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絵本は教訓

国王の葬儀に参列しに向かった広場でウィルの想い人サシャと出会うも、取り巻き二人に阻まれて近づけずにため息しか出なかった。それでも初めて入った城のホールは凄くて、ウィルは圧倒される。

無事に参列が終わり、サシャ達とは別れ、ジルと泊りで一緒に勉強する事が決定し、一旦家に帰り昼飯を食べてまた合流する事になった。

ジルと別れ、家にあった食材で適当に昼飯を作って食べた後、多少なりとも部屋を片付けようと床に散らばった服を回収しクローゼットに押し込んだ。机の上のゴミをゴミ箱へ放り込み、本を本棚に戻し整理していると一冊の絵本が目に入った。


「うっわ・・・懐かしいなこれ」


茶色の外装に金の箔押しで飾られた表紙には可愛らしい白髪の獣人の女の子のイラストが描かれている。【かわいそうな子】どこの家庭にもある子供の頃の読み聞かせの本の一つで別段珍しいものではない絵本だ。子供の頃はなぜか凄く気に入っていて、どこに行くにも持って歩いてたような気がする。

懐かしさにパラパラとめくってみると記憶が蘇ってきた。


【むかしむかし、この国では人間と獣人が仲良くくらしていました・・・】


【魔法を使えない獣人は人間社会から疎外感を感じていました。そんな中、街の人達の中で一つの噂話が流れます】


子供の頃に何度か読んだ話しだ。噂話に乗っかって獣人はここを獣人の国にしようと街の人を殺し始める。皆殺しだ。確か最後は・・・パラパラとめくって最後の方のページを開いた。


【魔王様はお怒りになり、その土地を枯らし住めないようにしてしまったのです】


物語の最後のページには挿絵がついていて物語が締めくくられていた。

街の人達を皆殺しにした獣人は残骸と死体の中、大声で泣き叫び、ながら魔王様に連れていかれる挿絵が描かれていた。黒い服を纏った黒髪の長髪の男性が目立つように描かれていて、これが魔王様だとすぐに分かる。


ーーー魔王様がお怒りになったのよ。


朝、広場に向かう途中、おばあさんが言っていた言葉を思い出した。


「魔王様、ねぇ・・・」


本全体を見てみると、子供でも受け入れられやすいような柔らかな優しい雰囲気のある挿絵と対照的に物語は子供には結構物騒だと感じた。あの頃はあまり深く考えたことなかった。ただ、雰囲気で読んでいたような気がする。こうして改めて見るとこの絵本は"軽はずみに噂話を信じるな”と言いたかったんだと思う。

背表紙を見ると何か槍の様なマークと著者名が目に入った。


【著者:カラン・ロックス】


「知らない名だな・・・」


「おーい!」


玄関の方からジルの呼ぶ声にハッとなった。


「やっべ!まだ何にも片付けれてねえ!!」


本をベッドに放りやって、もう今から片付けようがないので諦めて部屋にあげる事にした。


「ごめん、散らかってるけど・・・」


「いいよ良いよ、むしろ綺麗な方。オレの部屋なんか踏み場が無いし」


簡易の机を出すと普段使いの机と合体させて一緒に使えるようにした。椅子も来客用に一脚持っておいて良かった。飲み物も準備して、俺たちは早速教科書を開いた。


「よーーし、じゃあなにからしよっかな」


そう言うジルの横で俺はとりあえず一番面倒な歴史だな。と教科書を取り出して開いた。教科書にはどうやってこの国が出来ただとか、いつから魔法が使えるようになったとか、初代の王様の華々しい功績だとかが並んでいる。


(心底本気でどうでもいい)


そのどうでもいい事を覚えなきゃならないのは苦痛でしかなかったわけで。何にも面白くない。読んだ文字が頭の中で右から左に流れていく様に消えていって、勉強しようと意気込んだが、ちっとも頭に入る気がしない。適当に目に止まった肖像画を見て適当な感想を呟く。


「最初の王様って不細工だよな、嫁は可愛いのに。もったいねぇ」


「不敬罪で殺されるぞ??」


どうせお前しか聞いてないだろうが。とジルにガンを飛ばしたがヤツは教科書に穴が開くんじゃないかというほど睨みつけていて、こっちの事は眼中にない様だった。しばしの沈黙が続く。

俺は教科書を開いてはいたが、頭の中はサシャでいっぱいだった。今日も可愛かったし、少しだけど話せた・・・?か。サシャは今、好きな人とか居るんだろうか。何が好きなんだろうか。次に会ったときはもう少し・・・


「あーーー、わかんねぇーー!もう無理やあああぁあー!!!」


「うわっ!びっくりした」


ジルは早々に根を上げたらしい。机に突っ伏してもうやる気はない様だ。

流石に早過ぎじゃないかと思ったが、俺も正直勉強に集中できないでいた。そもそも馬鹿二人が集まった所で、教えてくれる人が居なければ分からない事は分からないままだ。最初から分かりきっていた。


「なぁ今日はもうやめないか?代わりに明日魔法訓練にしよう!んで実技を伸ばすってのはどうだ?!」


「うーーん・・・。そうやな!伸び代がある方を伸ばそうか!」


俺の提案にジルが賛成してくれたので、今日の勉強会は早くもお開きになった。俺たちにまだ伸び代があるか分からないが、教科書を開くよりまだ可能性がある。実技の出来が良ければ評価も上がるだろう。多分。


「あれ?この絵本懐かしいな。オレも昔持ってたなぁ」


「あぁ、本棚を片付けてたら出てきてさ」


さっき見たときにベッドに出しっぱなしにしていた本の存在を忘れていた。


「そういえば今日居た白タグの獣人の子供、なんやったんやろうな?」


本の表紙を見てか、今日の葬儀に向かう時の事を思い出したらしい。ジルの言葉に俺も思い出した。


「それもそうだが、それより俺はあの時来た女が気になる、ほんとにクラスに居たか??」


獣人も気になるがあの後ろ姿(もうぼんやりしか思い出せない)の方が今は気になる。


「あぁ、あいつ一年の時にオレは同じクラスやったから。けど、よく知らねぇ」


「はぁ?」


「だって入学して、最初の一週間?ぐらいで来なくなってよ?二年のクラス替えで、クラスのメンツは誰が居んのかなぁって見たらそいつが居たんよ」


「なんで学校来てないのに二年に上がれるんだよ?」


「知らねぇよ」


「・・・・ちょっと待て、たった一週間でよく顔覚えてたな。しかも一年も前の事」


ジルは少し悩むような顔して「いや、それがなぁ・・・」と当時の事を思い出して少し照れた顔をした。


「入学式で可愛い子だなって思ってたんよ。同じクラスになってラッキーってずっと見てたんや。けど、なんか校長に呼ばれて行ってその日はそのまま帰ってこなくてよ。ってかそれ以降見なくなった」


「なんで校長に呼ばれたんだ?」


「さぁ?」


「そんなに可愛かったか?」


「当時は、な。今は近寄りがたい雰囲気出ててちょっとな」


「ふーん・・・」


「次に見たのは二年に上がってからや。今まで何回かは来てるけど、来ても目立つタイプじゃないし。ウィル以外にも知らない奴が居てもおかしくないかもな」


「うーーん。じゃあ何回か会ってたのか。覚えてないな」


二年に上がってすぐは同じクラスになったサシャが気になって、他の女は眼中になかった。

ただ、ジルが可愛いって言った女がどんなだか、そいつの事がちょっと気にはなった。明後日から学校が始まるし、もし居たら確認してみるか。


その後は学校内の嫌いな先生No. 1決定をしたり、クラスの女子の胸のサイズを賭けたり、他愛の無い話に盛り上がっていたら、すっかり夜も更けていた。


「今日、泊まるんだろ?」


ジルの荷物の少なさに「泊まりでって話したよな?」と記憶を手繰る。それを察したのかジルは自分の荷物を見て


「あぁ、オレ、荷物が多くなるの嫌いなんや。これでもいちを泊り道具持ってきてるよ」


持ち物を見てみると、歯ブラシやタオルなどがコンパクトにたたまれていた。道具はどれも使い込まれていて、物持ちが良いんだな。と感心した。


部屋に友達が居て、自分以外の気配を感じながら寝るのはなんだか新鮮だった。「おやすみ」とお互い声をかけて明かりを消した。







そして分かったことがある。


ジルはいびきがうるさいという事だ。

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