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光天使と影悪魔と朝会話

「おはよぅ……ねむ……」


「おはようございます。……リョウ君大丈夫ですか?顔色というか、隈が酷いですが」



 一睡もできなかった僕は部屋から出てきたエルに朝の挨拶をしてそのままキッチンに向かう。彼女はいつも早起きだが今日の僕も負けてはいない。なにせ目の前の少女に現状のあれこれがバレたら良くて記憶抹消、最悪存在抹消という究極の二択が待っているという爆弾を渡されたのだから。



「ちょっと色々と考えてて眠れなくて……。ああ、ちょっと待ってて、朝ご飯とお弁当用意するから」


「いえ、そんな状態のリョウ君に料理なんてさせられません。朝ごはんは私が用意します。お昼は……そうですね、今日くらいは学食を利用していいと思いますよ」


「いいのかなぁ。確かに食費とか生活費はエルからも貰ってるから余裕あるけど……」


「いいんです。使わないとそれはそれでどうやって生活しているのか上に聞かれますし」



 ここで親とかじゃなくて上とか言ってる辺りボロが出まくってると思うが、昨日までの僕だったら何の疑問ももたずにスルーしていたのだろう。改めて彼女達の認識阻害というのは強力なのだと思った。



「そんなことよりも」


「ひあっ!?」



 急にエルの顔が接近し視界の全てを占領する。僕とエルの額が合わされてその綺麗な顔が近付いて、少しでも動けばキス出来るような距離になり顔に血が集まるのが分かる。こういうことを素でやるのがこの少女だということを忘れていた僕はパニックになりすぎて逆に固まってしまった。



「ふむ、熱はないようですね。それに顔の血色も良くなったようですし、これならば学校に行っても問題はないでしょう。ただし無理はしないように。リョウ君が倒れたらそれこそ皆さんが心配しますし、それに」


「そ、それに……?」


「…………私が嫌ですから」



 なんだこれは可愛すぎるだろう。少し頬を染めてそっぽを向くその仕草は僕の心を捉えて離さない。脳内悪魔よりも悪魔してるんじゃないだろうか。僕の心を弄ぶ小悪魔かな?



「とにかく、リョウ君は座っていてください。私でもおにぎりくらいは作れますから」


「う、うん。分かったよ」



 言われたまま席に着くがふと思った。僕はエルが料理をしている姿を見たことがないな、と。ほぼ何でも完璧にこなす彼女だがキッチンは基本僕が使っているので料理をする機会などほぼないはずだ。

 だけど堂々と腕まくりをして食材に向き合う彼女からは並々ならぬ自信を感じる。もしかしたら本当は料理が得意でやりたかったのに僕がいつもやっていたから出来なかったというオチだろうか。だとしたら今後はもう少し役割分担を考えた方が良いかもしれない。



「熱っ!あちちちっ!?」


「炊飯器から直接ご飯を手に乗せないで!?熱いでしょそりゃ!!」


「うにゃあ!?ああ、ご飯が!!?」


「ぬおぉあ!?ご飯を投げっアッツ!?これが本当のライスシャワー!!?」


「お塩お塩……あれ、これ甘いですね……」


「それお砂糖ぅ!!表記してなかったごめんね!!!」


「わ、私は……おにぎりすらろくに作れない……」


「ああ、うん。これから頑張って覚えていこうね」



 以上、セリフのみのダイジェストとなる。どんな光景になったかは想像して欲しい。結論から言うと朝ごはんはインスタントスープとトーストになりました。基本ご飯が主食なんだが偶にはいいよねと言ったが逆に慰められたエルは珍しく、分かりやすい顔で落ち込んでいた。







「どうした?なんか疲れてた顔してるけど」


「いや、本当にちょっと色々とあってね……。悩み事で夜遅くまで眠れなかったんだ……。あと朝からちょっと騒いでね」


「何があったんだよマジで」



 朝、学校に登校すればすでにそこにいた智弘君が心配して声を掛けてきた。起きた時に鏡を見た時に顔を確認した時にあった隈がそのままなので仕方ないだろう。

 普段人の顔色なんて気にしていないエルですら心配して来たのだからよっぽど酷い顔色なのだろう。とはいえただ単に寝不足なだけで学校を休むなんてしたくはないのでこうして登校したのだが。



「天使ちゃんに告白でもしようとして失敗したとか?」


「それだったら学校に普通に来たりしないで今も涙で枕を濡らしてるよ。告白は失敗どころか出来てないんだ」


「なんだよ、折角いい情報を教えてやったのにそもそも行動しなかったらどうしようもないぞ?」


「と言っても例の小物売り店だっけ。そもそも見つからなかったし」


「えっ、マジか。なんか願いを持つ人間の前に現れるとか書いてあったけどなぁ……」


「まぁ噂なんてそんなもんでしょ」



 あくびを噛み殺しながら友人といつも通りの会話をする。何も考えずに反射的に話すだけでこうやって時間を潰せるのだから智弘君は凄く話し易いのだと思う。顔もよくて話し上手でさらにはサッカー部のレギュラーとかいったい彼は何を持ちえないのだろうか。


 少し前であれば僕には超絶可愛い美少女幼馴染がいるからと能天気に考えて世の中釣り合いはとれる物なんだなぁと考えていたが昨日の話を聞いて世の理不尽に泣く側になってしまったと自覚する。



『恋した相手が天使でしかもアタシが見つかったらその瞬間身の破滅か恋の終焉だからねぇ。いや割とアタシ的にも笑えない状況だけど』



 脳内で悪魔のような楽しそうな声が響く。いや後半は真剣に言っているので彼女的にも今回のこれは予想外なのだろうが。

 ともあれ僕と彼女はいつの間にか一蓮托生の運命共同体になっていたということだ。彼女と出会わなければエルの正体も今の世界の危険とかにもまるで気付けなかったので悪いことだとは言い切れないのだがそれでものしかかってくる重圧に肩が重くなるのは仕方ない。



「いや、本当に辛そうだな。ヤバかったら保健室行くか?」


「ううん、ありがとう。だけど頑張るよ。どうしても危なかったら授業中寝るから大丈夫」


「リョウ、それは大丈夫だとは言わない」



 心配してくれる友人には悪いが今は時間が惜しい。夜中ずっと考えて脳内悪魔に聞くべきことをリストアップしておいたのだ。今後どう動くにしても聞いておかなければならない事ばかり。



「とりあえずホームルームまで寝るよ……。先生来たら起こしてくれる?」


「おう、あんまり無理するなよ」



 友人に心の中でお礼を言いつつ机に突っ伏す。こうしておけば返事がなくても誰も不思議には思わないだろう。

 その状態のままで心の部屋に入り込み、聞きたいことリストを少女に渡す。こうした小道具をここなら好きに出したり消したり出来るのは非常に助かる。



「それじゃあこれ、後で聞こうと思うから答えを考えておいて。分からない場合はそれでいいから」


「へいへーい。いやーしかしこういった小物を好きに出せるのは便利だねぇ」


「まったくだね。ここにメモした紙を置いておけば誰にもばれないカンニングが出来るってわけだ。これでテスト勉強に使う時間をこっちに使えるよ」


「よくわかんないけどそれでテスト乗り切って意味あるの?テストってそれまでの積み重ねの確認とかじゃないのかなぁ?」



 悪魔の癖に物凄く真っ当なことを言われた。悪魔ならばもう少し僕を堕落させるようなことを言うべきところじゃないだろうか?

 いや悪魔といってもこちらの世界の伝承にあるようなものではなく異世界の存在だから色々と違うのかもしれないけど。



「うぐっ……、結構色々聞きたいみたいだね。数が多すぎて答えを思い出すのも苦労しそうだ」


「君の今の感想がテストを受ける時の僕達学生の気持ちだよ」


「そりゃあ確かにカンニングの一つでもしたくなるね……。オーケー、ちゃんと思い出して答え用意しておくよ。大事な運命共同体だしね」


「まぁ君の場合はネックレス状態でも動けるからいざといった時は僕を置いて逃げていきなよ。最後まで僕に付き合う必要はないし」



 なんかポカンとした表情してるんだが僕が変な事言ってるだろうか。彼女に協力してもらっているのはこちら側なので無理してまで一緒に居なくてもいいと言っただけなのだが。



「…………お兄さん、頭おかしいとか言われたことない?大丈夫?正気保ってる?SAN値減ってない?」


「僕としてはSAN値って言葉が君から出てくること自体が驚きだよ。どこでそんな娯楽用語覚えたのさ」


「いやだってアタシ、元の世界で生まれたけど大半はこの世界育ちだし。大体お兄さんと同い年くらいだよ。まぁこの世界って言っても悪魔の拠点で戦闘訓練とかしてたから自由とかほぼなかったしこういう知識は人間にとりついた元お仲間からの提供だね」


「何が役に立つか分からないから情報は何もかも送って共有してるってところかぁ……」


「そうそう。つまり、お兄さんとこうして会話してる時点でアタシは悪魔側を裏切ってるわけで。のこのこ帰ったところで確実に情報搾りだされて殺されるってわけ。なので逃げるって言う選択肢はアタシにはないのだよ」


「そりゃまた身体を張ってるなぁ。なんで一気にそんな賭けをしたのか」


「これが唯一無二のチャンスだった、と思ったの。上の言う事に従って一人でも操ればその時点でアタシは加害者だ。加害者の命乞いなんて何の意味もないってね」



 それを言った彼女の表情は口元こそ笑うように口角を上げていたが目は欠片も笑っていなかった。生まれてずっとそんな環境だったのにそんな理屈を持っていられるその理性の高さに驚く。きっと、彼女が彼女でなければ僕とこうして話しをするなんてことも起きなかっただろう。


 彼女と彼女に出会えた幸運に僕は感謝しなければならない。そしてこの悪魔の少女を出来る限り隠しきり、ネックレスの中にいるという不便な身ではあるが生かさなければ。

 これが僕の心から生まれた本当の感情か、それとも知らずのうちに彼女に誘導、洗脳された形なのかは判断がつかないがそれでもいい。そもそも人間なんて色んな思想に触れてそれに影響されて生きているのだから良くも悪くも今更だ。



「だから、もう一回言っておくけどアタシ達は一蓮托生。お兄さんはお兄さんの都合でアタシを遣えばいいし、アタシはアタシの都合でお兄さんを利用する。お互いさまってね」


「分かった。どうしてここまでしてくれるのかは正直分からないけど……これからよろしく、リルナ」


「はいはーい。……リルナって誰?」


「いや名前ないと不便だし。いつまでも君って呼びたくないから名前考えておくって言ったじゃん。だから君の名前、リルナにしたいなって。ダメかな?」


「だ、駄目じゃないよっ!!!」


「そっか、それなら良かった」



 ちなみに名前の元ネタはあの有名な女悪魔であるリリスをイメージしたものだ。名前そのまま借りるというのは考えた感が少なすぎるのでこうして少しもじった。

 反応的に無事受け入れてくれそうで嬉しい。何度も呟いているその名前を大事にしてくれたらこれ以上はないだろう。



「リルナ……リルナ……アタシの、アタシだけの名前……」


「うん。っと、もうホームルームの時間だ。それじゃあリルナ、もう行くからその質問表お願いね」


「あっ、えっと、分かったよ!!うん、任せて!!」



 悪魔の少女改めリルナは元気よく返事をして頷いてくれた。知ってることを知ってるだけでいいので教えてもらいたいとは思うが無理はしないで欲しいのだが……多分今の彼女に言っても意味はないだろう。

 それに、せっかくやる気があるのに邪魔をするのは僕の主義に反する。  



「リルナ、かぁ……嬉しいなぁ……」



 心の部屋から出る時に見た名前を付けられるだけで噛みしめるように喜ぶその表情を見て、これを奪った悪魔陣営とは相容れないだろうなと僕は一人確信を覚えていた。


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