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風天使と会社見学

『チュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!』



 ものすごい勢いでホイールの中を走るネズミがガラス越しではあるが僕達の目の前にいた。なんというか鬼気迫る勢いで、身体を動かしてないと死んでしまうと言いたげな必死な表情である。いやネズミの表情なんて分からないはずなのだがそうとしか言いようがない光景に絶句する。



「ネズミってあんなに必死で叫ぶことあるんだ……」


「ねぇアレ人間が摂取していい代物じゃないわよね?ドーピング剤として摘発されない?」


「…………ご安心ください。実際発売する際は100倍に希釈しますので」



 そこまでしないといけないドリンクの原液をぶち込まれた結果がアレなのか……。モルモットをどうこう言う資格を、その恩恵にあずかっている僕は持たないがそれでも少し憐れになる。是非あのネズミには今後の鼠生をまっとうして欲しい……。



『はっはぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』


「…………そして、あちらがその原液を摂取した場合の人間になります」


「人体実験までしてるの!?せめて希釈した奴にしようよ!!!」


「ねぇあの人これまたすごい勢いでランニングマシンを駆け抜けてるんだけど!?大丈夫なのアレ!?本当に副作用とかないちゃんとした薬なのよね!?」


「…………問題ありません。彼はこの会社でも有名な根っからのインドア派になりますが、そんな彼でも人体の限界を超えて走り抜けることが出来るという証明になります。会社の為になるという意味において彼も実験台に選ばれて幸せでしょう」



 ネズミのインパクトで気付かなかったがその隣の部屋にはこれまたランニングマシンの最高速を駆け抜けている眼鏡の男性がいた。なんというかもうその鬼気迫るその表情からは恐怖を感じる。こめかみに血管まで浮き上がっているくらい効果があるのだろうか。



『私のコーヒーに薬を混ぜたな盃ィイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!』



 違った。あのこめかみの血管はただの怒りの発露だった。走りながら怒りを叫ぶ眼鏡の人は誰かしらに対して怒りを叫び、それを見た氷織さんはフッと鼻で笑っていた。



「……なんか滅茶苦茶誰かに恨みを叫んでるんだけど」


「…………盃は私の苗字ですね。盃氷織が本名なので」


「ねぇ、あの人、コーヒーに混ぜたとかなんとか言ってるんだけど」


「…………以前私の紅茶に社長作のメンタルドリンクを混ぜてきましたからその仕返しです。大丈夫です、命に別状がないのは確認済みなので。我が社ではこういう社員同士の仕返しが許されているアットホームな職場なのです」



 それはアットホームとは言わないと思う。他の会社の事は知らないがこういうの他の会社では絶対やってないはずだ。今更ながらに社長が上級悪魔だという事実を強く認識してしまう。上級悪魔には癖がある奴しかいないのだろうか。



「ねぇ、流石にこれおかしくない……?」


「!!?」



 不味い、非常に不味い。エアロードさんが凄く不信がっている!!まだ社長が悪魔だとは思っていないだろうがこのまま彼女が社内見学でおかしい所を見続けた場合間違いなく疑うだろう。僕以上に悪魔と対面して来た天使がそう判断した場合絶対に調査が入り、芋づる式に僕のこともバレかねない!!

 いやだ!!!僕はまだエルと添い遂げていないのだから!!!全ての人類に害ある悪魔を叩き潰して平和になった後にエルとリルナを幸せにするという僕の人生設計をこんな所で邪魔されてたまるものか!!!



「エアロードさん、ここはきっと切磋琢磨というものが会社理念なんだ。彼ら彼女らはその理念のもと真面目に働いてるに違いないよ」


「そう、なのかしら。でもなんか違くない?だってほら」



 エアロードさんが見ている方に顔を向ければ暗い笑顔を浮かべた氷織さんがガラス越しに走っている男性に話し掛けていた。髪で目が隠れていて物凄い怖い。



「…………クフフフ……。そのまま走り続けて私に許しを乞いなさい。そうすれば鎮静剤を上げてもいいわよ」


『ふざけるなよこの陰険がぁああああああああああ!!!!私が貴様のような根暗に負けるわけがないだろうが常識的に考えろッ!!!!!!』


「…………なら一生走り続けなさい。私を求める声を出すその時が楽しみだわ」



 なんかもう、一周回って仲良く見える。あの二人一体どういう関係なんだろうか。



「ねぇ、やっぱりあれっておかしく」


「さぁ次に行こうエアロードさん!!!なんか高度なイチャつき方してる二人の大人の恋愛模様を見学しているのは悪いからね!!!」


「あ、ああ……。なるほど、そういう感じなのね。社内恋愛って本当にあるんだ……」



 実際のところはどうなのかは知らないが適当に言っておく。いやでもあの二人なんかいつものパターンって感じが見ててしてくるんだよな。

 しかしこれ以上見ていて不信感が頂点に到達しても困る。その為僕達は次の部屋に進むことにした。氷織さんは名残惜しそうに後ろを見ていたがあの二人は本当にどういう関係なのか気になる。



「ね、ねぇ沢渡君?」


「ん?なにかな?」


「その、手を放してくれると……」


「ぬおっ!?ご、ごめん!!」



 先を急ごうとするあまり思わず手を繋いで進んでいたらしい。アイドルの手を握るとかファンにバレたら殺されるんじゃないだろうか。というか手汗とかついてないか気になってきた。流石にその場合拭かないで触れるとか最低だとしか言いようがないし。



「べ、別に気にしてないわ!!ええ、私これでもアイドルですもの!!ファンとの握手会なんて日常茶飯事よ!!!」


「そ、そっか!!そう言ってもらえると助かるよ!!!」



 互いに顔が赤くなっていることに関しては敢えて無視する。アイドルにそんな顔させたというのもヤバいが、小柄な美少女の手を握ったという事実が恥ずかしすぎる。エルの時もそうだったが、女の子の手は柔らかくて緊張するんだよ……!!



「…………青春ですね、いいですね。次の薬はそんな青春真っ盛りな二人にぴったりな物になりますよ」


「青春にぴったりな薬ってなんなのよ……?」


「さぁ?あんまりそう言うのないと思うけど……敢えて言うなら、勉強とかに効果的な集中する為の薬とか?」


「ああ。それは確かに助かるわね。私も前回のテスト結構不味かったし」


「アイドル業との板挟みでしょ?頑張ってる証拠だと思うけど……。エルも頑張ってたんだけどね……」


「あの子は準備期間があんまりなかったから……(ボソッ)」



 ボソッと呟いているが僕には聞こえている。リルナと契約してからこういう五感が鋭くなった気がする。まぁ悪いことではないのでいいとしよう。

 しかし次の薬は何なのだろうか。やはり集中力を高めたりする薬とか?でもどういう効果を付け足せば集中力が上がるのかあまり想像できないな。



「…………次はこちらになります」



 自動扉が開き中に入る。そうするとまたガラス越しに実験をしている人と、薬の実験台となるモルモットがそこにはいた。いたにはいたが……なにやら様子がおかしい。

 非常に落ち着きがないというか、なんだかソワソワしているというべきか。僕の予想していた集中力を高めるのとは正反対な様子だ。

 やがてそのモルモットが入っているケースに新たなモルモットが投入される。そうすると変化は劇的だった。物凄い勢いで先にいたモルモットが駆け出し新たなモルモットと交流を始める。そしてその二匹はそのままホイールに腰を掛けてくっつき始めた。



「…………青春に必要な物、それ即ち恋愛。あの薬は惚れ薬です」


「馬鹿じゃないの!?馬鹿なんじゃないの!!?」


「そこまでするかな普通!?というか犯罪に使われないか心配になるんだけど!!?」



 あんなものエルに使われたらと思うと……使った奴も使おうとした奴も絶対に許せない。|僕が先に好きだったのに《BSS》なんて物は許されざるよ……。万死に値する……!!



「…………ご安心ください。あれはモルモットだからああなっただけです。人間だった場合、好意がなければあそこまでの効果は得られません。要するに、人の手で吊り橋効果を生み出す薬、ということになります」


「そ、それならまだ安心……なのかな……?」


「いや、それはそれで問題あると思うけど……。でもそれくらいしないと進展しない連中もいるから有効ではあるの、かしら?」


「ねぇエアロードさん、なんでそう言いながら僕を見るのかな?まるで僕がじれったいクソボケカップルの片割れを見るような目で見てくるけど」


「全部分かってるじゃない。そういうことよ」



 いやいや、僕にだって色々とあるしエルにだって色々とあるわけだよ。あっちは天使で僕は人間という時点で結構な壁はあるだろうし、あちら側からしたら僕のことは生活と“愛”を得るための存在だ。そりゃ嫌われてるとは全く思わないし好かれてるとも思うけど、一生を一緒に過ごしてほしいと言われても困るだろう。

 だから今の僕のスタンスは、エルから告白されるまで頑張るということだ。少し前の恋愛頭脳戦みたいとか言わないで欲しい。僕はこう見えてかなり必死なのだから。



「……ねぇ、それよりあのモルモット達ケースに設置された家の中に入っていったんだけど。入った後家が滅茶苦茶揺れてるんだけどなにあれ」


「…………ふむ、あの惚れ薬には媚薬の効果もあるみたいですね。恐らく中でずっこんばっこんやっているのでしょう。モルモットは理性が足りなくて困ります」


「理性が足りないのはあの薬作った奴でしょ!?誰よあれ作ったの!!!」


「…………私ですが」



 大体分かってきた。氷織さんはクールに見えるが実際のところは表情の変化があまりないだけでその中身は感情豊かだ。どこかで見たことあると思ったがこの特徴はエルと似ているんだ。エルも表情筋あんまり動かないからなぁ……。



「とにかくあの薬発売する前にあの媚薬効能消しときなさいよ!?学生の時分で流れに任せてアレとか、後で絶対後悔するんだからね!!!」


「いやぁ、エアロードさんがいてくれてよかった。僕一人じゃ突っ込み切れないところだった……」


「私一人にツッコミ任せるのやめてくれない!?一人じゃ限界があるのよぉ!!!!」



 エアロードさんはそう言って僕に縋りついてきた。背の小さい美少女が縋りついてくるという光景は何というかいけない気分になりそうで困る。

 その瞬間パシャっという音と光が一瞬僕らを照らす。無言でそちらを見ればスマートフォンを向ける氷織さんがいる。何事もなかったようにスマートフォンを仕舞い彼女は歩き出す。



「…………では次の薬の案内を」


「その前にその写真消してけゴラァ!!!!」


「それが流出したら私のアイドル人生台無しになるでしょうが!!!!」



 僕ら二人の必死の引き留めにより撮られた写真を消すことに成功したが、油断もクソもないなこの人!!!!


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