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光天使とお出かけ ①

 ゴールデンウイークも近づいていく中、学生にとっては地獄の中間テストもまた近づく。個人的には後者に関しては普段の授業を聞いていれば赤点を取ることはないので別に構わないのだが周囲はそうではないらしい。

 なので今の時期は外に遊びに行く人間というのは大きく二つに分けて余裕がある人間か、現実逃避している人間かの二択になるだろう。僕と同居人は後者である。


 エルをデートに誘ってから約一週間が経ち、いよいよ約束の日が来た。

 僕は今待ち合わせ場所となる駅前の広場の大時計の下で彼女を待っていた。何故同じ家で暮らしているのにこうして待ち合わせをしているかと言えば、エルの方がそうしたいと言ってきたのだ。



「デートとは待ち合わせ場所を決めてそこに集合することだと聞きましたっ!!なのでリョウ君、私達もそうしましょうっ!!」



 あのキラキラした目を裏切れるだろうか?効率的じゃないと言おうとしてしまったこと自体が男と女の性差というのを感じてしまう。

 立って待ってるだけで心臓の鼓動の早さを自覚してしまう。人がいれば会話をして気を紛らわせることも出来るが現状ここに知人も友人もいない。

 なので先程からひたすら共犯者たる悪魔のリルナと話をしていた。付き合ってくれる優しさを持つ彼女を悪魔と誰が呼べるだろうか。

 まぁ突っ立ったまま話してると虚空に話し掛けるヤバい奴になるのでスマホで会話してるように見せているが。現代社会万歳!!!



『いや待っている間くらいは別にいいけど、デート中はアタシ黙ってるからね?というか連日の人間のご飯によって興奮しまくちゃって寝不足だから寝るんでよろ~』


「そんな殺生な!?」


『いやいや、デートなんてそんなもんでしょ。というかアタシも経験どころかそういう事まったく触れてこなかったから力になれないし。お兄さんが持ってる漫画とかをこっちに持ってきてくれたから概要くらいは分かるけどさぁ』



 そう、僕の心の中のあの真っ白い空間に持って行けるのは僕が「僕の物だと認識している物」に限られることが分かった。手に持っただけの野菜だとか肉は持っていけないのにそれを買った後は持って行けるのだ。さらに言えばあちらで何かを食べても僕には満腹感は得られてもこちらに戻ってきてしまえばそれも消えてしまうことも分かった。まぁ満腹感を味わって現実で食べれなくなると栄養が足りなくなるので悪いことではないのだが。



『一応助言しておくとすると……お兄さんはいつものお兄さんみたいに接していけばいいよ。それだけであの天使には特効だろうしね』


「いやいやさすがにそんな……。僕らしいって言うとジャージってことになるけどいい?朝のジョギングとかで着てるから学校の制服の次に僕らしいってことになるんだけど」


『よくわかんないけどアタシがもしデートに誘われて待ち合わせ場所に行った時に相手がジャージ着てたらビンタして帰るよ』


「ですよね……」



 こうは言っているが当然ちゃんと私服を着てきている。というかエルの私服が少ないからって誘ってるのに僕自身がジャージ着てきたら何なの?としか言いようがないだろう。



『じゃあアタシはもう寝るから、頑張ってねお兄さん?』


「頑張るよ。ありがとうリルナ」



 満足そうにあの空間の中に用意されたベッドの中に入って寝息を立て始めるリルナに礼を言って気合いを入れ直す。すぐに寝てしまったことからかなり睡眠欲が溜まっていただろうに話に付き合ってくれたことに感謝する。何かしらのお詫びの品を用意するべきかもしれない。



「エルも、気合い入れてるみたいだしなぁ……」



 そう、エルもまたこのデートに気合いを入れてくれてる模様なのだ。なにせ昨日からエアロードさんの家に泊まりこんでいるのだ。恐らくだがデートに着ていく服自体がないから借りようとかしてくれてるんじゃなかろうか。

 ただエルは身長160センチくらいある。それに対してエアロードさんは目測では145センチくらいだ。丈とか違い過ぎて同じ服を着るなんてことは出来ないはずだがどうするつもりなんだろうか。ちなみに僕は165センチくらいでエルより少し高い程度だ。身長に比べて体重は重いが、まぁ筋トレしてるからだろうと納得している。



「ふぅーーーー……。駄目だな、めっちゃくちゃ緊張してる……!!」



 息を大きく吸い、吐く。何度もやっているが気分は落ち着かない。万が一にでも待たせたくはないと思って早めに来たが待っている体感時間が凄い。多分もう体感1時間は待ってる。まだ20分も経ってないのに。

 キョロキョロと広場で周囲を見ている僕は傍から見たらきっと不審者そのものだろう。これが公園みたいな子供がいっぱいいる所だったら間違いなく警察に通報されている。今の世の中子供を見守る保護者じゃない大人なんて危険なんだ。



「り、リョウ君、お待たせしました」


「べ、別に待ってないよ!!!」



 気合いを入れ直している最中に後ろから声を掛けられる。変なところを見られたと思い後ろを見ればそこにいたのは天使だった。間違えた、いや間違ってないのか?彼女は天使だし。いや僕が言いたいのはそう言う事ではなくて。

 「天使」という言葉がこれ以上似合う少女は他にいないと断言出来るくらいに魅力的になったエルがそこには立っていた。


 白いワンピースは彼女の素肌を隠しているも、袖から伸びている腕だけはその健康的な美しさを見せつける。その髪色も合わさって清楚という文字を擬人化したらこうなるのではないだろうかと思わせる。

 長い銀髪を隠すように少し大きめの帽子を被っているのもまたその印象に拍車をかける。なんというか僕の語彙力では表すことが出来ないのだが、絵画から出てきたと言われれば信じてしまうくらいには綺麗だ、と言えば僕の衝撃が分かってもらえるだろうか。



「ど、どうでしょうか。シルフィに聞いて、その友人から借りてきた服なんですが……」


「よ、よく似合ってる。正直、見惚れてたよ」


「そ、そうですか……。そっか、見惚れてくれたんだ……えへへ……」



 すみませんここは天国なんでしょうか。僕はもう死んでいるんじゃないでしょうか。あまりに可愛すぎて抱き着きに行くのに我慢しなければいけないとかこの服を用意したエアロードさんにはぜひお礼を言いたい。お礼の品を用意するのは難しいので彼女のCDを買い集め楽曲をダウンロードして友人知人全てに配布したいくらいに感謝している。


 白い肌を赤く染めて照れている姿とかもう本当に、何度僕を惚れ直させれば気が済むのだろうか、この子は。外見も中身も好みとか物凄いことである。僕が惚れっぽいのかもしれないという疑惑はあるが。だがこの姿を見たら男なら、いや女であっても見惚れるのは間違いない。まさに万物を魅了する美少女っぷりだ。



「えっと、朝はもう食べてきた?」


「いえ、リョウ君もまだですか?」


「うん。それじゃあとりあえず朝ごはんにしようか」


「それよりも先に服を見に行きましょう。食べるにしても朝ではお店の方もモーニングメニューになっているでしょうから」



 ちなみにこんな清楚な格好と美少女っぷりを発揮しているエルだが、食事の好みに関して言うなら子供舌だ。お肉大好きだし野菜はあまり好きではない。なのでレストランに行ってもハンバーグとか頼むだろうと考えればこの思考は普通に読める。



「それもそっか。じゃあ、行こうか」


「そうですね。それじゃあ、どこのお店に」


「っと、人が多いからはぐれないようにしないと」


「えっ」



 休日ということで周囲には人もいる。エルもまだ慣れていないところで迷子になるかもしれないし、何より悪質なナンパを受ける可能性もある。

 ということでその細く、小さい手を握る。相当勇気はいるが、それでも一緒にいるならそうするべきだと思ったから。手汗に関しては先にハンカチで拭っておいたので大丈夫だと信じたい。



「手、を……」


「駄目だった?嫌ならやめるけど」


「いやじゃないですっ!!い、いやじゃ……」


「そっか、じゃあ行こうっ!!」



 僕も彼女も顔が赤くなっているのは分かっている。互いの顔を見ないように歩いてもそれくらいは分かる。互いの体温が高いのも気のせいではないはずだ。

 周囲に人はいるはずなのに、それが全く気にならない。二人だけの世界というのはこういうことを言うのだろうか。そう感じているのが僕だけでなければいいと思いながら手を繋いで、一緒に僕達は歩いていく。










「や、やるわね……。あのエスコート力、天然物なら物凄く女誑しになりかねないわ」


「ごめんなさいシルフィパイセン。なんでアタイ達エルっちパイセンのデート覗き見してるんすか」


「そんなのあの子がまともなデート出来るか心配だからに決まってんでしょうが!!ここで何かあって破局とかになったら最大戦力消えるのよッ!?」


「ああ、それ考えると確かに危機的状況っすね……。アタイが駆り出された理由は分かんないすけど」


「だってアリナってこういう時暇そうだし。どうせテスト勉強もしてないでしょ」


「いやー、それは……テヘッ」



 そんな初々しいやり取りをしているリョウとエルの二人を背後の建物に隠れながら覗き見している二人組がそこにはいた。

 一人はその翡翠色の髪をいつもの特徴的なツインテールを解きストレートにしたうえで帽子に隠しているアイドル天使シルフィ。

 もう一人は短い茶髪のシルフィとエルを先輩と呼ぶ彼女達より背の高い少女だった。彼女もまた天使の一人。アリナと呼ばれた彼女は気だるげな様子を隠していない。


 このデートは二人、いや天使全体においてもかなり重要度が高い。どういう理屈かエルは今までその力をガス欠した事がない。あのドルザルクとこの一ヵ月で何度も戦っていたが、その中で一度もだ。その継戦能力はアイドルとして一年前から“愛”を集めてきたシルフィに匹敵する。

 もしデートが失敗した場合、その“愛”が消えたりしたら、その時点でエルは戦力外になりかねないのだ。



「んで、その“愛”を与えてるっぽいのがあのパイセンってことっすね。一人でシルフィ先輩のファン全体分の“愛”を与えてるって考えると怖いんすけど。なんなんすか、人間なんすかあの人」


「それエルに聞かれたらブチギレ不可避だから気を付けなさいよ。エル側も重いから」


「あのエルっちパイセンがねぇ。想像できないんすけど」



 アリナにとってエルという少女はクールであり、何でもそつなくこなす優秀な先輩だ。戦いにおいてもその能力は高く、後方支援である自分には出来ないことを出来る先輩達を尊敬している。尊敬はしているが、それはそれとして彼女達の人間性に関しては一歩引いているので時々ドン引きしている。



「昨日泊りに来たあの子から話聞いたけど、止めなかったら一晩中話してたわ。間違いなく」


「それ重いとかそういうレベルじゃないと思うんすけど……シルフィパイセン大変だったすね」



 深いため息を吐くシルフィの頭をよしよしと撫でるアリナの目は労しい者をみる慈しみに満ちていた。


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