第63話 学園のマドンナは通話したい
『なるほど、それで真帆さんからメッセージがきたんですか』
夜になり、俺はその日沢口さんと話した内容についてテレビ通話をしていた。
スマホの画面には風呂上がりの渡辺さんの姿が映っている。
可愛らしいパジャマに身を包んでいるのだが、そのあまりの可愛さにこちらはついつい彼女の仕草に目を奪われてしまいそうになった。
「うん、そろそろ秋シーズンも終わるし、ここらで皆で釣りをしたいって彼女が言い出したんだよ」
話の内容は、今度の連休でどこかに釣りに行きたいというもので、グループメッセージでは既に皆の承認を得て盛り上がりを見せている。
『どこか、良さそうな候補はあるんですか?』
釣り場の選定については俺に一存しているので、彼女はそう質問をしてきた。
「渡辺さんは二度目になっちゃうけど、この前も行った堤防にしようかと思っているんだ。最近、カツオが揚がってるって釣果報告があがってるからさ」
『私は別にどこでも大丈夫ですよ? 相川くんと一緒に釣りができれば満足なので』
顔を赤く染めながらも、素直に気持ちをぶつけてきてくれる彼女に俺まで照れてしまう。
とりあえず場所の選択は終わったので、後は当日晴れるのを祈るだけ。そんなことを考えていると、渡辺さんの表情が曇っていることに気付いた。
「もしかして、何か不満があった?」
やはり同じ場所で同じ釣りというのは飽きてしまったのだろうか?
俺は彼女がそのような表情をした原因について考えるのだが……。
『私も相川くんが格好いい姿をしているの見たかったです』
「ああ、そっちか……」
話が先程の沢口さんとした行動に戻っていた。
読者モデルの撮影に巻き込まれ、もらった優待券で服を買った。その際に散々写真を撮られたことを愚痴ったのだが、本人はそれが引っかかっていたようだ。
『私は相川くんの彼女なのに、真帆さんばかりずるいです!』
彼女はクッションをギュッと潰すと拗ねていた。
そんな風に、俺に不満を漏らしむくれる彼女も可愛いのだが、このまま機嫌を損ねさせるわけにもいかない。
「じゃあ、今度一緒に服を買いに行こう」
彼女の不満はよく理解している。この提案をすれば機嫌を直してくれるし、デートの約束を取り付けることができる。そう考えていたのだが……。
『それはそれで確かに嬉しいです。でも、私は今回相川くんが着た服も見てみたいです』
ふと、彼女は名案とばかりに言い出した。
『そうです! 真帆さんからもらえばいいじゃないですか!』
確かに、彼女のスマホには俺の着せ替え写真が入っている。
「それ、素直に言ったら怪しまれるんじゃない?」
だけど、なぜ渡辺さんが俺の写真を欲しがるかについて説明しなければ納得しないだろう。
渡辺さんは真剣な表情を浮かべると俺に切り出した。
『そのことについてなんですけど、そろそろ私たちが付き合っていることを里穂さんや真帆さん、相沢君にいいませんか?』
その提案に、一瞬心臓の鼓動が揺れる。
『花火大会からもう二ヶ月半経ちますし、これだけ時間が経てば気まずくないと思うんですよ』
「確かに……」
石川さんも相沢と普通に会話をしているし、今なら切り出すことも可能だろう。
『私と付き合っていることを公表したら、相川君に学園生活で不自由をかけてしまうことは理解しています』
学園のアイドルと付き合っていると周囲に知られると要らぬやっかみの視線を向けられることになるだろう。
それこそ、この前の調理実習の時のように男どもから嫉妬の視線を向けられかねない。
『ですが、三人なら私たちが付き合ってることを秘密にしてくれると思うんです』
「確かに、あの三人なら黙っててくれるだろうな」
渡辺さんの親友だし、相沢だって信用できる。
「うん、そうだな。今度の釣りの時に話してみよう」
内心では懸念事項が存在している。
相沢の好きな相手が渡辺さんの可能性が高いからだ。
正直、素直に打ち明けるタイミングがなかったとは言い難いのだが、相沢と俺の関係が終わってしまうことをおそれ、ここまで言い出せなかった。
だけど、いずれは話さなければならないことだった。
覚悟を決めようと思う。
俺が真剣に考えていると、渡辺さんと目があっていたようで恥ずかしそうに目を逸らされた。
『本当はですね……』
「うん?」
渡辺さんは口元を隠すと上目遣いに俺を見てくる。瞳が潤んでおりあまりの可愛さに目が離せなくなってしまった。
『相川くんと付き合ってることを世界中の人に自慢したいくらいなんです!』
「そ、そうなんだ……」
先程までの不安が吹き飛び、顔が熱くなる。渡辺さんの顔も真っ赤だが俺も負けていないくらい赤いに違いない。
「その辺については、俺も努力するからおいおいね?」
『えへ、約束ですよ?』
俺の返答にはにかむように笑う渡辺さん。
俺はすべての問題を片付けなければいけないと心の中で強く思うのだった。




