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宇佐神さんとの出会い

 ポタポタと雫が下に落ちる音が聞こえる。


 その音を聞きながら恐る恐る風呂場を覗き込むと、こちらを振り返る“彼”と目が合った。


 そして


「響くん、僕と付き合ってよ」


 “彼”は手に持ったナイフを自分の顔の横に持ち上げ、血に塗れた姿でニコニコと笑った――。


 

 ◆ ◆ ◆


 ~数時間前~


 ――まずい、まずい、まずい!


 仕事終わりの午後七時、俺は歩みを早歩きから駆け足に変えた。


 頭の中で何回も「まずい」を繰り返しながら慌ただしく校門をくぐり、入校の手続きをして校庭の端に走る。


 そして、再会を喜ぶ元同級生たちの間を抜けて、咲いた桜の木の下、開かれた銀色のタイムカプセルの筒を覗き込んだ。


 瞬間、衝撃が全身を駆け巡る。


 ――ない! 俺の手紙がない!


 十年前、この高校を卒業するときに入れた俺の“過ち”の手紙がなかった。


 ――タイムカプセルなんてどうでも良いと思っていて遅れて来たのがいけなかったのか? いや、でも、誰も人の手紙なんて開けないよな?


 それぞれの手紙には間違えないように大きく名前が書いてある。意図しない限り誰かの手紙なんて……


「あ!」


 視線を巡らせて、俺は桜の木に寄り掛かるようにして俺の手紙を読んでいるスーツ姿の男性を発見した。


 手に持った便せんの下から覗く封筒には俺の名前が大きく書かれている。


「あの、すんません、それ俺の……」


 慌てて駆け寄って顔を見たけれど、男性は明らかに俺の同級生ではなかった。卒業アルバム委員をやった俺だ。当時、全員の顔を確認したから分かる。


「だ、れ……?」


 思わず、足を止めて、口から言葉がこぼれる。


「ああ、これ君の? 随分“面白いこと”書いてるよね」


 こちらに気付いた男性は俺の手紙を振りながらニコニコと笑った。

 清潔にセットされた黒髪、スラッとした高い身長、信じられないほど造形の整った顔面、いや、ほんとに、誰?


「あの、どなたですか?」


 もう一歩だけ近付いて、恐る恐る尋ねてみる。


「ああ、僕は宇佐神紳一郎うさみ しんいちろう。よろしくね、響くん」

「あ、よろ……違くて、あなた俺の同級生じゃないですよね?」


 ――あぶない、流されるところだった。というか、なんで初対面で下の名前で呼ぶんだ?


 人当たりの良い笑みに危うく流されるところだったが、名前を聞いてやっぱり同級生ではないことが分かった。


 しかし、その他は何も分からない。この人は一体誰なのか、と思っていると一つの人影が俺たちに近付いてきた。


「久しぶり、中川」

「三重野……」


 爽やかに笑う相変わらず整った顔のイケメン……、高校在学当時、俺がずっと憧れていた三重野だった。十年前と何も変わらない。いや、もっとビジュアルの良さが増したというか、思わず目が釘付けになる。


 スラっと背が高くて、明るい髪色は生まれつきで、見た目で誤解されやすいが至極真面目な爽やか天然王子様。


「ごめん、俺の会社の先輩」


 俺の前に立つ宇佐神さんという男性を手で差して三重野は言い、そして、彼は「だから、中川はちゃんと来るって言ったじゃないですか、先輩」と宇佐神さんに言葉を向けた。


 三重野、俺のこと覚えててくれたのか……、嬉しい……っ。


「少しくらい良いじゃないか。それに面白いんだよ? 三重野くん、これさ――」

「ちょっと待った! 三重野、先輩、ちょっと借りる」


 これはマズい……! と三重野に俺の手紙を見せようとした宇佐神さんの腕を掴んで、俺は彼を校舎裏まで連れて行った。もちろん、三重野には笑顔を向けて。


「こんなところに連れ込んで、どうしたの? 僕、これから殴られたりする? ――そういえば、金属バットって人の頭殴ってもカキーンって音するのかな?」


 薄暗い辺りを見渡して、宇佐神さんはそんなことを言った。


 ――こっわ、言ってることが物騒。元から殴る気ないけど、笑顔で返り討ちにされそう。


 ここまでは心の中に留めてスルーした。


「あ、それとも、もしかして、告白の方? それなら答えはイエスかな。君、可愛いから」


 ニコニコ顔を崩すことなく、宇佐神さんが俺に近付いた。飄々としながらも優しさと色気を纏った雰囲気にちょっとドキリとする。

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