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【コミカライズ企画進行中】学園のマドンナの渡辺さんが、なぜか毎週予定を聞いてくる  作者: まるせい
一章

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第5話 学園のマドンナは勉強する

 適度に気温が保たれていてそこそこのテーブルがたくさん並んでいる。

 周りを見れば高校生や中学生、スーツ姿のサラリーマンがノートパソコンを広げ何やら仕事をしている。


 5月の連休が明けてから一週間程が経ち、だらけた空気も平常に戻り俺たちも学生としての本分に勤しんでいた。


 四人掛けのテーブルには現在俺と、向かいには相沢が座っている。

 それぞれ、数学の教科書とノートを広げて勉強中だ。


 ここは大型商業施設のフードコートということもあり、電源が確保できて飲食物も手に入ることから、俺たちは長居する目的で席を確保していた。


「相川、すまん。この問題の答えこれであってる?」


 頭を掻きむしりこれ以上の思考を放棄したのか、相沢がノートを差し出す。

 ノートには書きなぐったように公式が書かれているのだが、途中間違えている部分を発見する。


「違ってるな、ここの式がおかしいし、その後の……多分ここも違う式になってる。公式が混ざってるんじゃないか?」


「ああっ! 本当だ!」


 俺の指摘に対し、相沢は大げさなリアクションをとった。


「にしても、午前中の授業終わってすぐに来たのに割と人がいるよな。皆考えることは同じか」


 明日から中間考査が始まるので学生が多い。家で勉強ができるわけもなく、コスパが良い勉強場所を求めてフードコートに集まるのは自然の流れだろう。


「よく見ると、うちのクラスの生徒とかもいるもんな」


 相沢に言われて周囲を見ると、学園の生徒たちが多数いる。そんな中、一際目を惹く集団がいた。


「おっ、渡辺さんだな」


 割と遠く離れた場所に女子三人で勉強をしている姿を発見する。渡辺さん。石川理恵。沢口真帆。


 最近、教室内でも噂されているようで、全員目を惹く容姿をしている。


 そんな目立つ三人だからこそ、周囲で勉強している学生もチラチラと彼女たちに視線を送っていた。


「いやー、眼福だ。勉強に疲れた目の保養になるぜ」


 相沢は集中力が切れたのか、ストローを吸い炭酸飲料で喉を潤す。


 彼女たちは周囲の視線に気付くことなく談笑している。教科書やノートをテーブルに広げてはいるが、あれでは勉強が捗らないのではないか?


「自信がないというから一緒に勉強してるんだろ。やる気がないなら俺は帰るぞ?」


「冗談だって! 赤点だと練習に参加させてもらえないんだ。頼むよ!」


 俺が冷めた目で見ると相沢はペンをとり勉強の続きをする。俺は溜息を吐きつつ自分も試験対策を再開した。




「ふぅ、疲れた」


 鏡の前に立ち手を洗う。

 あれから二時間ほど勉強していたのだが、流石に集中力が切れた。


 休憩したかったので、荷物を相沢に見てもらい、用を足しに来たわけだ。


「俺も成績落とすと親父から怒られるからな」


 ゴールデンウィークがほぼ好天に恵まれていたので、毎日釣りをしていた。

 結果として勉強がおろそかになっていたので、意外と集中して勉強できるこの機会はありがたい。


 ある程度の成績を維持することが自由に釣りをする条件だから。


「あと30分もやれば試験範囲は終わるかな」


 手を拭きながらトイレから出ると……。


「あっ!」


 思わぬ人物と遭遇する。先程、遠巻きに姿を確認した渡辺さんだ。


 彼女も所用があったのか出口から出てきたばかりで、ここで俺をばったり遭遇するとは夢にも思っていなかったのか驚いた顔をしている。


 互いに想定外の事態に立ち止まる。

 最後に話したのは、図書室から昇降口まで帰った時。その後連休を挟んだこともあってか、互いの関係はほぼ初期までリセットされているはずなので、何と声を掛けて良いかわからない。


 ひとまず無難に会釈だけして立ち去ろうと考えていると……。


「結構、陽に焼けたんですね」


「ああ、うん。連休が釣り三昧だったから……」


 まさか話し掛けてくるとは思わなかった。彼女との接点は釣りの時と告白の時の二回のみ。こちらから積極的に話し掛けたわけでもないし、その後のことを考えるなら存在を忘れられていてもおかしくない。


「何が釣れたんですか?」


 だというのに、渡辺さんはまるで友人に接するかのように笑顔を俺に向けてくる。


「えっと、今回もアジとサバがメインだけど……少しだけ小型のキスも釣れたかな」


「キス……?」


 自然な動作なのか、彼女は右手で唇に触れる。思わず視線が誘導された俺は、渡辺さんの放った言葉と彼女の唇に視線を向けてしまいドキリとした。


「お、お蔭で勉強をあまりやってなくてさ。今日は相沢と一緒に勉強してるんだよ」


 意識していることに気付かれないよう、俺は話題を変えた。


「やっぱり、この前みたいに料理したんですか?」


「えっ……ああ、サバは生だと駄目だから味噌煮にしたし、キスはてんぷらかな? もっと大きいのだと刺身でもいけたんだけどな」


 この前というのは中庭での弁当のことを言っているに違いない。

 俺が連休中に釣った魚で作った料理を思い出すと、口の中に唾がたまるのがわかった。


 彼女は俺の説明に頷くと興味深そうな反応を示す。聞き上手な人間と言うのは会話を流しているのを相手に悟らせないというが、渡辺さんに説明するといつも饒舌になる自分がいた。


「あっ、ごめん。相沢待たせてるから戻らないと……そっちもだよね?」


 このトイレがある場所はフードコートの死角になっている。俺の方は荷物を見てくれているから相沢がくることはないが、渡辺さんの様子を見に女子の片方が来る可能性があった。


 こんなところを目撃されては、彼女にいらぬ手間を掛けさせることになるだろう。

 そう考えて、席に戻ろうと背を向けると、


「ま、待ってください」


 渡辺さんから静止の声が聞こえた。


「ど、どうしたの?」


 先程までの彼女ではなく、顔を赤くして上目遣いをしており、どこかおどおどしている。


「しゅ、週末の予定って空いてますか?」


「うーん、今週末は天気も良いし釣りかな?」


 県をまたぐことになるのだが、とある漁港で大漁が発生しているらしい。機を逃してしまうと釣れなくなる可能性があるので、這ってでも行くつもりだった。

 俺がそのことを告げると……。


「それっ! 私も連れて行ってもらえませんか?」


「はい?」


 彼女の申し出に、俺は思考がフリーズするのだった。


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