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光天使とお出かけ ④

 服を買い終わり今回の用事は終わったと言っていい。だがそれで帰るのはあまりに勿体ないと言えるだろう。特に外食なんて普段自炊している僕達には縁のないものだ。



「凄いですねリョウ君……!!」


「うん……!!ステーキ屋にラーメンにタコ焼きにハンバーガー……まさに食のデパートだ!!」



 下手なことを言ったかもしれないがそれだけ興奮していると分かってくれると嬉しい。そんなこんなで僕達は仲良く手を繋ぎながらお洒落なカフェ……ではなく、フードコートエリアに来ていた。服飾店で思っていた以上に時間を使ったので既にお昼頃、つまりピークは過ぎてお客さんも若干だが減っている。

 混んではいるが席を探す必要もないくらい。その席に飲み物などを置いて確保し、僕達は顔を見合わせた。



「リョウ君、私は唐揚げ屋さんの定食を買いに行きます」


「ああ。僕はステーキ屋で大きいステーキを買ってくるよ」



 互いに頷き即座にそれぞれの目当ての店に向かう。少しの行列はあれどスムーズに進み注文を進める。ここで一歩引くという選択肢はない。迷わず一番大きいサイズのステーキとライスを注文する。



「あざやかステーキ450g、ライス大盛りと普通を一つずつでお願いします」


「はい、お値段は3500円となります」



 こういう場所のご飯というのは少々量が心許ないというのが定説である。なので大盛り普通を重ねて注文する。これによってようやく肉のサイズにご飯の量が追いつける。

 しばらく待ち、目当ての品が出来上がればそれを持って席に戻る。途中で子供が走ったりしているのでぶつからないように細心の注意を払う。鉄板が物凄く熱いので下手をしなくても当たれば火傷してしまう。



「モグモグモグ……美味しいです!!!!」


「よかったね。でも口に油ついてるよ」



 普段はクールな見た目にたがわず殆ど表情を変えないエルだが、例外的に食事の時はよく笑う。笑うと言っても満面の笑みというわけではなく口角を上げている感じのクールな微笑みだが。もっとも外とは違い中身は滅茶苦茶笑顔なのはよくわかる。


 ただし食事に集中しすぎるとテーブルマナーというか、自分がどう見られているかが頭から抜け落ちることが多々ある。今回も唐揚げに夢中になった結果口元が少し汚れてしまっている。わたわたと慌てている彼女の口をハンカチで拭う。三枚くらい持ってきているので一枚くらいは大丈夫だろう。



「これ使っていいから。あとゆっくり食べようね」


「むっ、お礼は言いますが……リョウ君、私を子ども扱いしていませんか?」


「だって実際子供っぽいし。肉食べてる時のエルは基本的にメンタルが幼児化してる気がするし」


「き、気のせいです。それはリョウ君の気のせいです、ええ。私はそんなにわかりやすくないです」


「いや、気を許してる相手には大分分かりやすくなってるよ」



 この前の学食でエアロードさんと一緒に食べていた時は大分分かりやすく機嫌がよかったし。やはり天使であるということがバレないようにしているからかいつも気を張っているのだろう。彼女の表情の変化が乏しい理由は生来の物もあるがそういった事情も関係していると思う。



「僕はそういうところ、いいと思うけどね。いつも無愛想なのは折角綺麗なのに勿体ないよ」


「むぅ……。表情筋を動かすというのが私にとってはとても難しいことなんですよ」


「分かってる分かってる。だけどその内自然に動くようになると思うよ。エルならきっと」


「それはそれで……色々と分かりやすくなってしまいそうで……」


「いや表情は変わってないけど大分エルは分かりやすいよ。少なくとも僕とエアロードさんは結構わかってると思う」


「それはそれで複雑なんですが」



 眉根を寄せて思い悩んでいる様子に吹き出すように少し笑ってしまう。こうして見ていると本当に普通の女子高生にしか見えない。普通の女子高生にしては物凄く可愛く美人だと思うが、それは横に置いておくべきだ。

 だけど彼女は日頃戦い続けている。彼女の言う「バイト」とは悪魔との戦いだろう。前回のドルザルクとかいう奴とも、この一ヵ月何度も戦っていると聞いた。僕達が平穏を享受する為に彼女達は命懸けで戦っている。その事実に、少し胸が苦しい。



「えい」


「むぐっ」


「駄目ですよリョウ君。デート中なのに暗い顔を相手に見せるのは」



 少し俯いてしまったところをエルは自分の唐揚げを僕の口の中に押し込んでくる。噛めば噛むほど出てくる肉汁が口内を満たし、それが美味しいということを教えてくる。

 驚いて顔を上げてみればそこにはしたり顔なエルがいる。口角は上がっていないが雰囲気からして笑っているのが分かる。

 こういうところが敵わないんだよなぁと苦笑する。僕が心配していることなど彼女はとうに覚悟を決めているのだろう。彼女はよく僕を褒めてくれるが、僕よりもはるかに彼女の方が凄いと思うし、それを誇りに思う。



「リョウ君、唐揚げが足りなくなりましたのでステーキを一切れ下さい。トレードという奴です」


「いや別にいいけど……。唐揚げ食べたのは事実だし。でも最初からそれ狙ってたよね」


「バレましたか。私もステーキを食べたいんです。というわけで一切れ」


「はいはいどうぞ。一番大きい部分をあげるよ」


「流石はリョウ君太っ腹」



 貰ったステーキをご飯と一緒に食べている。カロリー消費とか大丈夫なんだろうかとも思わないでもないが、あれだけ動き回っていたらむしろどんどん食べないとカロリーとか追いつけないのだろうとも思う。

 家でも食べる時は本当に食べるからなぁ。特に例の「バイト」の後は何かにとりつかれたように一心不乱に無言で食べ続ける。実は食事中にエルがこんなに話すのは非常に珍しかったりする。



「さて、食べ終わったし帰ろうか。その前にちょっと寄ってお菓子でも買っていこう。なんか大人気な奴がこの近くにあるらしいし」


「そうですね。テレビで紹介された結果かなり在庫を用意してても売り切れになるという評判のケーキがあるそうです。行きましょう」


「甘い物に目がないのは普通の女子高生だよなぁ」


「私はどこからどう見ても普通の女子高生ですよ?」



 何度も言うが普通と言い張るにしてはエルは神秘的美少女過ぎると思う。そう思いながら今度は手を繋がずに隣り合って歩き出す。最近学校であったことや読んでいる本、アイドルをやっているエアロードさんの話題など。

 クラスが違うからこそ知らなかったことを聞いて、話して、そうやって普通の日常を過ごす。それがとても貴重なものなのだと今の僕は知っているからこそ大切にしていきたい。



「むぅ、大人気過ぎて列が出来てますね」


「待ってればいいよ。それで買えなかったら他のを買って、また次来た時に買おう」


「そう、ですね。また来ましょう、絶対に」



 待っている間、今度はさっきとは違い黙ってしまう。別に気まずいというわけではなく、こういうことは家でも多々ある。一緒の空間にいるけれど干渉しあわず、そこにいるのが当たり前という形で。そうなると今度はエルに向けられる視線の数に気付き笑ってしまうが。

 周囲の人はエルに気付いたら必ず二度見してしまう。特徴的な銀髪や、表情に乏しいが故のクールさ、それを補って余りある全体の奇跡的バランスは視線を集めるのに十分な理由だろう。



「いらっしゃいませ。ご注文をお願いします」


「じゃあこの春のフルーツケーキを二つお願いします。別々の箱に入れてくれると助かります」



 ケーキの入った箱を持つ、その特別感を二人で味わうために箱を二つにしてもらう。いやな顔一つせず対応してくれるケーキ屋さんは凄いと思う。面倒だなんてまるで思っていない。これがプロの接客なのだろう。



「かしこまりました。他に注文はありますか?」


「僕はないです。エルは?」


「そう、ですね。ではショートケーキとカイザーショコラとシュークリームを三個ずつお願いします」


「エルさん……?」


「ち、違いますよリョウ君!?これはバイト先の仲m、友達に配る為の物です!!私が食べる物ではないんです!!!」



 慌てて弁明しているが、多分その人達と一緒に食べるんだろうなとも思う。甘い物大好きだから、この子……。

 注文が終わりケーキを箱に入れてもらっている間静かに待つ。その間僕はエルからの言い訳を聞き続けている。別に僕は何も言っていないのだが必死過ぎて少し笑ってしまう。



「申し訳ありません。先程春のフルーツケーキは売り切れになってしまいました」


「なんということでしょう……。教授が今日はこれを絶対食べたいと言ってましたのに……。不覚、メイドとして一生の不覚……!!」



 そんな声が待っている間に聞こえてきた。行列が殆どなくなった状態で最後の最後で売り切れになってしまったようだ。非常に困っているようでどう言い訳するかを無意識にだろう、口から漏れ出ている。

 なおその服装は凄く目立つことにメイド服である。今時のミニスカメイドではなく古き良きヴィクトリアンメイドだ。ロングスカートのメイド服いいよね……。



「エル、悪いんだけど……」


「私は構いませんよ。他のケーキを食べてもいいですし、また二人で買いに来るというのも楽しいでしょう?」



 何も言わずに分かってくれる少女に感謝しつつ受け取ったばかりのケーキの入った箱を困っているメイドさんの所に持っていく。



「あの、すみません」


「はい?わたしでありましょうか?」


「えっと、よければこのケーキどうぞ。一つだけですけど……」


「おおっ!?親切な少年が居ました!?ですがしかしそれはいいのでありますか?」



 やはり薄い金髪だろうしメイドさんは外人なのだろうか。少し言葉遣いがおかしいが気にするのも失礼だしケーキを手渡す。



「気にしないでください。それに僕の為でもありますから」


「ふむ?それは一体全体どういう理屈で?」


「幼馴染の前でカッコつけたいんですよ。困ってるメイドさんを助ける男って、結構カッコいいと思いません?なので僕がカッコつけるために受け取ってもらえるとありがたいです」


「成程……これが教授の言っていた青春、その一部という事でありますか。ここまで言ってもらい断るというのも無粋というもの。ありがたく受け取らせていただきます」



 ケーキを受け取ったメイドさんは懐から一枚の紙を渡してくる。これが俗にいう名刺という奴だろうか。普通の高校生である僕にはまだ縁のない物だ。



(わたくし)、『スメラギ製薬』代表取締役社長の付き人「ドール・メイカー」と言います。今回の件に関して社長に報告しますので、何か困ったことがあれば是非連絡を」


「えっ、あ、ありがとうございます。僕は沢渡亮、です。名刺はないです……」


「いえいえ、その顔とお名前は覚えました。忘れることはありませんのでご安心を。それでは私は教授が待っていますのでこれで失礼させていただきます」



 そう言って足早く去っていくメイドさん。なんともキャラが濃かった。というより今日話した人は全員キャラが濃かった。



「それではリョウ君、帰りましょうか。……どうかしましたか、そんな見つめて」


「いや、僕の幼馴染も負けてないなと思って」



 銀髪無表情クール系お肉大好き美少女(天使)とか改めて考えるとキャラが濃いなと思う。色んな人と物怖じせずに話せるのは一番身近なのがエルだからというのもあるのだと思いながら僕達は帰路につく。


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