目を閉じた顔だけ。キスされているのだと気付いたのは5秒くらい経ってからだ。



「なっ、なっ、なっ」



 エルが赤くなったり青くなったり百面相をしている。唇が離れて呆然としている僕にシルフィはイタズラが成功したかのような表情で笑う。ただし顔は耳まで赤くなっているが。



「歌姫のファーストキス、光栄に思いなさい」


「えっ、あ、うん。うん????」



 思考がどうにもまとまらない。リルナに続けてのセカンドキスである。しかも二人共相手側からだ。僕は美少女に唇を奪われるというジンクスがあるのだろうか。なんだそれ最高か?



「エル、古来から一人のツガイに複数の天使、って言うのはよくあったことらしいわよ」


「えっ」


「一番、譲ってなんかやらないから」



 混乱しているエルにとんでもない爆弾を投下した歌姫は赤くなった、それでいてとても嬉しそうな笑顔をこちらに向けた。リルナと契約して強化された聴覚がなければその中身を僕が聞くこともなかっただろう。

 軽々とした足取りで去っていたシルフィとそれを追いかけていくエルの後ろ姿を眺めながらこれからも楽しくなりそうだとこれからの未来が楽しみになる僕なのだった。


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