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プロローグは魅力的なお品書きと共に

 天にまたたく無数の星々。

 まばゆい星のそばでは小さな星は霞んでしまい、まるでそこにいないかのよう。

 儚い星のまたたきは届かないものだと、いくら手を伸ばしても無駄なのだと。

 視えるものから目をそらし続けたまま、いつの間にか大人になってしまっていた。


 セフィーナにとってまばゆい星とはリデッドのことだ。

 身分違いにもほどがあるのに、こうしてそばにいられるのは上司と部下という関係があるから。

 そんな麗しの上司を前にして、セフィーナはくだをまいていた。


「仕事、辞めたくないよぅ〜……せっかく居場所ができたと思ったのに……」


 あおったグラスをテーブルにどんと置き、勢いそのままテーブルの上に突っ伏す。

 貴族の令嬢である前に人としてどうかという振る舞いではあるが、傍らのリデッドが意に介した様子はなかった。


「お見合いなんてしたくない。まだまだ仕事続けたいし、オリガやセルゲイや室長や、みんなと離れるのは嫌だよぅ……」

「うんうん。何度も同じことを言うくらい嫌なんだね」


 リデッドは嫌な顔をするどころか、どことなく上機嫌ですらある。

 少ない明かりに浮かび上がる白金の髪に紺碧の瞳。髪をかき上げる仕草だけでもさまになるリデッドに比べ、セフィーナは地味だった。

 切り損なった長い栗色の髪をひっつめ、榛色の目を隠すようにかけられた眼鏡がまたパッとしない印象を与えている。


「ではセフィーナ嬢。ここはひとつ、契約結婚をしてみないかな?」

「…………は?」


 幻聴かな?


 セフィーナは顔を上げ、横に座るリデッドをまじまじと見つめる。


「今、契約結婚、と聞こえましたが」

「そうだよ」

「ええと、誰と誰が?」

「もちろん、僕と君が」

「………………えぇ……?」


 本気で言っているのだろうか、この人は。

 予想だにしない展開に酔いが一気に吹っ飛んでいった。


「驚くのも無理はないけれど、君にとって悪い話じゃないと思うよ。君の家への資金援助は約束しよう。もちろん仕事は続けてくれて構わない」


 あ然とするセフィーナを見つめるリデッドの表情は穏やかで、まるで仕事の話をするかのようだ。


「住むところは侯爵邸(僕の家)になるけれど、不自由がないよう取り計らうよ。夫人としての社交がしたくないのであればしなくてもいい」

「はぁ……」


 聞けば聞くほど魅力的なお品書きだ。

 酔いが覚めた頭で要素を並べたてたところで、はた、とセフィーナは我に返った。


「……あの、どうしてそこまでしてくださるんですか? そんなの、室長にメリットなんてないんじゃ……」

「あるよ。君はここの優秀な薬剤師だからね。辞められるのは困る。それに僕も三十を前にしていい加減身を固めろと口うるさく言われていてね。今の仕事に理解ある人がいいのだけど、そんな人なかなかいないだろう?」

「…………利害の一致、ですか」

「話が早くて助かるよ」


 微笑むリデッドからは後光が差しているように見える。


 ――これは夢だ。

 夢でないとこんなうまい話、考えられない。

 ……でも、夢であるなら、その手を取ったっていいじゃないか。


 眩しくて、非の打ち所のない、憧れの存在。

 そんなリデッドから差し出された手を、セフィーナはおそるおそる握りしめた。





本日三話更新します。続きはお昼。

完結したものを平日毎日更新します。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです!

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