一章 2話 道中の雑談
現国王が死んだ
国は喪中になり、主人公ウィルとその友達ジルはその葬儀に参列するため城へ向かう。
その途中ジルの発言にウィルは少々面食らう事になった。
「殺されたって?」
王様には興味が無いが、殺されたとなると話は別だ。誰かが、何のためか一国の国王を殺したとなれば大罪だ。捕まれば家族もろとも死刑だ。もし隣国の仕業なら戦争になる。国政に興味ないが国のトップが殺されたとなると話は別だ。
ジルは少し興奮気味に今朝聞いたという話を俺に話した。
「親父がさ、近所のおっちゃんと話してたのを偶然聞いたんや。王様はこの前までピンピンしてたって。なのに死んじまってさ?やから殺されたんじゃないかって話が出たわけ。で、外から侵入された形跡はなかった。それで身内の犯行やないかって言われてる。王様が死んだその日、城に出入りした全員に今、嫌疑がかけられてるってさ?」
「確かお前の両親も、城勤めやったよな?」
俺に聞いた後、ジルはハッとした様な顔をして
「別にお前の親を疑ってるわけじゃないんやで!ただ、心配でさ?」
と慌てて弁明するジルの罰が悪そうな顔を見ながら、俺はどこか他人事の様に考えていた。だって俺の両親が国王暗殺なんて突拍子もない話だ。なんのメリットもないし両親から王様の悪口一つ聞いたことない。普段の様子も変わった所なんて無かった。
「あーーはいはい。ご心配どうも。大丈夫だよ。」
とあきれ口で返事を返すと、俺は犯人は自国の人間じゃないと考えた。単純にリスクがデカすぎるからだ。
「気づかなかっただけでやっぱり他国からの暗殺だった可能性もあるし、病気だったのを隠してただけかもしれない。それに・・・その話自体、そもそも信ぴょう性はあるのか?」
それを聞いてジルは「あ、たしかに・・・」と自分の聞いてきた噂話に疑問を持ったようだった。
(ジルは単純すぎるのかもな。それが良い所でも悪い所でもあるか・・・)
分からない事を考えても無駄なので、俺はもうとっととこの話題を変えようと、この後の話を切り出した。
「なぁ、参列が終わった後そのまま一緒に遊ばないか?」
いつもなら一つ返事でOKするやつが今回はなかなか返事が返ってこず、横目で様子を見るとジルは少し困った顔をしていた。
「あぁーーー・・・行きたいんやが・・・」
言うか言わないか逡巡するそぶりをみせ、口ごもり、少し考えたかと思うと話し始めた。
「今回のテスト・・・いや、毎回か。オレ、クラスで1番ビリでさ。それで親父からさ、もう学校辞めて、一緒に畑仕事しろって、言われてさ・・・」
ジルはどこか遠い目でこの裏道から見える狭い空を見ていた。俺は予想外の答えに思考が一旦停止し、口からは「マジか・・・」とつぶやく事しかできなかった。
「次のテストで、クラスの真ん中まで行ければまだ通って良いって言われたからさ。オレ、お前とまだ学校行きたいし、次のテストまで特訓してなんとか残りたいんや」
「マジか・・・」
「やから、ごめん!今回はパス!」
「マジか・・・」
その言葉を聞いて、走馬灯かのようにジルとの出会いを思いだした。
入学して一年の間は基礎学校での成り上がりで知り合いや友達が多かったが、みんな辞めるか、別の学校に転入して行くかして、一年の終わり頃には知り合いさえも居なくなった。二年に上がり、そのとき同じクラスにジルが居た。それが出会いだった。同じくボッチだったジルとはまるで昔からの友達のように気が合い、意気投合したのだ。まだ数ヶ月だが気づけばいつも横にいるのが当たり前になっていた。なのに・・・
こいつが居なくなったら、きっと残りの学校生活がつまらなくなるだろう。
(嫌だな・・・)
俺もまだ一緒に学校通いたい。素直にそう思った。
「じゃあ俺ん家で一緒に勉強しようぜ!今日親居ないし、だから泊りでやらないか?一緒に勉強した方がいいだろ?」
そんなことを言われると思ってなかったのか、ジルは少しビックリしていたし嬉しそうに言った。
「いいのかよ。オレが点取れなかったら、お前にも責任があるぞ?」
「おぉ、いくらでも」
笑顔で答えたが、実は別の理由もあった。
(ジルが居なくなったら今度は俺が担任に目を付けられるんだよ・・・)
寂しい事とは別に、成績の問題もあった。ジルが居なくなったらクラスの最下位は俺になる。担任の小言が俺に向かうだろう。それに万が一でもジルに成績を抜かされたら、それはそれでプライドが許さなかった。それなら一緒に勉強して、一緒に成績を上げる。1でもジルに勝っておきたい。
ジルは俺のそんな気持ちを知る由もなく「じゃあ、終わったら勉強会だな!」と嬉しそうに答えた。
そんな会話に夢中になっていた俺たちの前に何かが飛び込んできた。
「うわっ!!」「!!!」
危うくぶつかりそうになった俺は反射的に横に避けて回避したが真横に居たジルの方から「・・・い・・・ってぇ・・・!」と声がした。どうやらジルの方は回避できずにぶつかったらしい。慌ててそのぶつかって来た目の前の”何か”を確認すると、子供だった。オレンジ色の長い髪のその頭には俺たちにはない大きな獣の耳が付いている。獣人だ。その右耳には白いタグが付いていた。
俺がその事に気を取られているとジルは獣人の腹を思い切り蹴り上げ二メートルほど先の家の壁に向かって吹っ飛ばした。
獣人は背中から石の壁にぶつかり「うぐっ」と声を上げるとうつ伏せに地面に落ちた。
あいつ、魔法を使った戦い方より、こっちの方が向いてるんじゃないか?と俺はジルのその早い判断力とパワーにのんきに感心した。子供を蹴ったのは可哀そうだが獣人は人間と違って力が強い、向こうが本気を出せば、こちらの骨を折る事など簡単なのだ。甘く見てるとこちらがやられる事もある。ジルの判断はこの場合正しい。
「ジル、大丈夫か?怪我は?」
ぱっと見、傷はないようだが念のために聞いてみる。ジルも自身の身体を動かして大丈夫だと頷いた。
ジルに蹴り上げられた獣人は、その場所から動かず、向かってくる様子はない。
本来タグのついた野良の獣人と、こんな所で出くわすのは珍しい。白のタグ付きってのはどっかでトラブルを起こした問題児って事だ。
そっと近くに行って覗いてみる。髪が邪魔して顔が良く見えないが10歳くらいだろうか。獣人の成長と人間の成長はスピードが違うので、正確には分からないが人間の見た目でいうところのおおよそのぐらいに見えた。子供であることに変わりはないだろう。
「どっかの獣人用施設から逃げ出してきたのか?」
気絶しているのだろうか、反応がない。服はなんだか酷く汚れていて触るのは躊躇った。動かない事に、生きてるのか気になって、背中を軽く2,3回踏んでみたがやはり反応は無かった。そのまま踏んで体を揺らしてみると小さく「・・・うっ・・・」と声が聞こえた。
「うっわ・・・最悪や」
後ろからげんなりした声がする。どうやらこいつがぶつかった際に制服に汚れが付いてしまったらしい。
ジルは手で払ったり、擦っていたりしたが完璧には落ちなかったようで、軽く舌打ちすると諦めたようだった。
コレをどうしたものかと、ジルの方に戻ると、獣人が来た横の通路の方から誰かが走ってくる音がした。その音にジルも気付いたらしい。
「面倒事に巻き込まれたらやっかいだから、行こうや」
ジルはそう言うと、歩き始めた。俺は誰がきたか少し興味をそそられたが、ここはジルの言う事に従う事にした。
※獣人の容姿を書かなかったけど、めちゃかわ
白いタグが付いていない獣人は普通に生活しているが少し珍しい方かもしれない