信じようが信じまいが人生が変わるわけではない
王様の葬儀の為広場に向かうウィルとジル。広場の近くで人だかりができていた。
近くに寄ってみると、一人の男が倒れていてその体は黒ずんでいた。近くにいたおばあさんに聞くと、獣人のせいなんだとか。
しばらくすると倒れていた男は仲間に担がれて居なくなった。
やじ馬も居なくなり、そろそろ城へ向かおうと通りの方へ体を向けたがジルが付いてこなかった。
「ジル、行こうぜ」
声をかけたが反応が無い。どうしたのかと覗き込むと真っ青な顔したジルが一点を見つめて固まっていた。俺はジルの名前を呼びながら、何度か体を揺すってみるとジルはハッとしてこちらを向いた。
「あ、ごめん・・・。なんやって?」
「いや、なんかお前ボーってしてたぞ?」
「いや、何でもない」
何でもない。と言えるような表情には見えなかったが、なんとなく話しかけていい雰囲気じゃない気がして俺は黙って見守る事にした。
しばらくしてジルが「行こうや」というと歩き出したので、俺もそれに続いた。
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広場に着くと人がひしめき合い、俺たちと同じような学生や若い奴らもわりと目に付いた。
広場の中心は城に向かう列によって分断されていた。人の多さに歩くたびに誰かにぶつかりそうだ。俺たちははぐれないようになるべく互いが手の届く範囲を保ちつつ進むことにした。目的地である城はこの中央広場から北の先にある池の真ん中に建てられており、城へ行く道の橋は一つしかない。その為、必然的に橋前の中央広場は混み合うのだ。
(城の中はどうなってるのだろうか?)
産まれて17年。まだ橋を渡った事は無い。普段、正面の大門は閉められ橋を渡る事さえできないから。使用人は門の右扉に小さな入り口から出入りする事が出来るみたいだが、もちろん門番に通行許可を見せなければ入れない。住み込みで働いている人も多いらしい。詳しくは聞いたことがないから実際はわからないが。
今日は正面の大門が開けられ先の城まで長蛇の列が続いているのが見える。初めて踏み入れる場所に好奇心が湧いてきた。
それと、もしかしたら両親が働いている姿が見れるかもしれなかった。会えることは期待してないが、仕事中の両親は、なんか想像つかなくて、少し不安にも似た感情が一瞬湧く。
「早速並ぶか?」とジルに言い、列をたどって見ると最後尾は広場中央を過ぎたあたりだった。長い列は祭壇までかなりかかりそうだと思ったが、列はどんどん進んでいる。すでにお別れを言い終わった人たちが戻ってきているのを見ると、わりと昼頃には終われそうな予想がついた。
「うわーーーめんどくせーーーー」
ジルの心の声が駄々洩れのせいで、周りの視線がまたこちらに集まる。
「だから、お前もうちょっと空気読めよ」
俺はジルに注意をしたが、ジルは「だってよぉ」と不満を隠せないでいた。
とりあえずジルの事は置いといて、列を見ると皆、白い花を持っていた。見渡すと広場のあちこちには木製の荷車に花を乗せた人達がいて、その人達が花を配っているらしい。おそらく国中の花屋が集められているのだと思う。担任が言ってた"広場で花を貰う"と言ってたのはこれの事かと思い、近い所から貰うかと思っているとジルがぼやいた。
「知ってるか?同じ花屋でも、人気の花屋とそうでない花屋があるんよ」
「花なんてどこでも同じだろ・・・」
花に興味ない俺は、違いなんて分かるわけがなかったが、よく見るとジルの言う通り人だかりに差があった。
「そこの右の花屋より、あっちの噴水近くの花屋の方が人が多いやろ?花の出来が全然違うんよ。オレが噴水側のもらってくるからウィルはあっちな」
勝手に決めて言い捨てるように言うとジルはさっさと行ってしまった。どうやら反論は受け付けないらしい。仕方なく言われるまま人の少ない花屋から花を貰いに行った。花の事はよく知らないが割と有名な花だったので俺でも知っていた。
「百合」
あまり好きではない。爺さんが死んだ時も、去年、隣のクラスのやつが事故で死んだ時も、この花が手向けられた。この花は黒と共に死を連想させる。しかも中を触ったらベタベタと花粉がやたらと付いてくるし。
列の最後尾でジルと合流すると、並べて比べて見て驚いた。確かに俺が貰って来た花は小ぶりで黄緑がかっていて真っ白でなく移動のせいか少しくたびれていた。
対してジルが持って来た花は生き生きしていて大きく白かった。
「ここまで差が出るとは思わなかった」
「やろ?これは育て方と、魔力量の違いやな」
「草に魔力量って関係あるのか?」
「育てる奴がどのくらい魔力を注ぐかとか、その土地自体の魔力が強いかで育った花は鮮やかになるし長持ちするんよ」
ジルの家は親父さんが畑をしているらしく、こういう事には詳しかった。
「まぁ、これは土地やろうな・・・人力で魔力を注ぐとなると、どうしてもばらつきが出来る。けど、あそこに並べられていた花はどれも同じぐらい質が良かった。花を育てるのに、ここまで良い土地にするには時間も金もかかる。あの花屋は金持ちの道楽でやってるのか、代々受け継いだ土地があるのかもな」
「ふーん」
貰った百合をクルクル回しながら、花屋は金持ちの道楽になるんだ・・・と思っていると
「おい、見ろよ」
と、ジルが肘でグイグイ押してくる。なんだよ、とジルの方を向いた。ジルはある一点を見つめていたので俺もその方向を見た。視線の先にはこの場には目立つ白装束の集団が橋を渡っていくのが見えた。数は10か、15か。他国人から見れば異様に見えるかもしれないが、あれは国の信仰宗教で、たまに広場で教えを説いている。白い服に金の刺繡がされた豪華な祭服はそのトップの人達だ。
宗教名は『シリウスの光』
「王様死んだから、葬送の言葉でも贈りに来たんじゃないか?ってかそれがどうしたんだよ?」
特に珍しいもんじゃないだろ。とため息をついた。正直興味ない。誰がトップなのかもよく知らないし、シリウスが何の意味かも知らない。そしてその称える先はもちろん魔王様だ。想像がつかないが、たとえ信仰したとして俺の人生が変わるイメージが無い。
(仲良くしろとか、自然を大切にしろとか、言ってる事は理解できるし"そうだな"とは思うけど)
俺の返事にジルは明らかに不機嫌そうに言った。
「はぁ?ちげぇよ、どこ見てるんや?もっと手前の、ほら、すぐ前の所」
ジルの言葉に視線を下げて、もっと近くを見渡してみる。一体何を見つけたんだと気になるものを探した。
そしてここから10メートル程先、花を貰うための列の前に、ゆるりとカーブを描いた栗毛の髪の女性が、花を受け取っていた。
「・・・サシャ?」
「向こうも今から行くみたいやな。誘って行こうぜ!」
言うや否やジルは人混みを縫う様に進んで消えていく。
「あ!おい!待てよ!」
慌てて俺も後をついて行く。
頭はジルを追うことに集中していたが、心はそうはいかなかった。心臓が早鐘を打つ。それがジルを追う為に慌ている為か、サシャを誘う緊張のせいか、分からない。考えてる余裕はなく、すぐに目的の場に着いてしまった。俺は自分に落ち着く様に言い聞かせる。
(さっきみたいにカタコトにならないようにしなきゃな)
今度は本人に笑われてしまう。それだけは避けたい。同じクラスだったけどサシャはいつも誰かと居て隙がなかったし"好きな人"と言う気持ちが逆に壁になって中々話しかけに行く事が出来なかった。
先に合流したジルは既に「一緒に行こうぜ!」と声をかけていた。流石、コミュ力の化け物だ。コミュ力の化け物は俺も居る事を話してくれたので、本当にできるやつだ。横に立って平静を保ちつつ挨拶を、普通に・・・
「・・・ッス」
普通に声を出したつもりだったが、予想よりかなり小さい声になってしまって、むしろ掠れていた。正直聞き取れるものではなかったと思う。もはや自分でもびっくりだ。ジルは俺から視線を外し必死に笑いを堪えている。顔が火照っていくのを感じる。サシャはそんな俺を見て少し会釈するとすぐにジルに向き直ってしまった。
なんだか顔を上げづらくなって視線を落とすと、手にした花がジルを追う間に揉みくちゃになってしまったらしく花びらが半分落ちてしまっていた。惨めな気持ちがわずかに沸いてこれ以上考えないように、思考を止めた。
すると視界の横からすらっとした綺麗な手が伸びて来た。振り向くと花屋と思しき女性が新しい花を持って立っていた。交換してくれるらしい。声を出す元気も無かったので俺は黙って差し出した。相手も挨拶も無かったのだからお相子だろう。
後ろから「何だよ!お前らも居るのかよ」という声が聞こえる。どうやらいつものサシャのボディガード、ガリングとポチ美(勝手にそう呼んでる)も居る様だ。ガリングは紫の盾ロールサシャにひょろひょろの体をしているから。ポチ美はその反対。よく食べ良くしゃべる、金髪のポニーテールだ。サシャにベタベタ引っ付きまわってとにかく隙がない。あつらが居ると俺にはもうサシャと話すチャンスは無いようなもんだ。
(はぁ・・・)
「じゃあ、とっとと行って終わらせようや」
ジルの呼びかけで俺たちはあたらめて城に向かう列に並んだ。




