第83話 学園のトップカーストは相川君を人気者にしたい①
『只今より、第35回文化祭を開催いたします』
アナウンスが流れ文化祭がスタートする。
「それじゃあ、皆所定の配置についてちょうだい」
橘さんがクラスメイトに指示を出してくれる。流石は委員長だけはある。これまでの実績があるので皆彼女の指示を受け入れパパッと移動を開始した。
俺は他人に指示を出すのに慣れていないので、彼女の存在はとても助かる。
「女子は接客で、男子は運搬係。相川君は調理を担当お願いね」
調理室には既に山川さんから買った魚が運ばれている。
驚くことに山川さんは水槽ごと貸してくれたので、完全に生きた状態で魚が泳ぎ回っている。
生きている魚が珍しいのか、調理室にはチラホラと他クラスの生徒がいてドアから入り口からこちらを覗き込んでいた。
「さて、まずはメインのアジあたりいっておくかな?」
タモを取り、アジを1匹掬い上げる。
今回の祭りのメインは定食で、魚を捌く以外の調理は他のクラスメイトに任せてあるので気楽なものだ。
「アジフライといえば特大のボリュームが魅力なんだけど……」
一つの料理で腹を満腹にできないのが文化祭の屋台巡りというやつだろう。
三枚に下ろしたあとはさらに三分割してやる。
このくらい小さいければかぶりつかずに食べられるので助かるとクラスの女子から意見があったからだ。
確かにその通り。これまで俺は自己消費しかしてこなかったので良かったが、今後も渡辺さんと釣りに行くからには凝り固まった頭で調理するのではなく、彼女に配慮した魚の捌き方も考えるべきだ。
そんなことを考えながら捌いていると、いつの間にか目の前のアジを捌き終わっていた。
「すげっ! 一分かかってないぞ?」
「淀みなく包丁を扱ってるしプロみたい」
「包丁捌きに華があるからかな? いつまでも見ていられるよ」
いつの間にか見学人が俺の正面に立っていた。
「えーと……」
「相川だっけ? 魚捌いてどれくらいになるんだ?」
「初めて捌いたのは多分小3のころかな?」
「魚だけじゃなくて料理もできそうだよね?」
「父親がほとんど家にいないから自炊してるよ」
「魚の捌き方って誰に教わったんだ?」
「動画とか見て適当にやってるだけだよ?」
次々に質問が来て戸惑う。文化祭も始まったばかりだというのに、彼らは暇なのだろうか?
「いやー、相沢が面白いもの見られるからっていうから見に来たけど、本当に凄いんだな」
「私の家で寿司パーティーやる時に来て欲しいなー」
「これ見たら食べたくなってきた。教室行って早速注文入れるからな!」
そう言って調理室を出ていってしまう。
「相沢のせいか……」
ピースサインをするあいつの顔が頭に浮かぶ。してやったりというところなのだろう……。
「だけど、まあ……」
思っているよりも好意的な態度に嬉しくなる。
先日、漁師さんに料理を作った時、橘さんも好意的な反応を示してくれたし、今のところ俺を悪様に言ったのはあの二人の男子生徒だけ。
あれにしたって、沢口さんに好意を寄せていたという話なので嫉妬だったのだろう。
「俺、もう隠さなくてもいいのかも?」
高校生活に入ってから、周囲には優しい人たちが溢れている。
すべては釣りが繋いでくれた縁だし、釣りをすることを後ろめたく覚えることにこれまで後ろめたさを覚えていた。
「とにかく、今は任された役割をまっとうしないとな……」
「相川君、あとどれだけいける?」
伝言係の女子が教室で接客しているクラスメイトと連絡を取り合っている。
俺は水槽を見ると、泳いでいるアジの数をざっくり数えた。
(7・8・9……)
「アジ定食あと7で終わりでっ!」
「了解!」
彼女は俺に返事をするとスマホに向かい発する。
「あと、7だってさっ!」
『えええええええええええええええええ』
スピーカーモードになっていたのか、発信先からガッカリした声が上がる。
『まだ昼を少し過ぎただけじゃん』
『ここの定食楽しみにしてきたのにっ!』
『明日は開店と同時に来てやる!』
山川さんにはアジ50匹お願いしていたのだが、開店してすぐに注文が途切れなくなり、昼を過ぎてあっという間に品切れになってしまった。
「裁き終わったけど……?」
7つの注文を受け終え見るとアジが一匹だけ余った。
泳ぐアジを数えるのが大変だったのでどうやらカウントし間違えたらしい。
もっとも、多く間違えるとそっちの方が最悪なので仕方ないと言えるだろう。
この一匹は寂しいだろうが明日まで水槽で泳いでいてもらうことにしよう。
「お疲れ、相川」
「そっちこそお疲れ、相沢」
店を閉めたのか、男子がドヤドヤと入ってくる。
全員運搬係をしていたので、調理の最中何度も見た顔ぶれだ。
「いや、いい訓練になったわ」
「お盆を持って教室まで向かうのかなり大変だったもんなー」
「人が多いしこぼしたら大惨事になるし急がないといけないし」
話を聞く限り絶対無理そうな役割なので、俺は調理室から出なくて済んでホッとする。
「あれ、一匹泳いでるじゃん?」
「ああ、数え間違いだね。これは明日に回すとするよ」
クラスメイトにそう説明をすると……。
「それだと鮮度が落ちるだろ? こいつ、今から食わねえ?」
相沢がニヤリと悪巧みを始めた。
「いや、そもそもクラスで購入してる魚だし、鮮度というのならフライにすれば一日くらいじゃそう変わらないんだけど?」
普段お前が食っているアジフライは俺が釣って二日は経っているんだぞ?
そう視線を送るのだが……。
「相沢、何か悪いこと企んでる顔してるぜ?」
クラスメイトの男子が相沢の顔を見てそう言った。
「わかるか?」
相沢はスマホを取り出すと、誰ぞに連絡を入れる。そして交渉をまとめると俺に提案をしてくるのだった。
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