1-06 正体
公開予定の五作品の内の第一作目となります。
コンセプトとしては『近未来』×『SP』のローファンタジーです。
襲撃犯による奇襲から僅か三分。
俺は襲撃犯に対し逆関節を決め、倒れた奴の首を上から押さえつけることで
完全に動きを封じることに成功した。
「グッ……」
関節を締め上げる力に、抑えつけた奴の口元から短く苦痛の声が漏れ出る。
どれだけ身体を鍛え上げようと、どれだけ痛みに強かろうと、
相手が人間である以上この状況から脱出することはほぼ不可能である。
相手もそれを判っているのだろう。
もう既に奴の身体に無駄な力は入っていないなかった。
「顔を見せてもらうぞ」
俺は組み伏せたままそっと奴のフードに手を伸ばす。
スルリと厚手の布が剥がされ、襲撃犯の素顔が露になる。
「なっ――――!」
そのフードの中身を見て、思わず驚きの声が口を突いた。
「何故お前がここに……」
襲撃犯の正体――――
それがミサの従者である、藤咲ゆかり本人だったからである。
彼女は窓から差し込む月明かりに顔を照らされながら、
その殺意とは縁遠いような透き通った瞳でこちらを見つめる。
「まさかこの私がこんなに早く制圧されるとは思ってもみませんでしたよ」
素直な賞賛を口にする藤咲。
俺はそんな彼女の態度に納得がいかず、顔を顰める。
「質問に答えろ。何故ミサの従者であるお前が俺を襲う?」
「ミサ様の為です」
「――――なに?」
「正確に言うならミサ様のご命令です」
「は?」
「(聞き間違いか……? この襲撃がミサによる指示だと……?)」
「何を世迷言を」
「世迷言ではございません」
「なら根拠は何だ。何故ミサがそのような命令を出す?」
「…………」
そこで初めて藤咲の言葉が詰まる。
「なんだ言えない理由でもあるのか?」
「いえ、ただ…………こればかりは本人から告げるべきかと」
「俺に今の妄言を信じてミサに同じ質問を投げかけろと?」
「そうではありません。わたくしからミサ様に事情をご説明します」
「俺がお前を開放すると思うか?」
「いいえ。ですからここで私の腕を折るなりしていただいて結構です。
諏訪様にはそれをする権利がございます」
「ほう、権利ね」
それはまるで殺される以外なら何をされてもいいという風に聞こえる。
それほどまでにこの状況に観念したのか。はたまた油断を誘うためか。
「…………」
彼女の腕を締め上げる力を緩めることなく逡巡する。
襲撃からもうすぐ五分。襲撃犯が他にいる可能性も考慮しここで藤咲を拘束し、
ミサの元に駆け付けるのがベストな行動――――しかし。
どうにも俺にはこいつが嘘をついているようには見えなかった。
「他に襲撃犯は?」
「いません。わたくしのみです」
「どうやってこの部屋に侵入した?」
「屋根裏から。ミサ様とわたくししか知らない秘密の通路です」
「なるほど」
確かに屋根裏の僅かな隙間は警備システムの探知範囲外。
そこに通路などがあれば部屋間での移動は可能か。
「では最後に一つ聞く。お前にとってミサとはなんだ?」
「守るべき主人」
「――――そうか」
その答えに俺はそっと彼女の腕を離し、身体を押さえつけていた脚をどかせる。
しかし彼女はすぐには立ち上がらず、目をぱちくりとさせる。
「わたくしを信じるのですか――――?」
「悪いか?」
「滅相もございません。ただ多様なりとも痛めつけられるものと。
それに拘束の類も一切ないとは…………」
「なんだ、関節を締め上げられてまだ足りないとは。
随分とドМなメイドもいたもんだな」
「…………」
「冗談だ。ただもう手は出してくれるな。今度は俺も命がけで
止めなければならないからな」
「それに関してはわたくしも弁えております。ご安心ください」
「とはいえナイフは一応預かっておくからな」
そうして藤咲のナイフを取り上げる。
「さてではミサの元に案内してもらおうか」
「畏まりました」
ご閲読ありがとうございました。
これからも不定期ではありますがローファンタジーを中心に小説を投稿して
いきますので、応援よろしくお願いいたします。




