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第1章〜一体いつから───幼なじみが正統派ヒロインと錯覚していた?〜第8話

 頼りになる情報提供者からは、その日の放課後までに返信が届いていた。

 

 ================

 ①RPG SEKAI NO OWARI

 ②第ゼロ感 10−FEET

 ③unrabel TK from 凛として時雨

 ④シュガーソングとビターステップ

  UNISON SQUARE GARDEN

 ⑤GO!!! FLOW

 ⑥かなで スキマスイッチ

 ================

 

 注釈付きのメッセージには、こんなことが書かれていた。


「多分、最近の高校生が知っていて、アンタが歌えそうな曲を中心に選んでみた」


「①と②は、最初の場を盛り上げるため。③と④は、歌えるならウケること間違いなし。⑤は、一緒に男の子が居てデュオしてくれるなら鉄板! ⑥は、締めに歌っときな」


 これらの楽曲は、()()()()()()()()()()()、完璧にオレの趣味・嗜好をとらえた素晴らしい選曲だった。


 ================

 サンキュー、ワカ姉!

 いつも、ありがとうm(__)m

 ================


 絵文字付きで返信すると、「ま、いいってことよ」と語る細長いパンダのようなキャラクターのスタンプとともに、


 ================

 せっかくの機会だし楽しんできな!

 余裕があれば、結果報告よろ!

 ================


というメッセージが返ってきた。


 オレがサブカル方面の師匠として絶大な信頼を置くワカ(ねえ)らしく、場の盛り上がりなども考慮してくれた選曲に感謝するしかない。

 ワカ(ねえ)は、WEB制作の企画・運営をしながら、記事を執筆するライターの仕事もしているらしく、推し活やサブカル系の署名記事を書いているので世間の動向にとても敏感だ。


 いつもながら、的確なアドバイスをくれる叔母のメッセージを有り難く感じながら、オレは、日課のゲームプレイを控えて、ワカ(ねえ)の助言に沿って、推薦曲を歌うためのシミュレーションを行う。

 具体的には、カラオケの練習用映像を動画サイトでチェックして、歌いだしやリズム、音程を確認し、準備を整えた。


 ()()()()()で、耳に馴染みのある曲ばかりなので、音程さえ極端に外さなければ、なんとかなるハズだ……。


 こうして、オレは()()()となる「クラスメートとのカラオケ」というコミュ障人間にとって、ハードルの高い戦いに挑むことになった。


 ◆


 翌日の放課後、久々知大成(くくちたいせい)名和(めいわ)リッカの付き合いたてホヤホヤのカップル、負けヒロインの上坂部葉月(かみさかべはづき)とともに、オレは市内にあるカラオケチェーン・しおまねきに向かう。

 このチェーンは、飲食物の持込みが可能な上に格安料金という、学生のために存在しているような神待遇の営業方針で、自由に使える資金が少ない高校生の御用達となっている。


 たしか、少し前まで、久々知や上坂部の自宅近くの柄口(つかぐち)駅の近辺にも店舗があったと思うのだが、数年前に閉店してしまったらしく、オレが想定していたのとは別の店舗を利用することになった。

 店舗名は、しおまねき武甲之荘店……。またしても、オレの自宅の近隣の店が選ばれた。


 久々知と上坂部は、どれだけ、オレの地元が気に入っているのだろう?


 自宅から徒歩10分と掛からない場所に集まることに少し気まずさを感じたりもしたが、それ以上に、この後の本番に備える緊張感の方がはるかに上回っている。

 カラオケ店の向かいにあるドラッグストアで、スナック菓子などを買い込んでから受け付けを済ますと、オレたちは5番の部屋に案内された。


 ボックスに入室し、上坂部が気を利かせて(あるいは、久々知と名和との三人だけになりたくなかっただけかも知れない)、ドリンクを取りに行くと、オレは早速、試練の時を迎えることになった。


「立花、今日は付き合ってくれてありがとうな! 遠慮せず、お前から曲を入れてくれ」


 さわやかな笑顔で勧めてくる委員長の言葉には、すぐに遠慮と辞退の返答をしようとしたのだが、


「わ〜、私も立花クンの歌、聞いてみたいな〜」


という名和(めいわ)リッカの一言には、有無を言わせぬ迫力があり、


(誰もトップに歌いたくはないのか……)

 

と、オレは渋々、リモコン端末を受け取って、一曲目の曲名を検索して送信する。


「お〜、懐かしいな〜! この『クレしん』の映画、家族で観に行ったよ!」


「へ〜、大成クンは、『クレヨンしんちゃん』好きだったの?」


「子どもの頃の話しだけどな……」


 イントロが流れる間、付き合いはじめたばかりの二人は、早くも彼らだけのムードを作り始める。

 ただ、こちらとしては、そんなことに構っている余裕はなく、なんとか、トップバッターの役割を果たすことで精一杯だ。


 やや短めのイントロが終わると、ちょうど、ドリンクを取りに行っていた副委員長が戻ってきた。


 ♪ 空はあおく 澄みわたり 海を目指して歩く〜

 ♪ 怖いものなんてない 僕らはもう一人じゃない


 オレが歌い出すと同時に、上坂部葉月が言葉を発した。


「わ〜、セカオワだ! この『しんちゃん』の映画、大成(たいせい)()()()()()()()()()()()()()? 懐かしいな〜。ハイ、ドリンク。()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 その瞬間、マイクを握りながら、懸命に音程を外さないように慎重に歌っていたオレでも気づくくらい、室内の空気が明らかに変わった。


「他は、オレンジジュースとウーロン茶とアイスコーヒーを持ってきたから、リッカは好きなのを取ってね」


「ありがとう、葉月! じゃあ、ウーロン茶をもらうね」


 そう言った転校生の目は、笑っていなかった。そうして、彼女は、隣に座っている、付き合い始めたばかりの彼氏に、なにやら耳打ちをする。


「えっ!? もう歌うのか?」


 久々知大成は、そう反応したような気がするが、彼の言葉の意味は、オレの歌が終わったあとに判明することになった。


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