第73話 学園のトップカーストは昼食を摂る
秋も深まり肌寒い季節がやってくる。
冬場は水温も下がるので、魚の動きが鈍る。
釣れる魚の数も減り、アングラー(釣り人)にはまことに厳しい世界とも言えよう。
木枯らしを肌で浴びながら俺はそんなことを考えていた。
「だからさぁ、これからの時代は雑誌なんかじゃなくてSNSで流行をーー」
「でもそれだと、情報に偏りが出るから、本当に流行ってるかどうかわからないじゃん」
目の前では沢口さんが石川さんとファッションについて議論をしている。
二人の私服姿を何度か見たことがあるのだが、お洒落の方向性が違っているからかどちらも譲る様子がない。
「結局のところ、本人に似合ってるかどうかも大事だろ?」
そんな議論を不毛に思ったのか相沢が割って入った。
「だから、それも含めてSNSで情報を収集するんだって。自分の体型雰囲気があった相手の服装から気になるピースを組み合わせ直す」
「他の子が着ている服から独自性を出せれば流行の最先端を生み出せるよね」
何やら高度なやり取りに驚く。
沢口さんは実際に雑誌の読者モデルもやっているので説得力がある。
「相川君ももっと話に混ざりましょう」
隣に座った渡辺さんがもっと積極的に入ってくるように言うのだが、それは難しい。
「そうだよ、相川っち。さっきからずっと黙り込んでるじゃん」
石川さんと議論をしていた割には冷静にこちらを見ているものだなと感心する。
「多分、釣りのことを考えてたんじゃない?」
石川さんが正解なのだが……。
「いや、やっぱり慣れないなと思って」
俺は素直にそう呟いた。
「とはいえ、ずっとこのままってわけにも行かないんだから慣れるしかないだろ?」
相沢がそう告げる。
現在は昼休み。俺たち五人は中庭で昼食を摂っている最中だ。
今年の春、入学したばかりのころ、教室の窓から外を覗くと中庭でこのメンバーが食事をしている姿を目撃していた。
あれから半年近くが過ぎて自分がここにいることになるとは思いもしなかった。
「いつまでも美沙に我慢させるのは駄目なんだからね?」
沢口さんがそう俺を嗜める。
なぜ俺がこんな目立つメンバーと一緒に昼食を摂っているのかというと、学園内に少しずつ下地を作っていくためだ。
よく知りもしない男子がいきなり渡辺さんと付き合い始めたとなった場合、周囲の感情はあまりよろしくない。
だが、事前に交友を持っている姿を周囲に見せることで、いざ交際が発覚した時の敵意を向ける人物を減らすのが目的だ。
「わかってる。でも、やっぱり周囲の視線は気になるぞ」
とはいえ、今も教室の窓からは男子がこちらを観察しているし、女子たちもヒソヒソと噂話をしている。
「大丈夫だって。相川っち随分格好良くなってるし」
「流石は俺がプロデュースしただけはあるよな」
相沢にワックスの付け方を教わったのだが、そこまで誇らしげに言われても自分にはよくわからない。
「私としては、相川君が格好いいことは知っているので独り占めしたいのですが
……」
渡辺さんは不満げな様子で俺を見ていた。彼女は俺の前だと子どもっぽい様子を見せてくれる。それがとても可愛い。
「ごめん、渡辺さん。ここでは勘弁して欲しい」
二人きりの時はわりとよくこの手の言葉を告げてくる彼女だが、流石に皆の前では勘弁して欲しい。
相沢や沢口さんに石川さんがニヤニヤした笑みを浮かべており、肝心の渡辺さんはそのことに気付いていないようで首を傾げている。
そうこうしている間に予鈴がなった。
「あっ、もうこんな時間か。授業嫌だなぁ」
昼休み終了ということで全員テキパキと弁当を片付ける。
俺たちが移動する間、周囲の生徒がこちらの様子をうかがっている。
相沢や沢口さんの提案通りに一緒にいるのだが、俺がなぜこのメンバーに加わっているのか想像しているらしい。
しばらくして、教室が近付いてきたところで渡辺さんが三人から離れ俺の近くまでくる。
「相川君、今週末の予定ってどうなってますか?」
わざわざここで聞かずとも、後でLINEなりすれば良いのだが、秘密の会話をしたかったらしく彼女はいたずらな笑みを浮かべていた。
「今週末はーー」
そんなお茶目な様子を見せる彼女に苦笑いを向けると、俺は週末の予定を彼女に告げるのだった。




