自主練習
朝起きて、ジルが魔法練習に良い場所があるとかでそこに行くことになった。
国境近くで少し遠かったため、庶民の足である巡回馬を使い向かう。
その中でジルの夢は赤竜になる事を知る。一方俺は未だにまだ何も決めれてなくて・・・
ジルの誘導でしばらく道を進んでいると、開けた空き地が見えてきた。
そこは四方が森に囲まれており、十分な広さもあった。空き地の中心は土が掘り返されたようになっていて多少荒れてはいたが、背の高い草や、大きな障害物もなく魔法の練習をするには最適な場所だった。
「・・・ジルにしては良い所知ってるじゃん」
「だろー?感謝しろやー」
「おぅ。気が向いたらな」
「おいっ」と突っ込みを受けながら空き地の真ん中に行きながらぐるっと見渡してみると、右端に同じ大きさの木が二本あるのが見えた。
「あっちの木のとこ、丁度よさそうじゃないか?」
「いいね!」
ジルも賛成してくれたのでそちらに向かおうとすると、中央の土が荒れている所で何かが光った。
(なんだろ・・・?)
近くを通るついでにその場所をよく見てみるとそこには精密な白いレースが落ちていた。拾い上げて見るとレースの中央にはカットされた黄色い宝石が付いていて、それが光を反射していたようだった。レースの両端には金具がついていて見た感じ女物のブレスレットのようだ。
「どしたん?」
ジルが不思議そうにのぞき込んできたので、俺は慌ててソレを上着のポケットに突っ込んだ。
「いや、何でもない。行こうぜ」
木に近づいてみると太さは自分の胴回りよりやや細めの木が並んでいた。とりあえず近くに荷物を置き上着も脱いで身軽になると、軽く準備運動までする。
そして木から少し離れた所に地面にあった枝を適当に置いて線にすると、そこを俺たちの立ち位置と決め、二人横に並んで早速練習を始める事にした。
「おい、ジル!間違っても俺に当てるなよ!」
「当てるかよ!ばーーーか!」
俺はニヤリと笑った。そんな俺を見てジルもニヤリと笑い返してきた。
((どっちが先に的を破壊できるか勝負だ))
さて、的である木の距離まで大体五メートルと言ったところか。俺は集中して的に狙いを定めた。魔法を撃つには、イメージと集中力が大事だ。後、掛け声があるとタイミングが計れて良いのだが、決まった掛け声があるわけではなく『破』だとか、『テー』だとか言うやつも居るし、黙ってやるやつも居る。俺はなんか恥ずかしいからやらないが。
木に向かって腕を伸ばし手の平に魔力が集まる様に意識する。しばらくすると手の平が光り始め、小さな核ができた。そのまま拳大の光の玉に形成されるまで意識を集中する。ある程度できたらその光の玉を強く、弾く様に意識すると、光の玉は多少ふらつきながらも真っ直ぐ飛んでいき的に当たるとバン!と弾けて消えていった。木には手のひらほどの丸い凹みができた。続けて隣からも爆ぜる音がする。
隣の木を見やる。
(サイズは・・・同じぐらいか)
「次は穴を空けてみせる」
「じゃあオレは、お前よりデカい穴空けてみせる」
ーーーーーーー
「はぁ、はぁ・・・はぁ・・・っ」
俺たちはがむしゃらに魔法弾を撃ちまくった結果、仲良く地面に倒れて息を切らしていた。流れる汗が額からこめかみの方へ流れていくのを感じる。そのうちの一粒が目に流れてきて反射的に瞼を閉じた。いつの間にか太陽が真上から差す様になっていたようだ。瞼を閉じていても眩しい。
肝心の的である木は多少抉れていたが、いまだその場に鎮座していた。出来の良い魔法弾ができていたのは最初の一、二発だけで後は形はできても途中で霧散するか、的に届いても破壊するほどの威力は無かった。
ただ一般的には魔道具の補助無しで魔法弾を撃つ事ができる人はあまりいない。一年の時魔法弾を的に当てたのはクラスの半分も居なかった。二発目を的に当てるだけでも素質はある。と、思う。
《ぐぅ・・・》
気の抜ける音が空き地に響く。そういえばもう、そんな時間か。
「昼飯にするか・・・?」
「はは!そうやな!」
俺たちは買ってきた弁当を食べる為に、近くに座りやすそうな大きめの石や木を引っ張ってきて簡易的な椅子にすると早速弁当を取り出した。蓋を開けると生姜焼きの甘辛い匂いが広がり唾液があふれだす。
「「うおー美味そう!!」」
ジルの唐揚げ弁当も見たら、そっちも美味しそうだな、なんて少し目移りしてしまった。肉の一切れを口の中に放り込むと香りと同じ甘辛い味が舌の上で広がり、噛むほど肉の味が染み出てくる。
「なかなか美味いじゃないか」
次回からもここにしようと心に決めていると、隣からも「うっま!」という声が聞こえて、どうやらジルも満足のようだ。
買ってきた弁当を黙々と食べながら俺は魔力について今更考えていた。
魔力はその人が持てる魔力容量〈キャパ〉が決まっている。両親の魔力が多いと子供に受け継がれやすいという話を聞いた事がある。多分、魔力容量も遺伝みたいなものだと思う。
(そう言えば父さんや母さんのキャパを聞いた事無かったな・・・)
基礎学校の時に魔力容量と、魔力量を計るのが義務付けられていて、あの時はみんなテストが帰ってきた時みたいに盛り上がったものだ。
そして俺のキャパは57だ。このキャパ数値は変わらないらしい訓練すれば上がると聞いた事はあるが実際は分からない。稀に上がったなんて人が居ると聞いたが、どれも最初の計測ミスだったらしい。
65を超えれてば、どこからでも欲しがられて兵士になるのにも有利なんだが、54の俺は残念ながらちょっと使える凡人だった。魔力量も27とかでそっちも凡人だ。
魔力量は訓練や魔道具とかで補う事ができるから、こっちは置いといていいだろう。むしろ有り過ぎる方が問題だ。
もしも、容量を超えて大量の魔力を持ったり使ったりすると、体が黒く変色し始め死に至る。
葬儀の時、広場に向かう最中に見たやつみたいに・・・。ふとその時話したおばあさんを思い出した。
あのおばあさんみたいに体の黒化は魔王様の怒りだと捉える者も居る。
(・・・魔王様が怒ったんじゃなくて、魔力の使い過ぎが原因だろ。普通に考えて)
魔王様も大変だろう。勝手に自分のせいにされるのだから。俺は見た事も信じた事もない魔王様に少しだけ同情した。
「そう言えばジルはキャパどのくらいなんだ?」
「オレ?オレは53」
「あ、じゃあ俺の勝ち。1勝った」
「はぁ?いちぃ?1なら対して変らねぇじゃねぇかよ!誤差や誤差!!」
実際、ジルの言う通り誤差ではある。だが1でもジルに勝てた事は間違いない。
「次の実技テストで勝つからいいけど」
ジルも負けじと対抗してくる。そう言われると俺も負けるわけにはいかない。
「じゃあ、次のテストの時どっちが上か勝負だ」
「あぁ、いいぞ」
俺たちは技術的にはほぼ同じなので、ジルに勝つためには自分の課題と向き合わなければならない。
今の俺の魔法弾の軌道は目で見て明らかにふらついてたし、速さも年寄りには当てれるかもしれないが、正直誰でも簡単に避けられるだろう。
この魔法弾のふらつきが無くなればスピードも上がるし、スピードが上がれば威力も上がる。
「評価基準は的に当てる事だから、今の状態でも高い評価は貰えると思うんだけど、それだけでは意味がないからなぁ」
俺たちは座学を一旦おいて技術での成績アップを狙っている。今よりその一歩上に行かなければクラスの真ん中まで行けない。
(これにはジルの退学がかかっているからな)
「例えば魔法弾に技名を付けるとかどうや」
ジルが何か言っていたがしょうもない事が聞こえたような気がしたので無視して自問自答する。
「マジキャノン!!」
「おい、お前の退学がかかってんだぞ?」
俺の一言に自分の立場を思い出したらしい。おとなしくなった。
今の魔法弾の仕上がりでは実技テスト「A」が妥当だろう。その上の「A+」をとらなければ、クラス成績は大して変わらない。
「せめて確実にAはとれるって確信が欲しいな」
「せやなぁ。目標はA+のやし、クラスでA+のやつ居ないよな?」
A+取れれば、技術での成績は最上位組になれるのだが、A+にはなかなかなれない。その壁を越えるのが今の課題だ。
持ってきた弁当も食べ終わり片付けながら、ジルが聞いてきた。
「そういえばお前さぁ」
「ん?」
「来るとき馬車の中で、うちの学校に入ったのは、"手に職が"って言ってたやん?卒業したら何するんや?」
「う"・・・」
今一番聞かれたくない事だった。
卒業したら・・・当然就職する。ああ言った手前、技術職で、なにか魔道具の整備士とか言った方が良いだろうか?
でもやっぱりしっくりこなくて、明確な目標がないまま今から考えても何も浮かんでくるわけがなかった。
俺は今だってジルに負けたくないって気持ちだけで練習に付き合ってるだけだったから。
「実はまだ考え中なんだ。今は・・・なれるなら俺も兵士、かな・・・?」
何も思いつかなくて、結局最初の夢である兵士と答えたが、やっぱりしっくりこなかった。
「なんだよ、お前も兵士なりたいんや。じゃ一緒やな!」
ジルは少し嬉しそうな顔をした気がする。
(まぁこいつと一緒に兵士やるのも悪くない、かもな・・・?)
俺はこれと言って今まで目標も無くやってきたから、将来について親や教師から聞かれるのがずっと億劫だった。卒業までには決めなきゃという気持ちはあったが、何一つ"やりたい事"が見つからずにいて、だから本当に単純だけどジルと兵士になるのも良いな。と思ったとたんに目の前が少し晴れた気がした。
なんというか、少し気が軽くなった。
「あぁ、一緒に兵士になろうぜ」
「おう!そうだな」
するとジルは突然真面目な顔して言った。
「光の玉を飛ばすから、光の弾丸、光玉ってのはどうやろか?」
(だっっさ・・・って待て、睾丸?流石に無いだろ。何かのはずみで事故るぞ?)
「光玉は止めとけ。せめて光玉にしとけ」
「え?そうか?」
ジルは最初こそ悩んでいたが、最終的には俺の案に乗っかったらしい。「俺の必殺技!光丸!」と叫びながら魔法弾を木に撃ち込んだ。なんでか今までで一番大きな音がした。
「うぉおおおーーー!なんか!イイ感じな気がするんやけど!!」
(まじかよ)
関係ないと分かっているが威力は上がった気がする。認めたくないが・・・
後半は一つ一つを集中して打ち出す練習をして、少しコツがつかめたような気がする。最初の的を完全に倒した所で、暗くなる前に今日の練習を終え帰路についた。
(やっぱり俺も何か掛け声を考えるべきか・・・?)
「光玉よりマシなやつ・・・」
流れで将来の目標が出来たが、今までなんとなく行っていた学校に意義がある様に思えた。明日からの学校が少し楽しみになったのは久々だった。練習をした分早くクラスの連中に披露したい気持ちはあるが、まずはジルの能力を親父さんに認めてもらって退学を阻止しないとな。と改めて思いつつ眠りについた。
ーーーこの時の俺は、まさか自分が退学になるなんて微塵も想像もしていなかった。
ネーミングセンスがクソダサい。流石に光玉はないだろw




