ニコニコと笑うサイコパス
◆ ◆ ◆
足取りが重たい。宇佐神さんのこともあるけれど、俺にはもう一つ悩みがある。
「ただいま」
番号を打ち込んで、自分の部屋の扉のロックを解除し、中に入って声を掛けた。
「おかえり、遅かったね」
スウェット姿でソファに寝転がりゲームをしていた綺麗な顔が視線をあげてこちらを見た。いつのまにか、部屋に居座り、俺のヒモになっていた瑠生だ。顔は良いが、性格に難がある。俺は自分の優しさで彼を追い出すことが出来ない。
「ちゃんとメッセージ送ったよな? 今日は高校のときのタイムカプセルを開けてて、同級生とも話してて……」
実際はなんの関係もない宇佐神さんとしか話してないけど、と彼のことを思い出して変な人だったな、と考えたときだった。
「浮気してたんじゃないよね?」
気が付くと瑠生が立ち上がって俺の近くまで来ていた。
「違う。というか、俺と瑠生は別にそういう関係じゃないだろ」
「浮気してたんじゃないの?」
まったく人の話を聞いていない。もう、どうして、こいつはすぐ怒るのだろう。
「なあ……」
「俺のこと捨てるの?」
「痛っ……!」
言葉を探していたら、瑠生に手首を強く掴まれ、俺はソファに向かって投げ飛ばされた。
俺の手首にある痣はこうして出来上がる。
「約束してよ!」
「……くっ!」
ズカズカと歩いてきた瑠生に脇腹を拳で殴られ、鈍痛が走る。その拳がまたどこかを狙うために振り上がる。
「響が俺のこと捨てないって約束するまで殴るから!」
「いやだ! やめろ!」
空耳だろうか? 俺の叫び声と一緒にピピッと部屋の扉のロックがはずれる音がした。
瑠生の動きが止まる。彼は玄関の方を見ていた。じりじりと俺も視線を玄関の方に移動させていく。
「その男、殺そうか?」
そこにはニコニコと笑う宇佐神さんが立っていた――。