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活字アレルギーな彼女

 彼女は活字アレルギーだ。


 まったく本を読まない。


 ゲームをやるときは説明をすべてすっ飛ばし、感性だけでプレーする。

 教科書なんてもってのほか、まったく見ない。授業中にスマホで録画した動画やネットの動画で勉強するほどの徹底した活字嫌いだ。


 そんな変人な彼女だけど、美人でスタイルが良くてスポーツ万能でクラスの人気者である。


 ちなみに彼女と言っても俗に言う彼女ではなく、ただの幼馴染だ。

 

 対する俺は勉強もスポーツも平均で何の取柄もないただの男子高校生、唯一の特技といえば一日一冊、毎日欠かさず小説を読むことくらい。


 病的な活字フリークな俺は、その素晴らしさを常日頃から彼女に訴えているのだけど、当然ながら何度オススメの小説をプレゼンしてもダメだった。


 挿絵のたくさんあるライトノベルもダメだった。


 それでも俺はどうにか彼女に小説の良さを知ってもらいたい。


 そんなある日、彼女は言った。


「そんなに言うならさ、あんたが小説を書いてよ。最後まで私が読めたら何でも一つだけ言うことを聞いてあげる」


「な、なんでも……」


 ごくりと俺は喉を鳴らした。


「言っとくけど、エッチな要求はダメだからね」


 おお、なんてテンプレなセリフなのだ。そのセリフを録音してイヤホン付けて何度もリピートして聴きたい。


「分かった。俺、小説書くよ」


 その日から俺は小説を書きまくった。

 小説は好きだけど書いたことは今まで一度もなかった。

 書いて書いて、綴って綴って、書いてはデリートして書いてはデリートして、何度も何度も繰り返した。


 そして、一枚の便箋に物語をまとめた。


 たった千と百三十二字。


 長すぎてもダメ、短すぎても伝わらない。


 この文字数が最適だ。


 そして次の日、放課後の図書室で彼女に自作の小説を渡した。


 その場で開封して彼女は読み始める。


 緊張で手が汗ばんできた。

 

 彼女の視線が左右に動いて文字を追っている。


 あの彼女が活字を読んでいる。


 それだけで俺の心は震えた。


 そして、最後の行を読み終えた彼女がふぅと息を漏らした。


「どう?」


 俺は訊いた。


 視線を伏せた彼女の頬が紅潮していく。

 俺の小説が彼女の胸を打ったのだろうか。


「どうって……、これ、ラブレターじゃん……」


 そう、俺が書いたのは小説風のラブレターだった。


 活字嫌いな少女に小説を読ませるため、ラブレターを書く少年のショートストーリー。


 この物語が告白だと気付いたのであれば、それは最後まで読んだという証拠。


 俺の作戦は見事に成功した。

 彼女に小説を読ませることができた。


「……読まなかったことにする」


 そう言って彼女は便箋をびりびりと破り始めた。


「あっ! なにすんだよ!」


 止める前に破られた便箋は丸められてしまう。

 

 丸められて紙屑になった便箋を彼女は俺に向かって投げつけてきた。


「ちゃんと口で言ってよ、バカ」


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