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【コミカライズ企画進行中】学園のマドンナの渡辺さんが、なぜか毎週予定を聞いてくる  作者: まるせい
三章

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第74話 学園のマドンナは豪華客船を見送る

 風が潮の匂いを運んできて、上空ではカモメが飛んでいる。

 周囲には観光客が溢れかえっており、中には新婚や俺たちくらいの高校生の姿も見える。


 ここは横浜の赤レンガ倉庫で、週末の土曜日に俺たちはこの場を訪れていた。


「わぁ、凄いですね」


 俺の隣に立つ渡辺さんは、目の前に浮かんでいる豪華客船を見てそんな感想を言う。

 今日の彼女の格好は、白のセーターに赤のロングスカートというオシャレな着こなしをしている。


 先日の議論ではないが、誰が何を着るかがファッションにおいて大事とのことだが、彼女に関しては何を着ても似合うので、渡辺さんこそがファッションの最先端なのではないかと結論に至る。


「あれで世界一周旅行するなんて凄いよな」


 ちょうど、豪華客船が出航するのか、見送り客との間のテープが伸びている。

 乗っている客はこれから100日かけて世界中を旅し、またこの場所に戻ってくるとのこと。

 費用もかなりかかるので、暇と金に余裕がある人間でなければ利用できないのだが、俺の父親と同じくらいの歳の人もちらほら見える。


 事業に成功した実業家か何かなんだろうか?


 いずれにしても羨ましいのだが、その金があれば一体どれだけの釣り道具を揃えられるのか、などと考える俺には無縁の話だろう。


「相川君は、どこの国に行ってみたいですか?」


 そんなことを考えていると、豪華客船に感動していた渡辺さんが話し掛けてきた。

 目をキラキラと輝かせ外国に想いを馳せている。

 渡辺さんはわりと新しいことを体験するのが好きなので、海外旅行向きなのだろう。


 本人の容姿や立ち居振る舞いも合わせて考えると豪華客船が非常に似合っていそうだ。


「……そうだな?」


 そんな彼女に向かって「釣具買った方が楽しめる」と考えていたのを言うわけにもいかず、どう答えるか思案してみる。


「俺はパラオとか行ってみたいな」


 ハワイと答えようかと思ったが、いかにもな答え過ぎてがっかりされたくない。

 彼女はそんなことでがっかりしないと思うのだが、男の意地というやつだ。


「パラオって、ダイビングで有名なですか?」


「そうそう」


「てっきり相川君のことだから、釣りに関する国を選ぶと思っていました」


 ところが、彼女は思っているよりも俺の思考を理解している様子。いや、俺が単純なだけか?


「海外だと釣りをしても捌けないかもしれないから。それなら普段できない貴重な体験をしておきたいかなって」


 釣って食べるまでが楽しいのに、大物を釣り上げても調理できないとなると楽しみも半減。それどころか食べられないことに不満を抱くことになりかねない。


 それくらいなら釣りをしない方がいい。


「その点ダイビングなら、直接魚の挙動を見ることができるから、釣りにも活かせるんじゃないかと思うんだ!」


 そうすればルアーの動かし方や魚へのアピールの仕方もわかるようになってより釣れるようになるかもしれない。俺がそう力説すると……。


「なるほど、結局のところ釣りのためじゃないですか!」


 渡辺さんは額に手を当てると溜息を吐いた。


「渡辺さんならどこの国を見て回りたいの?」


 結局呆れられてしまったので、俺はコホンと咳払いをした後聞いてみる。


「私ならそうですね、アイスランドとか?」


「ん? どうして?」


 彼女はオシャレな格好をすることも多く、買い物もわりと好きなようなので欧州の国を選ぶのかと勝手に思っていた。


「子供のころに父の友人が旅をした話を聞かせて下さったことがあって、オーロラに憧れがあるんです」


 渡辺さんはスマホを操作すると画面を見せてくる。

 そこにはオーロラについて書かれていた。


「ああ、確かに一度くらいは見てみたいかも」


 自然現象の中でもっとも美しいとされる光景は人生が終わるまでに一度は見ておきたい。


「いいね、アイスランド。俺も行きたくなってきたよ」


 そうこうしている間に、豪華客船の姿が見えなくなり、見送りの人間もまばらに立ち去っていく。


「そろそろすいてきたみたいだし、移動しようか?」


 そもそも、俺たちの目的は豪華客船ではなく、たまたまこの場に居合わせただけ。本当の目的は他に用意しているのだ。


 ところが、彼女は俺の服を摘むと、上目遣いに言ってきた。


「だったら、いつか一緒にオーロラを見に行きませんか?」


 頬を赤く染め彼女は問いかけてくる。


「それって……」


 彼女がどう言う意味で言ったのか知りたく顔を覗き込むと、渡辺さんは俺から目を逸らしてしまった。


「ど……どうなんですか?」


「まあ……俺でよければ」


「勿論です! 相川君と一緒がいいんですっ!」


 返事をすると、彼女は至近距離まで顔を近付けると返事をした。


 顔が近く後少し動かせば唇が触れ合ってしまいそうだ。


「……っ!?」


 どちらかが下がらなければいけないのだが、驚いた渡辺さんも固まってしまい大きく目を見開いたままとなっている。


 しばらくの間、二人して固まっていたのだが……。


 ーーボーーーッ!ーー


 汽笛が聞こえると俺たちは弾かれるように離れた。


「そ、そろそろ良い時間なので移動しましょうか?」


「そ、そうだね」


 二人横に並んで赤レンガを歩来始める。

 しばらくして左手に何かが触れる感触がしたかと思うと渡辺さんが手を繋いできていた。


「えへ、繋いじゃいました」


 学園や地元の駅では知り合いに目撃されるかもしれないのであまり触れ合うことができない。


 流石にこれだけ人が多い場所ならば問題ないと判断したようだ。


 それから十数分掛けた俺たちは『中華街』の門をくぐるのだった。

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