落ちこぼれの奴
また学校が始まった。俺はジルのおかげでサシャの後ろの席を確保する事が出来たのだが、裏道で獣人と遭遇した時追って来た奴――ロゼの事が気になって、せっかくサシャに近い席を取れたのに、気が散って授業が全然頭に入らなかった。
今日の最後の授業はさっそく魔力操作の授業で屋外訓練場の広い敷地に集められた俺たちは先生の指示を待っていた。どうやら今回は魔法弾の抜き打ちテストらしく魔道具の使用は禁止された。不満があちこちから聞こえる。
俺たちにとってはチャンスだった。
「こんなに早く特訓の成果を見せる事になるとはな・・・」
ジルが身体をねじらせて何かよくわからないポーズをしながらカッコいい事を言った気になっている隣で俺は少し緊張していた。前日の練習を思い出しながら、せっかくなので自己ベストを出したい気持ちはある。サシャや、クラスの連中にもいい所を見せるチャンスだ。
先生に呼ばれた人から前に出て順番に的を狙っていく。やはり魔道具が無いと打ち出すまでに時間がかかったり、的に当たるものも居れば霧散して消えて行くものもあり、その度にクラスの連中から「あぁ」だとか「おぉ」だとか声が上がる。
目を閉じて前日の練習を思い出していると、ひときわ大きい歓声が上がった。見ると的にはこぶし大の穴が開いていた。
「え・・・?」
誰だ?と放った人物を確認して見ると、それはサシャだった。
「あれマジか・・・」
ジルも唖然とこっちを見て来た。
四角い板の的には二重の丸が書かれていたが、その中の丸をブレも無く綺麗に打ち抜いていた。美人でスタイル良くて性格も良くて、魔法弾も正確で完璧ときた・・・・非の打ち所がないとは正にサシャの事だった。サシャのボディガードの二人も黄色い歓声を飛ばし羨望の眼差しを向けている。
「次ーーーっ、、ジル」
呼ばれたジルは唖然とした表情のままポジションに着いたが、すぐに正面の的へと向き直った。
「ジルーー落ち着いていけーー」
俺は友達として声援を送る。ただジルにはそう言ったが俺は落ち着いていられなかった。特訓はしたがこれで良い成績取れないとジルはこの学校を辞めなければならないかもしれない。
他の連中の出来を見る限り、練習通りにすれば実技でクラスの最下位になる事は避けられそうではあるが、退学回避の為にはここの成績で他のマイナスを補う必要がある。
それと、ジルは俺の友でありライバルでもある。個人的に負けたくはない。自主練時は互角そうだったが・・・
「行きます」
ジルは深呼吸をすると、あのクソダサい名前にした魔法弾を叫び的に向かって放った。放たれた魔法弾は真っ直ぐ飛んでいき的の板すべてを破壊した。後には的を立てていた棒だけが残った。
「「「すげーーー」」」
魔法弾を叫んだ時、失笑気味だったみんなが歓声を上げた。これには先生も驚いたようで「お前魔道具使ってないよな?」という声にジルは全力で否定していた。先生の反応を見る限り、かなり良い点数行っていると思っていいだろう。
「本来の実力ってやつや!」
訝しむ先生にそう言うと、俺の方に満面の笑みで戻ってきた。
「どや」
「良いんじゃないか?前より安定してたように見える」
俺は素直にそう伝えた。ジルも今回の出来には満足そうだった。一緒に特訓した甲斐があって俺も嬉しくなる。
「ラストーー、ウィル」
呼ばれて、俺もポジションに向かう。どうやら俺が一番最後らしい。
「頑張れや」
ジルからの声援に俺は振り向かず親指を立てて頷いた。
線の上に立つと的を見定める。距離、おおよそ五メートルと言ったところか。ありがたいことに練習時と同じ距離感だ。深呼吸をして手を前に出した。集中したが、手になんだか違和感を感じた。どういうわけか魔法弾が形成されない。
「あ、あれ?」
俺はもう一度集中する。いつもならもう手の平が温かくなって、魔法弾が形成されるハズだ。しかし今は魔力の流れを感じない。手も温かくならない。
クラスの面々がざわつき始める声が聞こえる。
集中しても、集中しても、魔法弾が形成される感じが無い。
(ちょっと待て、昨日まで出来てたじゃないか!コツもつかんだはずだ!!)
「なんでだ?どうして・・・?」
意味が分からない。必死に腕を振ってみたり、手を握ったり開いたりして勢いを付けてみたりしたが手には何の変化も無いままだった。
「ウィル、どうした?」
なかなか魔法弾を出さず何か焦っている事に先生も気づいたようで声をかけてきたが、俺はもうそれどころじゃなかった。集中しても全く何も形成されないなんて初めての事で何が起きているのか分からず半分パニックだった。人生で一度もこんな事は無かった。当たり前に出来ていたことが、出来ない。
俺の頭の中は、昨日まで当たり前に魔法弾を撃っていた自分が延々と繰り返し再生される。
(昨日までは、普通に・・・)
遠くから今日の授業の終わりを告げる鐘が鳴った。クラスの面々が教室に帰っていくのを感じながら俺はその場に呆然と立ち尽くしていた。
「ウィル!どしたんや!?」
ジルが心配して駆け寄ってきたが、俺はジルの顔を見る事ができず、魔法が使えなくなった"ただの手の平"を見つめる事しかできなかった。
ーーー
気づいたら教室には俺とジルしかいなかった。いつの間に教室に戻ってきたのか、いつの間にみんなは帰ったのかも分からなかった。
「大丈夫か?」
ジルは俺を心配してずっと付いててくれたらしい。
「俺、魔法弾が作れなくて・・・それどころか集中しても全く光もしなかったんだ」
「は?全く??」
俺は黙ってうなずいた。
ジルに見えないように机の下に下げた手に少し集中して見たが今もやはり変化はないようだった。
「うーーん。でも昨日までは普通に出来てたやないか。急にできなくなるなんてあるんやろか?」
「分からない」
「体調が悪いとかでもないんやろ?」
「ああ」
しばしの沈黙が続く。
「先生にはさ、ウィルにもう一度テスト受けれるように言っといたからさ、今日は、帰ろうや?」
「・・・あぁ」
俺は半分上の空で返事をかえすと、教室を出た。ジルには世話になりっぱなしな気がする。呆然自失の俺を心配してジルは「家まで送るわ」と付いてきててくれた。帰りの道は何もしゃべる気にならなくて、これからの事を漠然と考えていた。
魔法専門学校に入ったのに魔法が使えないなんて、とんだお笑い種だった。
一年の間ならまだ学校を変えるなり出来ただろうけど、もう二年になりそろそろ就職の事を考えようかという時期に魔法が使えなくなるなんて思いもよらなかった。
ジルが中退したら~なんて心配してたのに・・・まさかジルじゃなくて俺が辞める事になりそうだなんて。
今までこの学校でやってきたことが無意味に感じてしまって、自然と涙がこぼれてきていた。
ジルはただ黙って背中を叩いてくれた。
「寝て起きたらさ?いつも通りになってるかもしんないしさ?とりあえず、今日はちゃんと飯食って寝ろよ!」
「あぁ、ありがとう」
帰りの道すがら、ジルには黙ってずっと魔力を込めようとしていたけど変化は無かった。明日になったら何事もなくいつも通りに、なるんだろうか?
「ただいま・・・?」
家は暗く、まだ誰も帰っていないようだった。母さんは今日には帰るはずだったが、やはり忙しくて帰れそうにないんだろう。原因が原因だからそう言う事もあるだろう。
正直、今は親が帰って来てなくて良かった。魔力が無くなった事を両親になんて言っていいか分からなかったし、まず自分自身が納得するまでまだ心の準備が出来てなかったから。
「魔法が使えなくなった事を言ったら失望するだろうか・・・?」
俺は部屋に戻ると制服を雑に椅子に引っ掛けて、ベッドに横になった。
俺は、ぼんやりと子供の頃を思い出していた。12の時に同じクラスだった奴に魔力が全くない奴がいた。それが発覚したのは魔力容量と魔力量を調べるための検査の日だった。メモリが書かれた棒状の管の中に赤い液体が入っているメモリの付いた検査管を握ると、魔力量に応じて液体が上がって行き止まった所がそいつの魔力量だと分かる仕組みのやつだが、そいつの管だけは全く反応しなかった。
周りはそいつを笑った。俺もそいつを笑った。先生は複雑な顔をしていたが笑うみんなを止める事はしなかった。
しばらくすると、そいつは学校を転校していった。
アイツは誰の輪にも入れなかった。ずっとぼっちだった。みんな入れたがらなかった。もちろん俺も俺のグループも。中には親に止められたやつも居た。シリウスの光の教えには、魔力無しは魔王様から見放された者と言われていて縁起が悪かったから。
子供からすれば魔力無しなんてなんも出来ない役立たずは仲間に入れたくない。友達にすれば一緒に馬鹿にされるかもしれないし。何かあるたび代わりにやってあげなきゃいけないし。
『落ちこぼれじゃん』
誰かがそいつに放った言葉が蘇って今の俺に深く刺さった。あの時は俺も一緒になって笑ってしまった。何も考えてなかった。みんな笑ってたから、笑っただけだ。
記憶にあるあいつの顔は無表情で心ここにあらずだった。その後は知らぬ間に学校から居なくなってた。
(あいつ、名前はたしか・・・フェルロイ)
あいつが、今どうしてるなんて分からなかった。連絡先なんて聞いてない。いや、知っていたとして連絡してどうするんだ?魔力無しだと仲間外れにした奴が今になって「俺も魔力無くなってしまってさ。これから仲良くしよう」とか言ってこられたら・・・
「無理だ」
まさか自分が、落ちこぼれ人間になってしまうなんて。
「朝、何も改善してなかったら・・・俺、どうなるんだろう・・・?」
今は、何も分からなかった。




