1-03 歓迎
公開予定の五作品の内の第一作目となります。
コンセプトとしては『近未来』×『SP』のローファンタジーです。
屋敷に到着後――――。
車を車庫に停め、ミサに続き玄関に向かう。
「はー」
パーティー会場のあったセントラルビルに続き、映画やドラマでしか
見たことのないような大豪邸に呆気に取られながらも屋敷内へ。
すると玄関を開けてすぐのエントランスホールでメイドらしき服装の女性
と目が合った。彼女は俺が来たことを確認すると粛々と頭を下げる。
「お待ちしておりました」
実に礼儀正しい洗練された、美しい所作に思わず目を奪われる。
礼節には礼節を。俺もまた彼女の前で姿勢を正す。
「初めまして。この度、ミサさんの警護官として任命されました
諏訪透次一級警護官です」
「これはご丁寧に。わたくし久世ミサの従者をしております
藤咲ゆかりと申します」
藤咲と名乗った彼女は顔を上げ切れ長の目でこちらを見つめる。
「久世グループ社長、久世勘司並びに特警局の方からも事情はお聞きしています。
どうぞこちらへ」
ミサとは違いかなり落ち着いた雰囲気で俺を屋敷の中へと案内する藤咲。
これでミサと同い年というのだから驚きだ。
そうしてエントランスホールから少し進んだところにあるリビングに通される。
するとそこには先に屋敷へと入っていたミサがテーブルに突っ伏していた。
「ゆかり~、遅いぞー」
「申し訳ありませんミサ様」
先程のパーティー会場とは打って変わり、ミサは気品とはかけ離れた態度に
ギャップを感じる。
しかし藤咲はその様子に動揺することなくそそくさとキッチンへと移動し
凄まじい手際でカップに紅茶を注ぎ、彼女の前に差し出す。
「お待たせしました」
「ありがとう」
ミサは差し出された紅茶に気を良くしゴクゴクと喉に流し込む。
「諏訪様もよければお飲みになりますか?」
「いいんですか」
「はい、どうぞお席の方へ」
彼女に勧められるがままにテーブルへと着く。
すると今日何度目かのミサの鋭い視線が俺を射抜く。
「いいの? 警護官が警護対象者と同じテーブルについて」
「いけませんでしたか?」
「いいえ別にー。ただゆかりの紅茶を飲んだら今日は大人しくしてることね」
車内でのトクサへの態度とは一転、やはり俺に対してはまだ口が悪いようだ。
警護嫌いということからも一日やそこらで距離が近づくことはないとは
分かってはいるものの――――。
できれば警護面での安全性を引き上げる為にも、互いに最低限の信頼関係は
築いていきたいところなのだが。
「(この様子だとそんな状況、一生来ないかもな…………)」
せめて俺が同姓ならもう少しくらいは歩み寄って来てくれたかもしれないが
こればかりは仕方がない。
「どうぞ、アールグレイです」
「ありがとうございます」
運ばれてきた紅茶から爽やかな柑橘系の香りが漂い、俺の鼻腔を刺激する。
そしてそのままそっとカップを持ち口元へ。
最初に仄かに爽やかな渋みと柑橘系の酸味が口の中に広がり、その後残った
渋みがゆっくりと舌の上で消失していく。
「――――美味しい」
「それは良かったです」
正直、紅茶はティーパックのを少し飲むくらいで、ほとんど飲みなれないもの
ではあったが――――なんというかこれはプロの味がした。
「お店で飲むものみたい」
「一応私の特技ですからね。それにほとんど毎日ミサ様が飲んでくれますから、
いやでも腕は上がります」
チラリとミサを見る。
確かに紅茶を飲んでる時の彼女はどこか心を落ち着いけているようにも見える。
紅茶にはリラックス効果があると言われているが、きっとミサは藤咲の
淹れる紅茶が好きなのだろう。
「ごちそうさま。ゆかりお風呂場にタオル用意しといて」
「畏まりました」
短いやり取りの後、ミサはリビングを出る。
その間にそそくさと片付けを済ませる藤咲を見ながら、
俺も残りの紅茶を飲み干す。
「では諏訪様、先に諏訪様のお部屋を案内したいのですが構いませんか?」
「ええ、お願いします」
そうして俺たちもまたミサに続き、リビングを後にした。
ご閲読ありがとうございました。
これからも不定期ではありますがローファンタジーを中心に小説を投稿して
いきますので、応援よろしくお願いいたします。