第70話 学園のトップカーストは相川家を訪れる
「ほー、ここが相川の家か?」
「あまりジロジロ見るなよ」
キョロキョロと周りをみまわす相沢に注意する。
「ねえねえ、相川っちの部屋は二階? 見たいんだけど!」
「どうして許可を出すと思ったの、沢口さん?」
目を輝かせる沢口さんを牽制する。
「父親と二人暮らしというからもっと汚れてるかと思ったけど、家より全然綺麗じゃん」
「父親がほとんど家にいないから、あまり汚さないしね」
石川さんが床や棚などの埃について細かくチェックをした。
実際のところ、渡辺さんが来ることもあってか掃除をしているというのもある。
「…………」
渡辺さんは余計なことを言わないつもりなのか、家に入ってから一言も口を開いていなかった。
「それじゃあ、俺はこれから料理するけど、それまで適当にすごしてくれる?」
本来は釣りを終えた後、各々が釣った魚を持ち帰り家庭で料理するつもりでいた。
だが、皆揃って「相川の料理が食べたくて釣ったんだから最後まで面倒見ろ」と言い出したので、俺の家に集まることになった。
こちらとしても目的をまだ果たしていないので、この延長は嬉しかったりする。
渡辺さんと目が合うと、彼女はコクリと頷いてみせた。
「私まだ眠いから相川っちのベッド借りたいなー」
「そんなこと言って、帰りの電車で寝てたでしょ?」
あくまで部屋狙いをする沢口さんを牽制する。
「駄目ですよ、真帆さん」
そこで渡辺さんが初めて口を開いた。
「突然押しかけた上に相川君のプライベート空間にまで上がり込むなんて」
「うーん、確かに相川っちも男子だもんね〜?」
「そこで俺に話を振るのやめて欲しんだけど?」
口元に手を当て理解者面をする沢口さん。同意できない言葉を投げかけてくるのは勘弁して欲しい。
相沢と石川さんが棚にある本を何気なく手に取っているのを見ると、俺はその場を皆に任せて台所へと入っていくのだった。
★
「それにしても、相川っちの料理楽しみだよね」
昼間に刺身定食や活きイカの刺身を食べたのだが、本日の消費カロリーが上回っているのか夕方を回ったからかお腹が空いている。
私はリビングのソファーに腰を下ろすとワクワクしながら待っていた。
里穂と美沙が楽しそうに話す間、私は相沢と一緒にゲームをしている。誘われて始めたゲームだけど今日一日釣りをしていたのでまだやっていなかったからだ。
ゲームをする傍ら、画面から目を離せるタイミングで台所を見る。
台所ではエプロンを身につけた相川っちが料理をしていた。
手際がよく、無駄のない動きで次々に料理を作っていく相川っち。
おそらく日頃から料理をしていて慣れているのだろう。
「どうした、真帆?」
そんな相川っちの姿を見ていると、相沢が話し掛けてきた。
「どうしよ、相沢。私、エプロンフェチかもしれない!」
家庭実習の授業の時にも見たのだが、相川っちのエプロン姿から目が離せなくなる。
これまで私の周りに集まるのは、以前告白してきた者を含め軽いノリの男子が多かった。
そんな中、一見平凡に見えるけど家庭的で包容力がある相川っちは付き合ってみると妙に話しやすい相手だったのだ。
「うん? とりあえずいきなり性癖を暴露するのはやめた方がいいな?」
ところが相沢はわかってくれず、首を傾げる。
「相川っちのエプロン姿って、妙に似合ってるなと思って」
「そりゃ、相川は普段から料理してるからな」
言いたいことが伝わらずモヤモヤする。
「何のお話ですか?」
すると、美沙が会話に入ってきた。
「相川っちのエプロン姿ってどう思う?」
美沙に聞いても仕方ないかと思うのだが聞いてみる。
「そうですね、シンプルな無地のエプロンを選んでいるのが非常に相川君らしいと思いますが、清潔感がありますし何よりエプロンが体にフィットしていて動きを阻害しないのが良いです。相川君の料理技術は家庭の範疇を超えてますけど使い慣れたエプロンと台所を使うことでその技術は何倍にも生かされ……」
「急に語りだしたし!?」
普段の美沙らしからぬ超絶早口にドン引きしていると……。
「相川の料理姿って確かに見ていて楽しいよね」
里穂がそんなことを言い出した。
「さっきから、聞こえてるんだけど?」
相川っちが気まずそうに声を上げる。
それはそうだ、台所とリビングは目と鼻の先なのだから。
「それより、そろそろ料理が出来上がるから食べる準備をしておいて」
その言葉とほぼ同じくして炊飯器の炊き上がるメロディが流れる。
コマーシャルで流れている「炎舞炊き」ができると噂の炊飯器だ。相川っちは釣りをするので、白米にもこだわりがあるのだろう。
美沙は台所に入ると、棚からしゃもじを取り出し炊飯器を開けて中身をかき混ぜた。
「んんっ?」
「ありがとう、渡辺さん」
「いえ、このくらいは手伝わせていただかないと」
二人は笑顔で会話をする。
最初はキョドキョドしていた相川っちだが、このメンバーに慣れてきたのか自然に笑うようになっている。
「どうした、真帆?」
そんな二人を見ていると、相沢が声を掛けてきた。
「んー、何か引っかかるというか?」
違和感を覚えたけどそれが何なのかまではわからない。
そうこうしている間に、美沙と里穂が手伝いを始める。
里穂はテーブルを雑巾で拭き、美沙は食器を取り出して並べていく。
「俺たちも手伝ったほうが良くないか?」
「だねっ!」
流石にまったく働かずに料理にありつくのはバツが悪い。
私と相沢は残り少ない仕事を取り合うのだった。




