第69話 学園のトップカーストは活きイカを食べる
「うわっ! 足下がふわふわするよっ!」
撤収を終え、港に戻ってきた俺たちは地に足をつけた。
「なんつーか、さっきまでの不安定な感じが安定してただけに違和感を覚えるな」
「逆にこっちの方が気持ち悪いかも?」
相沢と石川さんがそんな意見を口にする。
「この後、魚を処理してくれるんですよね?」
釣り上げた魚は船の水槽で泳がせていたのだが、釣り船のサービスでエラと内蔵の除去などある程度の処理をしてくれることになっている。
「しかし、待っている間どうする?」
「昼時だしどっか食事でもいく? あっ、でも真帆は……?」
「一杯運動したからバッチリお腹空いてるよ!」
三人がそんなことを話している。
「相川君、どうしますか?」
渡辺さんの質問に、俺は答える。
「実は、昼食にちょうどいい店があるんだけど……」
俺は皆に提案をするのだった。
「ここが、相川が勧める店なのか?」
「港から近いしいい感じだね?」
「2階から外が見えるしロケーションも悪くないわね」
店に着くと、三人はキョロキョロと周囲を見回す。
案内されたのは六人掛けのせきなのだが、窓から港が一望できるのだ。
「相川君、ここはどういうお店なんですか?」
渡辺さんが質問をしてきた。
「ここは、活きイカを出してくれる店なんだよ」
「「「「活きイカ?」」」」
ピンとこないのか、全員が首を傾げた。
「ただのイカじゃないぞ、活きイカの刺身だよ」
俺はそんな四人に対して熱弁を振い始める。
「この店は漁港で唯一イカのための生簀を持っている店で、生きた状態のイカをその場で捌いて提供してくれるんだ。イカは鮮度が命だからね、活きイカを一度体験してしまうと二度と普通のイカ刺しは食べられないという人もいるくらいだよ」
「へぇ、相川っちがそんなに語るくらい美味しいんだ?」
「凄く期待しちゃいますね」
「流石相川だ。いい店を知ってるな」
「聞いてたらお腹空いてきたんだけど」
朝から釣りをして空腹だったからか、四人は期待に満ちた表情を浮かべている。
「取り敢えず、活きイカを頼むとして、後はそれぞれ何か一品頼めばいいだろう?」
そんなわけで、それぞれ刺身定食やミックスフライ定食などを注文した。
「それにしても、本当に釣りが楽しかったー」
「初めは餌をつけるのも抵抗あったけど、実際に釣れ始めると気にならなくなったわよね」
待っている間、今日の釣りの話で盛り上がる。
「美沙は随分と動きが様になってたわよね?」
「ええ、家で動画を見て学習していましたので」
渡辺さんはニッコリと笑うとそんなことを口にする。
一度体験したからというのもあるのだが、実際に釣った後だからこそ動画を見ることで自分の釣り方を修正したような感じだ。
後ろで見ていた限り、以前より明らかに上達していた。
「この店はアジフライも美味いのか? 普段相川のフライを食ってる俺が満足できるんだろうな?」
「そこは問題ないと思うぞ。揚げたてというだけでアドバンテージがあるし、アジも生簀から取って捌いてるからな」
一方、相沢の方はというと食事に興味津々の様子。
俺たちがそんな楽しい会話を繰り広げていると、店員さんが料理を運んでくる。
盆に乗せられた料理はどれも美味しそうだ。
五種類の刺身が入った刺身定食。
「こちらの刺身は左から順番に、真鯛・サワラ・マンボウ・ブリ・アジになります」
「へぇ〜。これが真鯛!! 私も釣った!」
店員さんにそう話し掛ける沢口さん。
「おめでとうございます。この時期に真鯛を釣り上げる御客さんはそんなに多くないんですよ」
店員さんは笑顔で沢口さんに話し掛けた。
続けて、一旦引っ込んだかと思うと次はミックスフライ定食を運んでくる。
「こちらはカマスとアジのフライになります」
「相川、カマスってなんだ?」
「秋から春までの寒い時期に釣れる胴長の魚だよ。皮ぎしの脂が美味いから、バーナーで炙った刺身とか絶品だぞ?」
相沢の質問に答える。
「へぇ、珍しい。とりあえず食おうぜ」
全員分運ばれてきたので、箸を持ち同時に食べる。
「うまっ!」
「本当に美味しいっ!」
「刺身が新鮮で嫌な味が一切なくて」
「噛み締めるとプリッとした感触と身の甘みが広がります」
四人はそれぞれ料理の感想を口にする。
「ありがとうございます。そこの漁港市場から直接仕入れているので、どこよりも新鮮なんですよ?」
気を良くした店員さんが笑顔で答えた。
「こちらが活きイカの刺身になります」
テーブルの真ん中に大皿が置かれる。
「「「「おおおおおおおおっ!!」」」」
四人はテーブルから顔を乗り出すと感激した声を上げた。
「凄い、透き通っていて笹の葉が透けて見えるよ!」
「イカ一匹丸々開いてきったんだ? 凄く綺麗だよね」
「これは流石にテンションが上がるな。こんなのここでしか食べられないんだろ?」
三人はスマホを構えると撮影会を始めた。
「見ているだけで楽しくなりそうです」
渡辺さんも興味を持っている様子。
「さあ、食べてみよう」
この船釣りをすると決めた時からできればこれを味わいたいと思っていた。
皆、箸を伸ばすとイカの刺身を取り口に入れる。
「「「「んっ!」」」」
一斉に笑顔が浮かんだ。
「程よい弾力と噛むほどにイカの甘みが口の中に広がるよ」
「これがイカ刺しだとしたら、これまで家で食ってきたのはなんだったんだ?」
「今日一番美味しかも!」
「上品な味わいです!」
次々と箸を伸ばしながら夢中でイカ刺しを食べる。あっという間に皿は空っぽになってしまった。
「恨むよ、相川っち」
「もう普通のイカ刺し食べれないじゃん」
「これを食べるためだけにでもまた来たいです」
女性陣三人の言葉に苦笑いをする。
「そういえば、イカは釣れないのか?」
「ん? 今の時期なら割と釣れると思うよ?」
相沢の質問に答える。
春と秋はイカ釣りのシーズンだ。場所によっては解禁日が決まっていたりするのだが、解禁日を過ぎると地元の人たちが連日夜な夜なイカを釣っていたりする。
翌日堤防を訪れると墨の跡が残されているのだ。
「私たちもイカ釣りしようよっ!!!」
話を聞いていた沢口さんがテーブルに手を突き乗り出してきた。
「うーん、イカは日中でも釣れなくなないけどメインは夜か早朝なんだよね」
夜中に接岸して餌を食べ朝方に沖に引き上げていく。
「流石に夜中となると門限があるからな……」
高校生の身分では不可能だ。交通機関も途中で終わってしまうだろうし……。
「ううう、でも、釣って食べてみたいよぉ」
沢口さんは諦め切れないのか、悔しそうに訴えかけてきた。
「来年になったら免許も取れるようになるし、大学生になってからの楽しみにするのもありじゃね?」
相沢はそんな提案を口にする。
「そんな未来の話までするのか?」
俺が驚いて見せると……。
「この先何があっても、今日のことは忘れないだろ? またこうやって集まろうぜ?」
相沢は皆にそう笑い掛けた。
「そうだね! 私たちの友情は永遠だよ!」
「真帆。イカにつられた友情に見えるんだけど?」
「あははは、こうして何年後も皆で過ごせるといいですよね」
皆が笑いあう。
その後、時間いっぱいまで楽しむと、俺たちは店を後にするのだった。




