表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/55

僕と一緒に暮らす?

 宇佐神さんの言葉に「え?」と振り返り、「いやいや、嘘でしょう? 俺を揶揄いたくてそんなこと言って……」と言いつつ途中で気になって言葉が途切れてしまった。


 ――あの三重野と一緒に仕事が出来る機会が訪れた……?


 無敵のキラキラ王子スマイルを振り撒く三重野の姿が俺の脳裏に浮かぶ。


「ちょ、ちょっと宇佐神さん、三重野の連絡先教えてください」


 未だに三重野の連絡先を知らなくて、でも、宇佐神さんには頼らない、と心に誓っていた。けど、真偽が気になりすぎて思わず、そう口にしていた。


「仕方ないなぁ」


 そうニコッと笑った宇佐神さんが俺に近付いてきて、スーツの内ポケットからスマホを取り出し、意外にもあっさりと三重野の連絡先を教えてくれた。


 恐らく、臆病な俺には「今度、二人で会わないか?」という三重野に対しての勇気の要る連絡は出来ないと思われているのだろう。――その通りだ。


『中川響だけど、今度、うちの会社と合同プロジェクトするってほんと?』


 宇佐神さんに教えてもらってから、すぐに三重野にショートメールで確認した。素直に聞いた。すると、すぐに『お、中川。実はそうなんだよ、よろしくな』と笑顔の顔文字付きで返事がきた。


 ――嘘じゃない、本当だった。


 バッと自分のスマホから顔を上げると宇佐神さんと目が合った。


「これ、まだ有効なんじゃないの?」


 そう言いながら俺の手紙をチラつかせる宇佐神さん。


 そして、好きな三重野に会えるという期待と宇佐神さんに手紙の内容をバラされたら三重野に嫌われるんじゃないかという気持ちから複雑な表情になる俺。


 だって、まだ望みがあるって思っちゃうじゃんか。


「僕と一緒に暮らす?」

「なんでそうなるんですか?」


 宇佐神さんの意味不明な問いに思わずムッとした顔をしてしまう。


「君のことが好きだし、暇潰しになるから」

「理由が不純です。勝手にしてください」


 この人は絶対たくさんの人間をたらし込んでいるし、人と一緒に暮らす意味とか全然分かっていないと思う。イケメンだからって俺は惑わされない。


「え? 一緒に暮らしてくれるの?」

「そっちじゃない。手紙の方です」


 三重野に見せたいなら見せれば良い、と勢いでぴしゃりと言ってしまった。暇潰しの道具にされて少し苛立った所為だ。


 宇佐神さんの答えは何も聞かず、俺は少し遠回りをして帰ることにした。何度も宇佐神さんが後ろについて来ていないか確認しながら。


 ◆ ◆ ◆


 ――べ、別に嫌われたって、引かれたって、プロジェクトが終われば、どうせ、三重野とはサヨナラなわけだし……いや、ちょっと後悔してるけど……。


 歩いていると冷静になって、心の中で後悔しながら、俺は自分の住んでいるマンションまで帰ってきた。


「え?」


 エントランスのロックを解除して、自分の部屋の前まで来て、俺は思わず声を洩らしてしまった。


 部屋の前で待っていたのは……出て行ったはずのヒモ男、瑠生だった。


「昨日はビビったけど、あいつ響のなんなの? あんなのおかしいじゃん、サイコパスじゃん」


 なんて言いながら、瑠生は自分の方が絶対正しい、自分の方が絶対に良いと主張しているようだった。別に自分のことではないのに、宇佐神さんのことをそう言われて何故だかムッとした。「瑠生は何もしないで楽な生活していたいだけじゃん」とも思った。


「瑠生、俺たちはもう終わったんだよ」


 ――というか、始まってもなかったけど。


 冷たく言って俺は瑠生を突き放した。


 よかった、言えた、自分でちゃんと言えた。


 言えたからホッとしたのに瑠生は


「どうしてだよ!」


 と逆上して、こちらに果物ナイフを向けてきた。でも、意外と冷静に「どっちがサイコパスだよ」と思いながら俺は瑠生を説得しようとした。


「落ち着けって、俺を殺したら警察に捕まって、一生刑務所の中だぞ?」

「うるさい! それで良い!」


 ――警察のヒモになるって最低じゃんか。税金の無駄遣い。


 刑務所に怯えさせる作戦、失敗。


「俺じゃなくてもさ、良い人いっぱいいると思うよ? 瑠生はイケメンだし」

「響じゃなきゃ嫌だ!」


 他の人になすりつける作戦、失敗。


 この後も色々と説得の言葉を掛けたけれど、ことごとく拒否された。でも、話し続けて、瑠生の様子が変わった。


「なあ、瑠生、もうやめよう?」

「分かった」

「ほんと? 良かっ――」

「響を殺して、俺も死ぬ」


 ――最低な結論に到達!!


 ギラギラとした瞳が俺のことを見つめている。自分の部屋の前を通り越して、後退る俺。


「うおおおお! 死ねぇ! 響!」


 手に持った果物ナイフをギュッと握り直して、瑠生がこちらに突っ込んできた。ドタドタと走る音、身の危険を感じて脳がすべてをスローモーションに見せる。


 もうダメだ、と思った瞬間、俺の横でガチャっという音がして、ゆっくりと自分の部屋の扉が開いてきた。それに押されて、気が付けば俺は開いた扉の後ろに立っていて、向こう側で俺の代わりに誰かが刺されたのが分かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ