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【コミカライズ企画進行中】学園のマドンナの渡辺さんが、なぜか毎週予定を聞いてくる  作者: まるせい
二章

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第67話 沢口さんはカワハギを釣りたい

 沢口さんとともに相沢たちの下に合流する。


「お、真帆。やっと来たか!」


「遅いよ、真帆。もう十匹は釣ったからね!」


 相沢と石川さんは明るい表情で自分たちの釣果を報告していた。


「真帆さんの容態は大丈夫なのですか?」


 渡辺さんは心配そうな表情を浮かべると、沢口さんの状態を聞いてくる。


「まだ船酔いが残っているみたいだけど、釣りをしてればよくなることもあるから」


 このまま最後までグッタリしているよりは、気を紛らわした方が良いだろう。


「沢口さんには俺が教えるから、渡辺さんは引き続き二人の面倒を見てくれる?」


「はい、相川君から教わったことをきちんと伝えるようにしますね」


 彼女はそう快諾してくれた。


「沢口さん。そろそろこっちに来て!」


 竿の準備を終えると彼女を呼ぶ。


「うん、わかったよ!」


 沢口さんが近付くと、俺は彼女に竿を渡した。


「餌は付けてあるから、今から釣り方を教えるね」


「釣り餌って気持ち悪い虫じゃないんだね?」


 針についているアサリを見て彼女は疑問を口にする。


「勿論イソメとかでも釣れるけど、カワハギはアサリでも釣れるから」


 釣果に違いはあるが、アサリでも十分釣れるのでその日の具合に応じて使い分けるのが望ましいとされている。


「本当は餌の付け方から教えるべきだろうけど、今日は俺が全部つけるから」


 そのためのマンツーマンだ。せっかくの船釣りなので絶対に沢口さんにもカワハギを釣らせて見せる。


「ありがとね。相川っち」


 彼女は嬉しそうに御礼を言った。


「まずはこうやって、ベールを立てて糸を出して、着底まで出す」


 実際に目の前でやってみせる。


「着底すると糸が出なくなるから、即座にベールを倒してこう!」


 フェザリングという無駄な糸を出さない方法をとっているので、即座に竿を上げ、ゼロテンションの状態を作る。


 カワハギは餌取り名人と言われているので、この動作ひとつで釣果に差が出るのだ。


「おお、かっこいい!」


 とはいえ、ここまで細かい技術を初心者に教えるとテンパってしまうので、最初は伝えない。


「後は竿先に意識を集中して……今っ!」


 竿を上げると、確かな重みが伝わってきた。


「掛かったよ」


「えっ!? もうっ!?」


「カワハギは餌が落ちてくる段階で追いかけてくるからね。最初に食わせないのが第一で、その直後にアサリを加えた瞬間を狙うのがセオリーなんだ」


 最も、微細なあたりを取るには経験が必要なのだが……。


 リールを巻き、魚が姿を現す。

 20センチを超えるそこそこのサイズのカワハギだ。


「と、こんな感じかな?」


「凄い! プロじゃん!」


 釣ったカワハギを見せると、沢口さんは感心したように手をパチパチと叩いた。


「さあ、次は沢口さんやってみて」


「う、うん!」


 彼女は緊張すると、俺と同じように釣りを始める。

 ぎこちない動きでベールを起こし、糸を出し続ける。


「着底したからベールを倒して糸ふけをとって竿を上げて」


「はいっ!」


 授業を受けている時以上に真剣な態度で望む沢口さん。


「何度か海底をトントンと叩いて動きを止める。竿先が下がったり、何か違和感を覚えたら竿を上げてみて」


 カワハギのあたりは微細なので伝える方法がない。

 なので、最もオーソドックスなやり方をやってもらう。


「うん? 何の反応もないかも?」


 1分程やってみるが、彼女は首を傾げた。


「多分もう餌を取られてるね。引き上げてみて」


 仕掛けを回収したところ、アサリが全部取られていた。


「やっぱりね、カワハギは餌取るのが上手いから」


「タダで餌だけ盗って行くなんて泥棒だよ!」


 彼女が憤慨している間に俺は新たにアサリを付け直した。


「でも悲観することはない。兆候も無しに餌が盗られているというのはカワハギがいる証拠。後は何度もやってれば掛かると思うよ」


 最悪なのはその場にターゲット魚種がいないことなのだ。

 いる時点で希望しかない。


「ありがとう。変なところがあったらどんどん指摘してね!」


「着底からの引き上げをもっと早くした方がいい。多分美味しいワタの部分を取られてるんだよ」


 結果、カワハギ以外の魚にアサリを食われている可能性もある。


「わかった!」


 何度か餌を付け替えていると……。


「つ、釣れたっ!」


「落ち着いて、一定の速度でリールを巻いて!」


 とうとう沢口さんにもヒットが出た。

 相沢たちもこちらを気にしていたのか集まってくる。


「くっ、このぉ。これ大物だよっ!」


 腕をプルプルさせながら釣り上げたのは、


「これ、カワハギじゃないよね?」


「うん、クサフグだね」


 釣り上がったのは丸々としたクサフグだった。

 艦板でビチビチと跳ねて水を吐き出している。


「これはこれで可愛いよね? 家で飼えるかなぁ?」


「海水がないと死んじゃうからやめておいたほうがいいと思いますよ?」


 沢口さんの言葉に渡辺さんがそう言葉を返す。


「初、魚おめでとう」


「よかったじゃん、真帆」


「私もカワハギが釣りたい!」


 仲良く話す三人。どうやら沢口さんの酔いも治ってきたようだ。


「さあさあ、沢口さん。仕掛け用意できたからどんどん投げて!」


 クサフグの針を外してやり、アサリを付け直す。

 午前中で引き上げることになっているので、あと一時間もないのだ。


「よーし、任せてよ!」


 隣に立ち、沢口さんに細かく指導をしていく。

 段々慣れてきたのか、フェザリングも形になり始めた。


「ん! これはっ!?」


 十分程が経ち、これまでにない感触を彼女は捉える。


「んんんっ!?」


「どうした?」


「なんか……すっごく重たい!」


 竿が曲がっている。明らかにカワハギではない。


「大物が掛かっているぞ!」


 糸が船から離れるようにピンと伸び「ジジジ」とドラグから糸が出る音が聞こえる。


「相川っち! 海にひっぱられるぅ!」


 焦り声を上げる沢口さん。


「焦らずに竿を立てて、魚が疲れるまで耐えるんだ!」


 この時点で、俺は何が掛かったか大体わかっているのだが彼女には釣り上げるまで期待してもらおう。


「ん、わかった……」


「おいおい、釣れたのか?」


 相沢や石川さんに渡辺さんも集まってくる。


「頑張れ!」


「頑張って、真帆さん!」


 二人の応援に、沢口さんはキツそうながらも笑顔を返した。


「このっ! 抵抗するなあああああああっ!」


 必死に魚とファイトをする沢口さん。

 徐々にではあるが、魚が海底から浮き上がってくる。


 そのファイトを見ると俺まで緊張してくる。


 どうか、バレませんように……。


 ハラハラと見守っていると、とうとう海面に魚が姿を現した。


「でかっ!?」


 白い腹と桃色の身体が陽の光を反射している。


「そのままの状態をキープして!竿は絶対下げないで!」


 俺はタモを伸ばすと、沢口さんが釣った魚を網に取り込んだ。


「よしっ! 入った!」


「や、やったああああああっ!」


 タモを手繰り寄せ艦板に下ろすとそこには50センチを越す真鯛がいた。


「天然物の真鯛だよ」


「これを、私が釣ったんだ!」


 額に汗を流し息を切らしながら真鯛を見る沢口さん。

 その表情は達成感に満ちており、とても嬉しそうだった。


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