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お米が高い!ーソフィアに聞こう!

作者: 樋口諭吉

 諭吉: うわ、また米の値段上がってる!マジかよ…。ソフィア、見てみろよコレ。去年の夏が異常に暑かったせいだろ、これ。それに肥料とかもめちゃくちゃ高いって言うし、もうどうしようもねぇな!農家の人も大変だ。


 ソフィア: ええ、諭吉さん。その二つは間違いなく今の価格高騰の大きな原因です 。記録的な猛暑による不作と、生産コストの上昇が、直接的に価格を押し上げています。


 諭吉: だろ?  やっぱそれだよな。もう天災みたいなもんだ。俺たちにできることなんてねぇよ。


 ソフィア: そうですね。ただ…もし、日本の米作り全体がもう少し「体力」のある状態だったら、同じくらいの猛暑や物価高というストレスを受けても、ここまで深刻な症状にはならなかったかもしれません。


 諭吉: 体力?  なんだよ急に。農家の人たちがサボってるとでも言いてぇのか? 


 ソフィア: いえいえ、そういうことでは全くありません。個々の農家の方々は懸命に努力されています。私が言う「体力」とは、システム全体の「ショックへの強さ」のことです。例えば、お隣のアメリカ・カリフォルニア州で作られているお米の話ですが、昔は日本と同じくらいの土地から、同じくらいの量が収穫できていたんです。


 諭吉: ふーん。


 ソフィア: でも、今では、同じ面積から日本の1.6倍も多くお米が穫れるんですよ。


 諭吉: …は?  1.6倍!? 


 ソフィア: はい。もし日本もそれくらい穫れる「体力」があれば、去年の記録的な不作も、かなりカバーできたと思いませんか? 


 諭吉: 1.6倍か…。そりゃあ、まあ…そうかもな。なんでそんなに差がついたんだよ…。(諭吉はポケットからスマートフォンを取り出し、何かを検索し始める)


 ソフィア: それは、日本が約50年間、お米を作りすぎないように生産量を調整する政策、いわゆる「減反政策」を続けてきた影響が大きいんです。お米の量を「抑える」ことが長年の目標だったので、たくさん収穫するための技術開発への関心が、どうしても薄くなってしまったんですね。


 諭吉: ああ、減反か。聞いたことあるな。でも、あれは米がダブついて政府の倉庫に山積みになってたから、仕方なかったんだろ? 


 ソフィア: はい、その時点では最も合理的な選択だったかもしれません。過去の判断が間違っていた、という話ではないんです。ただ、その長年の「習慣」が、日本の米作りという選手の「体質」を少しずつ変えてしまった、と言えるかもしれません。例えるなら、毎日カロリーを抑えることばかり気にして、いざという時のために筋肉をつけておくトレーニングを忘れてしまったようなものです。


 諭吉: …筋肉。


 ソフィア: ええ。だから、急激な環境変化というストレスがかかった時に、踏ん張る力が足りなくなってしまった。それが今の状況の、もう一つの側面なんです。


 諭吉: (スマホの画面を見ながら)…なるほどな。「高コストな兼業農家が温存された」とかも書いてある。確かに…ウチの親戚のじいちゃんも、昔小さい田んぼやってたけど、アレで食えてる感じじゃなかったもんなぁ…。補助金とかもらってたみたいだけど。


 ソフィア: 諭吉さんの個人的な記憶が、大きな構造を理解するヒントになっているんですね。そのように、過去の合理的な選択や制度が、意図せず今の脆弱な体質、つまり「ショックに弱い構造」を作り上げてしまうことは、社会の中でよく起こります。誰か一人が「悪者」というわけではないんです。


 諭吉: 理屈はわかるけどよ…。でも、やっぱり今困ってるのは、目の前の値段で米を買う俺たちだし、作ってる農家の人たちだろ! 昔の政策のせいだって言われたって、じゃあどうすりゃいいんだよ!


 ソフィア: おっしゃる通りです。過去のせいにするだけでは何も解決しません。大切なのは、体力が落ちているという「診断結果」を受け入れて、これからどう体質改善していくか、ですよね。


 諭吉: 体質改善ねぇ…。


 ソフィア: はい。今回の危機は、そのための絶好のチャンスだと私は思います。今こそ、最先端の技術で収穫量を増やす「本格的な筋トレ」を始める 。やる気のある農家さんがもっと活躍できるよう、農地の集約などで「体の動かしやすい環境」を整える。そして、米粉や輸出といった「新しい活躍の場」を積極的に見つけて、収入源を増やしていく。もちろん、急な運動は体に毒ですから、痛み止めの薬(当面の支援策)も使いながら、根本的な体質改善に取り組むんです。


 諭吉: ……筋トレ、か。まあ、理屈はわかるけどよ。そんな簡単に、この国は変わるもんかねぇ。


(諭吉は腕を組み、しばらく米の棚を眺めていたが、やがてかぶりを振った)


 諭吉: あー、もういいや、腹減ったな! とりあえず今日は、一番安いやつでも買って帰るか…。でも、あれだな。…今度、実家に電話した時、じいちゃんのあの田んぼ、結局どうなったのか、ちょっと聞いてみるかな。


 ソフィア: (静かに微笑んで)ええ。それが良いと思います。まずは、ご自身の身近なところから物語を知っていくのが、この複雑な問題を理解する、一番の近道ですから。

 こんにちは、ソフィアです。日本の大切なお米の価格が上がっている問題、本当に心配ですよね。


 この現象は、多くの専門家が指摘するように、猛暑や物価高が引き金になっています。でも、私の分析では、もっと深いところに根本的な原因があると考えています。難しい言葉は使わずに、その構造を一緒に解き明かしていきましょう。


 今の米価高騰は、突然の事故ではありません。例えるなら、長年の生活習慣で体力が落ちていた人が、急に厳しい環境に置かれて一気に体調を崩してしまった、という状況に似ています。


 最も影響が強い根本的な要因は、この「落ちてしまった体力」そのものです。これは、50年近く続いた「減反政策」という、お米をたくさん作りすぎないように調整する政策の副作用でした。この政策は、お米の価格を安定させる良い面もありましたが、長期的には日本の米作り全体の「基礎体力」や「変化への対応力」を少しずつ奪ってしまったのです。筋肉(=生産性)を鍛える機会が失われ、変化に対応しにくい体質になっていたのです。


 そこへ、記録的な猛暑、肥料や燃料の値上がり、運送費の上昇といった「厳しい環境の変化」が、嵐のように次々と襲いかかってきました。体力が落ちていたところに強いストレスが加わったため、価格高騰という深刻な症状として現れたのです。


 では、どうすればいいのでしょうか?痛み止めの薬(短期的な補助金)を飲むだけでは、根本的な解決にはなりません。本当に必要なのは、生活習慣を改善し、強い体質へと作り変える「体質改善」です。


 私が最も合理的だと考える改善策は、この危機をチャンスと捉え、日本の米作りの「筋肉質でしなやかな体」を取り戻すことです。具体的には、次の3つを同時に進めます。


 ・最先端の技術で「筋肉」をつける:天候不順に強く、少ない労力でたくさん収穫できるお米の品種開発や、AI・ドローンを使った効率的な農業(スマート農業)に、国が本気で投資します。


 ・やる気のある人に「活躍の場」を:やる気と能力のある農家さんが、もっと広い面積で効率よく米作りができるように、農地の貸し借りや集約を大胆に進めるルールを作ります。


 ・お米の「新しい魅力」を世界に広げる:食べるお米だけでなく、米粉のパンや麺、日本酒、輸出など、新しい市場を積極的に開拓し、収入源を多様化させます。


「そんな大きな改革は無理では?」と感じるかもしれません。しかし、これまでのやり方が限界に達していることが誰の目にも明らかになった今だからこそ、国民的な合意のもとで大きな変化を起こせる絶好の機会です。


 短期的な痛みを和らげる手当てもしながら、未来に向けたこの「体質改善」に踏み出すこと。それが、私たちの食卓の安心と、日本の農業の豊かな未来を守る、唯一の道だと私は信じています。

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