とりあえず、罰ゲームです
「あの……」
「別に取って喰おうとは思ってないよ。僕も一応人間だからさ」
「いや、人間なのは知ってますけど」
――だから、何の否定も出来てないって、この人。人間だって言ってるだけなんだって。
「へ、変なことしないって約束してくれます?」
サイコパスな彼に「変なことをしないと約束してくれ」なんて言うのはおかしなことだって分かっているけれど、正直、今回のことで一人暮らしは怖いと思ったし、正直、宇佐神さんがそんなに悪い人に思えなくて……
「何言ってるの? 響くん、僕の世話してくれるんでしょ?」
そう言いながら、宇佐神さんはさっきまで外していたくせに、わざとらしく右腕を黒いアームスリングで固定し直した。
「ああ……そうだった……」
――この人、俺の所為で利き腕怪我してたんだった。
「三重野には俺と一緒に住むこと言わないでくださいよ?」
「それって、いつか自分から彼に告白するため?」
「やかましいです」
「響くんの照れ屋さん」
結局、タイムカプセルはもっと人の来ない小さな公園の木の下に埋めた。
◆ ◆ ◆
「僕の忠告を聞かなかったからだよ」
宇佐神さんの部屋に越してきた初日、紺色のオシャレなソファの前に立たされながら俺はヒモ男に逆襲されたことについて宇佐神さんから説教を喰らっていた。まあ、これも暇潰しの一種だろうけど。
「あのときの、僕と一緒に暮らす? ってだけじゃ忠告にならないでしょうよ」
あれが忠告だったなんて誰が気付きましょうよ? 無理だって。
「取り敢えず、罰ゲームです。高校生の頃のお手紙、声を出してお読みください、はい」
――全然人の意見聞こうとしないじゃん、この人。
おもむろに取り出した俺の手紙のコピーを俺に手渡し、わざわざ幕開けのときのブザーをスマホで鳴らすサイコパス。抜かりない。
「っ、十年後の俺へ、今、俺には好きな人がいます……――」
渋々手紙を読み始める。
そして、恥ずかしい、とても恥ずかしい過ちの手紙を読まされながら、どうして大人になった今になって、宇佐神さんはタイムカプセルを埋めたいなんて言い出したのだろうか……? と思った。